【2022年 新作】50周年を迎えたオーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」、モデルチェンジでどう変わった?

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2022.04.11

2022年、初代モデルの誕生から50周年を迎えた、オーデマ ピゲを代表するモデル「ロイヤル オーク」。50周年モデルとして一斉にモデルチェンジを行ったが、これまでと変わった点はどこなのか。今回は、実機を触る機会を得た『クロノス日本版』編集長 広田雅将が、4本のモデルをピックアップして押さえるべきポイントを語る。

ロイヤル オーク

広田雅将(クロノス日本版):文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)

ロイヤル オークに施された“穏やかな”改良

今年、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」が発表から50年を迎えた。それに伴い、同ブランドはロイヤル オークのモデルチェンジを行った。すでに一部の人の手元には渡っていると思うが、改めてその概要を述べたい。ちなみに筆者は、ひと通り新作を触る機会を得た。

 2022年のロイヤル オークは、基本的に既存のモデルと大きく変わっていない。特徴的なスタイルも、傑出した外装の仕上げも同じだ。もっとも、外装のクオリティーは、10年前のものはもちろん、5年前のものと比較しても向上している。具体的は、均一に施された筋目は変わっていないが、よりエッジが明瞭に立つようになったのである。

ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン

 2022年の“新しい”ロイヤル オークとは、そういった進化を背景にしたものだろう。直径39mmの「エクストラ シン」を除いて、ケースの斜面に施される面取りが深くなり、時計の立体感はわずかに強まった。また、多くのモデルが、プリントしたロゴから、24Kゴールド製のアプライドロゴに変更された。これは「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」に準じたもの。併せて、インデックスのファセットが強調され、やはり時計全体の立体感を強めている。

 ロイヤル オークのRef.15500がリリースされた際、オーデマ ピゲは、ベゼルを絞り時計をモダンに見せるというアプローチを取った。対して2022年のモデルチェンジでは、バランスを旧に戻し、その一方で、時計全体の立体感を強めるという方向性を取った。個人的な意見を言うと、この“穏やかな”改良は、ここ数年のモデルチェンジの中で、もっとも妥当なものに思われる。少なくとも筆者は好みだ。

ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン

 穏やかな変化はブレスレットにも見て取れる。一体型ブレスレットの初段から4コマは、厚みを抑えられたほか、すべてのコマが薄く軽くなった。わずかな違いではあるが、装着感は向上している。最も筆者は、重い18Kゴールドモデルを試していないので、装着感に関する印象は、ステンレススティールモデルに限ったものだ。細腕の人にとって、ロイヤル オークとはいささか付けるのが難儀な時計だった。ただ触った印象でいうと、2022年版は、ずっと“気楽”になった。

 文字盤も進化した。全面に施された「プチタペストリー」または「グランドタペストリー」仕上げは従来に同じ。ただし、ロイヤル オークではおなじみの“ナイトブルー、クラウド50”カラーは、メッキからPVD仕上げに変更された。正直、今から5年以上前のロイヤル オークは、この“ナイトブルー、クラウド50”の色味が安定しなかった。メッキで仕上げるため、ロットごと仕上がりにばらつきが出たのである。しかし、PVD処理に変更することで、理論上はばらつきがなくなるだろう。以前のロイヤル オークは、実物を見ないと怖くて買えなかったが、PVD仕上げの文字盤であれば、写真そのままの仕上がりを期待してよい。

ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン

 新しいロイヤル オークのケースサイズは、34mm、37mm、38mmと41mm。また、今年販売される37mmと41mmの自動巻きとクロノグラフに限り、22Kゴールド製でできた「50周年記念」のローターが採用された。


安定した装着感をもたらす、ロイヤル オーク 37mm(Ref.15550)

2022年の個人的なイチオシは、新たな37mmサイズである。傑出した仕上げと、適度なサイズ感を持つ本作は、細腕の男性にも、あるいはマッシブな時計を好む女性にも似合う。搭載するのは、自社製のCal.4300系ではなく、ヴォーシェベースのCal.5900だ。時計好きであれば、そのソフトなジュネーブ仕上げを見れば、ヴォーシェであることはわかるかもしれない。

 この自動巻きは、Cal.4300/4400系ほど凝った構成は持っていない。MPS製の傑出した両方向自動巻き機構を持つ4300/4400系に対して、本作はCal.5800系(こちらもヴォーシェベースだ)に同じく、片方向巻き上げ自動巻きを備える。もっとも、片方向巻き上げであれば、デスクワークでもよく巻き上がるだろう。

ロイヤル オーク オートマティック 37mm “50周年記念”

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク オートマティック」
 自動巻き(Cal.5900)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径37mm、厚さ8.9mm)。50m防水。280万5000円(税込み)。

 実物を触った印象を言うと、ローターの空転時も不快な振動と音はよく抑えられていた。また、テンプが5800系に同じく、両持ちに変更された。もちろん、緩急針を持たないフリースプラングテンプ付きだ。2万8800振動/時という相対的に高い振動数と併せて、携帯精度は改善されている、と予想できる。後述する「エクストラ シン」同様、オーデマ ピゲは新しいロイヤル オークをよりタフなものにしたかったのだろう。

 なお、以前の37mmモデルに対して、ケースは0.9mm薄くなった。わずかな違いではあるが、装着感にうるさい人にとって、この変化は歓迎されるだろう。41mmモデルも素晴らしいと感じたが、細腕の筆者は37mmを選びたい。


クロノグラフ、マニア向けの38mm(Ref.26715)と、正統派の41mm(Ref.26240)

 2022年のロイヤル オークは、複数のサイズを設け、全方位に抜けのないラインナップをそろえている。それを象徴するのが、38mmサイズと41mmサイズのクロノグラフだ。

ロイヤル オーク クロノグラフ 41mm “50周年記念”

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク クロノグラフ」
 自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.4mm)。50m防水。390万5000円(税込み)。

 性能だけを言えば、41mmサイズ一択である。大きなテンプと、高い振動数、そしてフライバックを強化した4400系は、基礎設計が大変に良い。筆者は実際に使ったわけではないが、MPSのコンパクトで高効率なリバーサーは、巻き上げ効率にも優れているはずだ。実際、筆者の周りで、巻き上げに対する不満を聞いたことはない。

 対して38mmは、フレデリック・ピゲの1185をベースにした、Cal.2385を載せている。パワーリザーブは約40時間しかないし、振動数も2万1600/時だ。巻き上げは、ヴォーシェベースの5800や5900に同じく片方向。しかし、いまもって“純血”の1185系を買えるというのは、貴みがある。

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク クロノグラフ」
 自動巻き(Cal.2385)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径38mm、厚さ11mm)。50m防水。374万円(税込み)。

 ムーブメントオタクならば、2385を載せたロイヤル オークは選ぶ価値がありそうだ。ちなみに38mmのクロノグラフは、裏がソリッドバックである。筆者のような、いわゆる「裏スケ」を好まない人たちにとっても、本作は選ぶ価値があるだろう。


これは使えるかもしれない、新しい“ジャンボ”エクストラ シン(Ref.16202)

永遠の定番とも言える“エクシン”にも手が加わった。デザインは既存のモデルに同じ。しかしムーブメントが新しいCal.7121に変更された。

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン」
自動巻き(Cal.7121)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径39mm、厚さ8.1mm)。5気圧防水。385万円(税込み)。

 前作の載せていたCal.2121は、クロノス日本版でも称賛してきた、自動巻きの傑作である。2番車とローターの真をセンターに置きながらも、日付付きで3.05mmという薄さを実現したこのムーブメントは、近代自動巻きが到達した極北、といって過言ではない。

 設計と製造がオーデマ ピゲに移管されて以降、同ブランドは脱進機を自社製の部品に変えたり、スイッチングロッカー自動巻きを改良するなどしてこまめにアップデートをしていた。とはいえ、基本設計を1967年にさかのぼるこのムーブメントは、最新型の自動巻きと比較すると、性能の面で見劣りがした。筆者はこのムーブメントが好きでいくつか買ったが、お世辞にも、巻き上げ効率が高いとは言い難い。

 新しいCal.7121とは、そういったCal.2121の弱点を丁寧に潰したムーブメントと言える。工芸的な魅力を持つCal.2121に対して、Cal.7121とは、良い意味で使える近代的なムーブメントとなった。サイズは前者が直径28.4mmで、厚さは3.05mm。対して後者は29.6mmと3.20mmである。

ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン

 大きな違いは、2番車の位置にある。2121ではセンターにあった2番車をオフセットさせることで、重いローターをベアリングで保持できるようになった。また自動巻き機構も、スイッチングロッカーから標準的なリバーサーに変更された。写真を見た限りで言うと、自動巻き機構は完全に新しいものだ。MPSのリバーサーは、厚みの関係で採用できなかったのかもしれない。ともあれ、こういった改良は、巻き上げ効率を可能な限り高めるためのものだろう。

 また、丸穴車と角穴車の間に挟み込まれるデクラッチは、薄型ムーブメントらしからぬ、かなりしっかりしたものになった。薄型ムーブメントにも関わらず、テンプの受けはなんと両持ち(!)。しかも、マスロットをねじ込んだテンワは、空気抵抗を減らす形状になっている。薄型ムーブメントで問題になりがちな、テンワの空気抵抗を、できるだけ減らそうとしているのがわかる。

 振動数は2万8800/時に増えたほか、パワーリザーブが約55時間に伸び、しかもようやく、日付のまともな早送り機構が備わった。Cal.2121系最大の問題だった、針を戻して日付を進めるという苦行から、ようやく開放されるわけだ。

触った印象を述べると、2番車がオフセットした輪列にも関わらず、Cal.7121は針合わせ時の針飛びがない。また、針合わせの感触は、正逆方向ともに極めて滑らかだった。もちろん、トルク抜けも皆無である。ベアリングで保持されるローターの回転音も静かで、それ以上に、日付を簡単に早送りできるのは大変に良い。

ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン

正直、新しい7121は、2121のような工芸品とは性格が異なる。しかし、この新しいムーブメントを載せたエクストラ シンは、普通のロイヤル オークと同じ気軽さで使えるはずだ。普段からエクシンを使いたい人であれば、間違いなく、新しいモデルをお勧めしたい。


どれも素晴らしいのだが、手に入るとは期待しないこと……

 ここで挙げた4本に限らず、新しいロイヤル オークはずば抜けて完成度が高い。価格を考えれば当然だが、さらに良くなった外装に加えて、普段使いできる性能が加わったのは歓迎すべき変更だ。新しいエクストラ シンは、その象徴と言える。

 では、良くなったから買いましょう、と言えないのがロイヤル オークの辛いところだ。現在、どのモデルも基本的には予約さえ不可能だ。また、予約した人であっても、いつ届くかわからない、というのが現状なのである。欲しい人は、時間をかけて待つしかないが、新しいロイヤル オークには、それだけの価値があると個人的には思っている。


Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000


2022年 オーデマ ピゲの新作まとめ

https://www.webchronos.net/features/78101/
バイカラーケースとグレートーンで纏められた新作「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ トゥールビヨン オープンワーク」


https://www.webchronos.net/news/69904/
ダイヤモンドで覆われたCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲの新作が登場

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