【2020新作時計】グランドセイコー 「スポーツコレクション スプリングドライブ 5 Days」

NEWSニュース
2020.03.09

グランドセイコーの新型キャリバーは、先日紹介した機械式のCal.9SA5だけではない。セイコーエプソンもまた、まったく新しいスプリングドライブのCal.9RA5をリリースした。搭載するのはダイバーズウォッチの「スポーツコレクション スプリングドライブ 5 Days」である。

スポーツコレクション スプリングドライブ 5 Day

グランドセイコー「スポーツコレクション スプリングドライブ 5 Days」Ref.SLGA001。
薄型高精度の新型自動巻きムーブメントを採用した新モデル。グランドセイコーのダイバーズモデルは、高級機らしくリュウズのチューブを交換できるにもかかわらず、600m飽和潜水を実現した。スプリングドライブ自動巻き(Cal.9RA5)。38石。パワーリザーブ約120時間。ブライトチタン(直径46.9mm、厚さ16mm)。600m防水。世界限定700本。グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン、グランドセイコーマスターショップ限定モデル。予価115万円(税別)。8月1日発売予定。
広田雅将(クロノス日本版):文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)

グランドセイコー
「スポーツコレクション スプリングドライブ 5 Days」

 機械式のCal.9SA5は、量産型自動巻きの最高峰を狙ったムーブメントである。生産性は高くなさそうだが、その代わり、理論上は極めて優れた精度を出すだろう。一方のCal.9RA5は既存の9Rのリプレイスを図った、次世代の基幹キャリバーと言える。

 地板を拡大してムーブメントを薄くするという設計思想は、9SA5にまったく同じだ。長らくムーブメントの薄型化から距離を置いてきたセイコーは、新しい9Sと9Rで、大きく方向転換を図ったのである。

9RA5

Cal.9RA5
スプリングドライブの新世代基幹機。9SA5同様、地板の直径を拡大し、自動巻き機構と輪列を同じレイヤーに置くことで、大幅な薄型化に成功した。時計の装着感も改善するため、重心を下げる設計も同様だ。サイズの違うふたつの香箱により、約120時間という長いパワーリザーブを実現した。高級機らしい、角の丸まった面取りにも注目。手作業と思いきや、機械仕上げとのこと。直径34mm、厚さ5mm。

輪列と自動巻きを同じレイヤーに置く設計思想

 9SA5に同じく、9RA5も、地板を拡大し、自動巻き機構と輪列を同じレイヤーに置くという最新の設計思想から生まれたムーブメントである。もっとも、マジックレバーを使う9R系は、コンパクトなリバーサーを用いる9SA5に比べて省スペース化を図りにくい。サイズが大きい上、レイアウトの自由度が極端に低いのである。

9RA5

薄型化の鍵となるのが、オフセットしたマジックレバー。理論上不動作角の大きなマジックレバーは、できるだけローターの回転をダイレクトに伝えるのが良いとされる。対してセイコーエプソンの技術陣は、薄型化のため、あえてマジックレバーをオフセットさせ、中間車を噛ませる設計を採用した。図が示すとおり、角穴車とマジックレバーは同じレイヤーに置かれている。

 対してセイコーエプソンの技術陣は、ムーブメントの中心近くに位置していたマジックレバーを、中心位置からオフセットさせ、ムーブメントの余白に埋め込むことで薄型化を図った。可能にしたのは、拡大された地板である。

省スペース化を可能にしたデュアルサイズバレル

 加えて約120時間という長いパワーリザーブを得るため、9RA5は、9SA5同様のダブルバレルを採用した。しかし、同じサイズの香箱を並列につなぐのではなく、サイズを変えた香箱をつないだ「デュアルサイズバレル」としている。トルクの計算は難しそうだが、既存のダブルバレル以上の省スペース化が図れる。このムーブメントが、薄くなった一因である。

9RA5

 加えて、香箱を止めるコハゼを廃止することで(!)、さらなるスペースの捻出に成功した。ふたつの香箱の間に見える半月状の部品が、コハゼの代替品となる部品である。

 しかし、このムーブメントは、単に薄型化だけを狙ったわけではない。ムーブメントの中心に輪列をまとめ、その上から、一枚の受けでカバーする「ワンピースセンターブリッジ」を採用することで、ムーブメントの剛性と耐衝撃性能を高めている。既存の9Rが複数のブリッジで部品を支えていたことを考えると、理論上の耐衝撃性能は、大きく高まったと考えられる。このムーブメントを初めて載せるモデルに、ダイバーズウォッチを選んだのは納得だ。

9RA5

今までのセイコーならば、薄さ5mmの自動巻きをダイバーズウォッチに載せようとは考えなかっただろう。しかし、9RA5は耐衝撃性を高めるため、薄型自動巻きらしからぬ設計を持っている。それが、一枚の受けで輪列をカバーするワンピースセンターブリッジ。コイル、ローター、ICをのぞくほとんどの部品を覆っている。

9Fクォーツの技術を転用した高精度化

 精度もわずかながら改善された。既存の9R系は、主に水晶振動子の選別により、月差±15秒という精度を実現していた。対して9RA5の精度は、月差±10秒。精度を高めるために、水晶振動子には、一定の電圧をかけて経年変化を与える3カ月間のエージング工程を経て、性能が安定したもののみを選別。また、温度センサーを内蔵した新規開発のICと水晶振動子をひとつの真空パッケージに内蔵した。

 セイコーエプソンの説明によると、内蔵されたセンサーは、1日に540回の温度測定を行うとのこと。簡単に言うと、9Fクォーツに投じられた高精度化の技術を、さらに改良して転用したのが、9RA5と言えるだろう。正直、スプリングドライブの低い発電量で、まさか温度補正機能が載るとは思ってもみなかった。セイコーは9RA5の精度を月差±10秒と述べているが、実際の携帯精度は、もっと優れているのではないか。

スポーツコレクション スプリングドライブ 5 Days

文字盤違いの国内限定モデルがSLGA003。セイコーフラッグシップサロンと、国内のグランドセイコーブティック専用モデルである。国内限定60本。価格を含め、基本スペックはSLGA001に同じ。

 また、耐磁性能を強化することで、既存のスプリングドライブには必ず付いていた、耐磁板を省けるようになった。ムーブメント自体は大きくなったが、耐磁板がない分、ケーシング時の直径は、既存の9Rに同じとのこと。つまり、9RA5は、既存の9Rをそのまま置き換えられるのである。

類を見ない、丸みを帯びた面取り仕上げ

 9RA5の見どころは他にもある。既存の9R系は、受けの上面にバイト痕の強い筋目仕上げを加えていた。対して9RA5は、繊細な梨地仕上げ。詳細な手法は教えてくれなかったが、量産品としては最も優れたもののひとつだろう。また、ムーブメントの面取りも、いかにもダイヤモンドカット風の平たいものから、丸みを帯びた形状に変更された。普通、丸みのある面取りは手作業でしか施せない。

 しかし、エプソンの技術陣は「新しい手法」により、手作業のような、丸みのある面取りを与えてみせたのである。筆者の知る限り、これは世界で初めての手法だ。また、地板の一部仕上げには、ペルラージュとも異なる、ユニークなランダム仕上げが施された。

9RA5

 9SA5同様、デザイナーの手が加わった見応えのあるムーブメントとなった9RA5。もっとも、このムーブメントを搭載するスポーツコレクション スプリングドライブ 5 Daysはソリッドバックのため、残念ながらムーブメントの優れた仕上げを見ることは不可能だ。

 薄さと堅牢さの両立だけでなく、さらなる高精度化と、いよいよ高級機らしい仕上げを得た9RA5。今後、スプリングドライブ搭載機は、これが基幹キャリバーになっていくのではないか。このムーブメント及び搭載するスポーツコレクション スプリングドライブ 5 Daysについては、今後、『クロノス日本版』本誌でもその詳細を追っていく予定である。


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グランドセイコー、超高精度の新型ムーブメントを搭載した新型モデルを発表(2020.03.09)

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