【93点】ロレックス/ オイスター パーペチュアル GMTマスター Ⅱ

FEATUREスペックテスト
2020.01.06

ロレックス

 高級腕時計ブランドの中で最も有名で、最も人気が高く、サブマリーナー、GMTマスターⅡ、コスモグラフ デイトナ、デイトジャスト、デイデイトなど、数多くのアイコンモデルを発表してきたウォッチメーカーとして知られている。これらは50年以上も前にリリースされたモデルだが、誕生以来、意匠がほとんど変わっていない。ドイツでは主にステンレススティールモデルが人気だが、他の国ではプレシャスメタルのモデルやダイヤモンド入りウォッチなど、より高価なモデルの人気も高い。ロレックスは搭載ムーブメントのすべてを自社製造しているが、常にさらなる改善を目指し、基礎研究に余念がない。ヘアスプリングの材料となる合金も独自に開発されたものである。

オイスター パーペチュアル GMTマスター Ⅱ

最新ムーブメント搭載の新しい青黒モデル

 ロレックスはパイロットのために開発されたプロフェッショナルウォッチ、オイスター パーペチュアル GMTマスター IIのステンレススティールモデルに、青と黒のセラクロムベゼルを備えた新型を投入。今回、クロノスドイツ版編集部は幸運にも、ジュビリーブレスレットと新型ムーブメントを備えたこの新作GMTマスター IIの初回供給分のひとつを検証する機会を得た。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
マルクス・クリューガー:写真 Photographs by Marcus Krüger
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto


ロレックス/オイスター パーペチュアル GMTマスター Ⅱ

point
・魅力的なデザイン
・高い加工品質
・さらに進化した自社開発ムーブメントを搭載

point
・入手困難
・トランスパレントバックではない

 2018年に赤青ベゼルが新たに発表されたことで、今やロレックスで最も人気の高いモデルとなった「オイスター パーペチュアル GMTマスター Ⅱ」。19年はジュビリーブレスレットと新型ムーブメントという内容は引き継ぎ、新たに青黒ベゼルを備えた最新バージョンが市場に導入された。今回は幸運なことに、この新型GMTマスター Ⅱのドイツにおける初回供給分のひとつをテストする機会を得られた。

 同色ベゼルの先代モデルは、ロレックスで初めてツートンカラーのセラミックス製ベゼルを備えたモデルとして13年に登場した。それ以前には、このカラーコンビネーションは存在しなかったのである。なお、1955年に発表された初代GMTマスターは、赤と青の24時間目盛り入りのプレキシガラス製ベゼルを備えていた。

 当時、赤と青という色使いは、セカンドタイムゾーンのデイ/ナイト表示を明確に区別できるように選択された。というのもGMTマスターが発売された50年代には、ジェット旅客機の導入により大陸間の飛行時間が大幅に短縮され、大陸間運航そのものがより身近なものとなった背景があったのである。そして、大陸間運航の便数が増えるとともに、セカンドタイムゾーンの時刻表示を搭載した時計への需要も高まった。パイロットウォッチというオーラをまといながら一目でGMT機能が搭載されていることが分かる色使いも、当初、GMTマスターの名を高めるのに貢献した。なお、後には赤と黒色のベゼルを備えた、より控えめなモデルも登場する。

ロレックスはツートンカラーのセラミックス製スケールリングを自社製造できるまで決して諦めなかった。

 今日、GMTマスター Ⅱのステンレススティールモデルには、ベゼルの色の異なるふたつのバージョンがある。『クロノス日本版』第79号で紹介した赤青ベゼルモデルと今回テストした青黒ベゼルモデルである。両者とも、新型ムーブメントと5列リンクのジュビリーブレスレットを備えているのが特徴だ。ジュビリーブレスレットは2018年より前まで標準仕様ではデイトジャストにしか使われておらず、GMTマスター Ⅱにはスポーティーな3列リンクのオイスターブレスレットが装備されていた。

 なお、3列リンクのオイスターブレスレットは現在、GMTマスター Ⅱでは18Kホワイトゴールドモデルと18Kエバーローズゴールドモデル、もしくはオイスタースチールとエバーローズゴールドのロレゾールモデルに装備されている。ジュビリーブレスレットは、ロレックスが1945年にデイトジャストのために開発したものだが、その後、GMTマスターにも59年以降、オプションとして提供されていた。GMTマスター Ⅱのオイスターブレスレットはこれまで通り、中央のリンクにはポリッシュ仕上げが、外側のリンクにはサテン仕上げが施されている。

 各リンクに丸みを持たせたオイスターブレスレットの装着感は快適だったが、ジュビリーブレスレットも着用感が極めて心地よい。ひとつひとつのリンクが小さいことから手首の形状によくなじみ、腕の毛が挟まることもないのだ。ブレスレットとケースの素材はこれまで通り、耐食性に優れる904Lステンレススティールである。ロレックスはこの最先端の合金を「オイスタースチール」と呼んでいる。

安全に留まるクラスプ

 GMTマスター Ⅱのジュビリーブレスレットはデイトジャストに用いられているものとは異なる。というのも、デイトジャストではオイスタークラスプを備えているが、GMTマスターⅡはプロフェッショナルモデルで通常装備されているオイスターロッククラスプが採用されているのだ。このクラスプはセーフティーキャッチを備えている点を除けば、オイスタークラスプと外観がとてもよく似ている。しかし、オイスターロッククラスプにはブレスレットを約5㎜延長できるイージーリンクという非常に実用的な機能も備わっているのだ。この機能は、気温が高い時やスポーツをする際に手首が若干むくんだ場合などに、クラスプからエクステンションリンクを取り出すだけで外観をほとんど変えることなくブレスレットを長くできるのでとても便利である。

 ジュビリーブレスレットのクラスプは、加工の点でも操作性においても非常に優れている。ロレックスの王冠が配されたセーフティーキャッチを開けると、クラスプを簡単に開くことができるのだ。しかし、セーフティーキャッチを閉じておけばクラスプが不用意に開いたりすることはない。

エレガントな印象のジュビリーブレスレットは、利便性の高いセーフティーキャッチ付きオイスターロッククラスプを備えている。イージーリンクにより、工具がなくても簡単にブレスレットを延長することができる。

 巻き上げ用のリュウズも操作は明快だ。時計の巻き上げおよび時刻調整のためにはねじ込み式のロックを解除する必要がある。それでは、リュウズの各ポジションでの針の動き方を見ていこう。まず、ロックを解除し、リュウズを引き出していない状態では巻き上げを行うことができる。次に1段引き出したポジション。ここでは別のタイムゾーンの時刻に合わせるため、時針のみを1時間刻みで前後に動かせる。この時、日付も連動して進めたり、戻したりすることが可能だ。ただし、日付のみを単独で調整することはできない。リュウズを2段引き出したポジションでは、分針および分針と連動している24時間針と通常の時針を修正することができる。この時計では、時針でローカルタイム(目的地/滞在地の時刻)を表示し、24時間針はホームタイム(出発地/本拠地の時刻)か、パイロットにとって重要なGMTの表示に使うのが有用だろう。

 ロレックスのGMTマスター Ⅱはこのように、トラベルウォッチとして実際に使える機能を搭載した腕時計である。市場には、セカンドタイムゾーン表示を搭載していても、旅行時にはあまり実用的ではない24時間針のクイックコレクト機能しか搭載されていない時計もある。

 GMTマスター Ⅱでは、1時間刻みでしっかりと噛み合う24時間表示のベゼルを使用して、別のタイムゾーンを一時的に設定することもできる。この機能は、例えば、ドイツにいてアメリカの会社と仕事をする場合など、現地の時刻を24時間制で素早く知ることができて便利である。GMT針が知りたいタイムゾーンの時刻を表示するようにベゼルを回すと、ビジネスパートナーに連絡が取れる時刻か否かが、いつでも確認することができる。よく連絡を取る国との時差さえ頭に入れておけば、GMTマスター Ⅱのタイムゾーン機能はこのように、極めて実用的なのである。

ロレックスの研究成果

青黒ベゼルのスケールリングの青の色調は赤青ベゼルモデルとは明らかに異なる。そもそも焼成する素材が違うため、不思議ではない。

 1955年のオリジナルモデル誕生当時、回転ベゼルはプレキシガラス製が用いられ、赤と青の色と白いスケールは裏側からプリントされていた。その後59年に改良され、2005年まで、ベゼルにはアルミニウムが使用されていた。なお、この時の赤と青はアルマイト加工によって得られたものである。その後、スケールリングは酸化ジルコニウムのセラミックスで作られるようになったが、これは色の問題を伴っていた。ツートンカラーのスケールは技術的に実現不可能とされていたため、当時は1色のベゼルしかラインナップされていなかったのだ。だが、ロレックスはツートンカラーのセラミックス製スケールリングを自社製造できるまで決して諦めなかった。ロレックスは諦めることなく研究を続け、13年にセラミックス製の青と黒、2色のベゼルを持つ先代モデルを完成させ、その努力が結実した。ワンピース構造のベゼルを作るために自社開発された、ロレックスの特許技術でもあるこの手法では、焼結する前にベゼルの半分に金属塩を塗布し、1600℃に設定された焼結炉の中で24時間以上焼結させると、色が定着する。

ベゼルの色の変わり目に注目してディテールを見れば、ツートンカラーのセラミックス製ベゼルが、色の異なるふたつのセラミックスを組み合わせたのではなく、一体型のセラミックス製ベゼルリングであることが分かる。

 だが、これですべてが解決したわけではなかった。鮮やかな赤を出せる鉱物性顔料がなかったため、赤がどうしても作り出せなかったのである。赤青ベゼルモデルを実現するため、ロレックスは長年にわたる研究の末、酸化アルミニウムをベースとしたセラミックスを採用し、酸化クロムと酸化マグネシウム、レアアース系酸化物を混合した。発色の良い赤のセラミックス製ベゼルはこうして生まれたのである。そして青い色を出すためには、焼結する前に、ベゼルの半分に金属塩を含んだコバルト水溶液を浸透させておく。

 青黒ベゼルモデルと赤青ベゼルモデルの回転ベゼルのスケールリングはそれぞれ、酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムという異なる材料をベースとしており、これが青の色調が異なるゆえんである。今回のテストウォッチでは、新しい赤青ベゼルモデルよりも青が格段に鮮やかな印象だが、光の条件によって見え方が変わることと赤青ベゼルモデルでは特にそうだが、ベゼル自体に個体差があることを指摘しておきたい。

 これらの材料は両者とも焼結によって収縮するので、回転ベゼルのスケールリングを大きめに作った後に焼結し、硬い工業用人工ダイヤモンド製バイトで精密な形状に加工しなければならない。そしてセラミックス製ベゼルの数字は長い年月を経ても消えずに明確に認識できるように、スケールリングには全体的にプラチナでPVDコーティングした後、ポリッシュする。人工ダイヤモンド製バイトで切削された数字とポイントマーカーのくぼんだ部分だけにプラチナが留まるようにするためである。これらの手法はいずれもロレックスが特許を取得している。セラミックス製ベゼルは傷に強いだけでなく、紫外線の影響を受けにくく、色褪せることも少ないのが特徴である。アルマイト加工でベゼルリングを着色していた時期のモデルは、時間が経つことによって色褪せてしまったものが見受けられたが、この問題もロレックスは解決したのだ。

長くなったパワーリザーブ

 赤青ベゼルモデル同様、新しい青黒ベゼルモデルにもタイムゾーン表示機能を備えた新型ムーブメント、キャリバー3285が搭載されている。クロノグラフを除き、ロレックスのすべての自動巻き腕時計には、キャリバー31系シリーズ(旧型バージョン)、あるいは、パワーリザーブが約48時間から約70時間に向上した新型ムーブメント、キャリバー32系シリーズが採用されている。前作が搭載していたキャリバー3186に比べ、新型ムーブメントで改善された点として挙げられるのは、ローター部にスライドベアリングではなくボールベアリングが採用されている点だ。ロレックスが自社開発した、衝撃を和らげると同時に復元力にも優れているパラフレックス ショック・アブソーバも引き続き採用されている。

Cal.3285

約3日間のパワーリザーブを備え、改良された脱進機構とボールベアリングで支持されるローターを持つ新型ムーブメントCal.3285。

 そしてユーザーにとっての最大のメリットは、より長くなったパワーリザーブ(機械式時計の駆動時間)だろう。これまでおよそ2日間だったパワーリザーブが、今回はほぼ3日間にあたる約70時間に延長された。これには、効率が約15%高くなったクロナジーエスケープメントが大きく貢献している。クロナジーエスケープメントを構成するアンクルとガンギ車は、形状が見直された。また、電解メッキで微細加工を行うLIGAプロセスによってガンギ車をスケルトナイズされた状態に仕上げることで、一層の軽量化が実現している。さらに、原料であるニッケルとリン合金により、磁気の影響を受けにくいという恩恵を得たことも大きなメリットである。

 その他の長所は、ロレックスのムーブメントではよく知られたものである。片持ちのテンプ受けではなく極めて頑丈な両持ちのテンプ受けや、常磁性を持つニオブとジルコニウム、そして酸素の合金、パラクロムで出来たブルーのヘアスプリング、バランスホイールに装備されたマイクロステラ・ナットで歩度の微調整を行うフリースプラング式などを採用している点だ。ムーブメントは専用ツールを用いれば、ケースから取り出すことなく微調整することができる。

 ロレックスはムーブメントの精度、耐久性、堅牢性において、常にさらなる改善を目指し、研究を続けている。装飾についてはトランスパレントバック化されていないため、残念ながら所有者がムーブメントの仕上げを見て楽しむことはできないが、サンバースト仕上げなどは施されている。とはいえ手彫りのエングレービングまでは期待してはならない。ちなみに、中身が新型ムーブメントであることは、文字盤のディテールでも確認することができる。「SWISS MADE」のふたつの単語の間に極めて小さなロレックスの王冠マークが配されていれば新型ムーブメントの32系シリーズが搭載されているのだ。

 ロレックスでは常のことだが、新型ムーブメントもスイス公認クロノメーター検査協会(C.O.S.C.)が行う過酷な温度環境やさまざまな姿勢におけるテストで、高い精度を証明している。またそれだけに留まらず、ロレックスは精度基準を独自に設定している。これは平均日差をマイナス2秒からプラス2秒以内に収めるという、C.O.S.C.認定クロノメーターに比べてさらに厳密な精度を求めるものだ。歩度測定器では、今回のテストウォッチはこの高い期待に応えてくれた。計算上の平均日差はわずかマイナス0.5秒/日、日差は6つの姿勢すべてにおいてマイナス2秒からプラス2秒以内で、最大姿勢差も4秒と、極めて小さい。さらに、水平姿勢から垂直姿勢への振り落ちも許容範囲内だった。

トランスパレントバックを採用していないロレックスだが、新型ムーブメントである32系シリーズが搭載されているかを見分ける方法が存在する。それがダイアル6時位置の「SWISS MADE」表記を見るというもの。この単語の間に王冠マークがしるされている場合、GMTマスター ⅡならばCal.3285が搭載される。

 GMTマスター Ⅱは税別88万8000円と、価格的にはミドルクラスに属す。市場には、セカンドタイムゾーン表示機能付きの自社製ムーブメントを搭載したモデルでもっと安価なモデルもあるが、もちろんこれよりも高額なモデルも存在する。とはいえ、価格と質を考えればGMTマスター Ⅱの競争力が高いのもうなずける。唯一残念なのは、発売開始以降、新作の供給数が限られているため、購入希望者は時計宝飾店で長い間、待つことを覚悟しなければならないことを強いられる点である。

 このように、青黒ベゼルを備えた新しいGMTマスター Ⅱのステンレススティールモデルはロレックスにとって大ヒット作となった。すでに古典的な名作として揺るぎない地位を得て久しい同モデルのデザインはGMTマスターが発売されてからの過去60年間でほとんど変わっていないが、決して古びて見えることはない。まさにタイムレスな外観を有していると言えよう。ベゼルを青と黒の2色で構成するテストウォッチは、色調が赤青ベゼルモデルよりも控えめで、スーツにも難なく合わせることができる。ジュビリーブレスレットとの調和も素晴らしい。ロレックスは術をさらに進化させ、パワーリザーブの長い新型ムーブメントを与えることで、真の意味での付加価値を創出したのだ。

 機能面でも、ブレスレットのエクステンションシステムやセカンドタイムゾーン表示など、他の時計メーカーよりもはるかに多くのものを提供している。また、精度、視認性、装着感、どれを取っても極めてレベルが高いことは、このテストを通して証明済みだ。あとは新型ムーブメントのキャリバー3285をケースバックから見ることができたら、どれほど幸せだろうか。

 最後に、ロレックスが需要を満足させられるほどに生産数を増やしてくれることを願うばかりである。