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A.ランゲ&ゾーネ/ランゲ 1(1/1) 2015年11月号(No.61)

A. LANGE & SÖHNE Lange 1

1994年のデビュー以来、
A.ランゲ & ゾーネのアイコンとなってすでに久しいランゲ1。
この偉大なる名作に今、
数多くの改良を加えた新型ムーブメントが与えられた。
ドイツの美しきアイコニックピースが
初めてのテストに臨む。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝: 翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・唯一無二のアイコン的意匠
・加工品質が極めて高い
・ハンドエングレービングを施したムーブメント

point
・高額
・完全無欠ではない精度

左:風光明媚。トランスパレントバックを通じて、繊細に装飾されたムーブメントを堪能することができる。
右:斑の入り方が美しいアリゲーター・ストラップとポリッシュ仕上げが施された完成度の高い尾錠は相性が抜群である。

ドイツのアイコン

A.ランゲ&ゾーネは、ドイツで最も高い名声を誇るマニュファクチュールである。その理由のひとつが、ブランドの歩んだ歴史にある。創始者のフェルディナント・アドルフ・ランゲは、ザクセンの小さな村、グラスヒュッテに時計工房を開き、青年たちが自立できるように鼓舞し、技術指導を行った。こうして、ひとつの貧しかった村に、後にその名を世界に轟かせることとなるドイツ高級時計産業の中心地が生まれたのである。

 旧東ドイツ時代、グラスヒュッテではどちらかと言えば簡素な時計が大量生産されていた。だが、1960年代の終わり頃になると、西ドイツでももはや機械式時計は作られなくなった。それだけに、ドイツ再統一後、かつての国営企業、GUB(グラスヒュッテ国営時計会社)が民営化されてグラスヒュッテ ・オリジナルとなり、機械式時計の自社製造を開始したばかりか、ノモスやミューレ・グラスヒュッテ、そして、A.ランゲ&ゾーネがグラスヒュッテで時計作りを再興したことは、時計の専門家や愛好家の間で大きな関心を喚起したのである。再興した数あるブランドの中で、A.ランゲ&ゾーネは、ムーブメントの装飾、時計とムーブメントの設計において、群を抜く存在だった。
 ランゲ1は、A.ランゲ&ゾーネが復興後、1994年に初めてリリースした4つのモデルのひとつである。また、ランゲ1は、今日までその姿をほぼ変えず、同じデザインで作られている唯一のモデルであり、クラシカルな気品を備えながらも、アシンメトリカルにデザインされたオフセンターのダイアルデザインによってその個性と主体性を顕示していることから、今ではA.ランゲ&ゾーネのアイコン的存在となっている。オフセットされたレイアウトだが、時と分、スモールセコンド、アウトサイズデイトの3つの表示要素の中心点を結ぶと二等辺三角形が形成されるように計算し尽くされており、極めて調和した印象を与える。どの表示も他と重なったり、あるいは他の表示を隠してしまったりすることはない。さらに、パワーリザーブ表示の目盛りが12時位置のブランドロゴと7時位置に配された文字をつなぎ、ケースの丸いフォルムを再現するようなラインを描いていることから、文字盤は空虚に見えることがなく、整然とした一体感が表現されている。当時まだ珍しかったアウトサイズデイトは、今日まで続くトレンドを生んだ。アイコニックピースは美しいだけではなく、比類なきデザインを備えていなければならない。A.ランゲ&ゾーネは、ランゲ1で見事にそれを実現したのである。
 A.ランゲ&ゾーネを成功に導いたランゲ1は、年月とともに独自のコレクションへと拡大を遂げた。これまで、ムーンフェイズをはじめ、タイムゾーン搭載モデル、トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダーなど、15ものモデルがランゲ1ファミリーから巣立っている。
 最初に発表されてから約20年を経て、今、ランゲ1に新しいムーブメントが与えられることになった。これまで搭載されていたキャリバーL901.0は、再興したA.ランゲ&ゾーネが手掛けた初めてのムーブメントである。今日まで数多くの魅力的なムーブメントが開発されてきたが、新型キャリバー L121.1は、マニュファクチュール、A.ランゲ&ゾーネが開発した50機目のムーブメントとなる。キャリバー名の最初のふたつの数字は開発が始まった年を示す。つまり、1990年に開発が始まった初代キャリバーと2012年に始まった新型キャリバーの間には、22年もの年月が流れているのである。
 初代モデルではクローズドバックだったランゲ1だが、1年後にはトランスパレントバックとなり、A.ランゲ&ゾーネが提供するあらゆる特徴を余すところなく堪能できるようになった。4分の3プレート、独特なストライプ模様、ルビーの受け石を支えるビス留め式ゴールドシャトン、青焼きされたブルースクリュー、スワンネック型緩急調整装置、そして、ハンドエングレービングを施したテンプ受けなど、トランスパレントバックから見える光景も当時、時計愛好家に深い感銘を与える現象だった。
 新型ムーブメントのデザインですぐに目に留まるのは、旧型の4分の3プレートで島のように見えていたふたつのブリッジが廃止され、4分の3プレートが一枚になったことである。すでに装飾がこの上なく美しいムーブメントだったが、今回の変更によってその美しさにより一層、磨きがかかった。ただ、巻き上げ車を見せる設計であったなら、伝統的な懐中時計により忠実であり、より多くを見ることができるという点で、我々にとっても喜ばしい外観に仕上がっていただろう。A.ランゲ&ゾーネはこの手法を、1815アップ/ダウンとサクソニア・フラッハのムーブメントで採用している。

  次に気づくのは、チラネジ付きのテンプが調整用偏心錘を備えたフリースプラングテンプに変わった点である。旧型ムーブメントでは、スワンネック型スプリングの緩急針で実際に緩急調整が行われていた。緩急針を動かすことでヒゲゼンマイの有効長が規制される仕組みである。そのため、ヒゲゼンマイは自由に振動することができず、高級時計に不可欠な重要な特徴が欠けていた。A.ランゲ&ゾーネは今回、ここにメスを入れたのだ。新型ムーブメントでもスワンネック型スプリングが見えるが、これはテンプの片振り(ビートエラー)をなくし、テンプの左右の振り角が均等になるように調整するためのものである。精度の微調整は、テンワに取り付けられた6個の調整用偏心錘で行う。これらを回すとテンプの重心が変化し、極めて高い精度で歩度を調整することができるのだ。
 新型ムーブメントでは、ヒゲゼンマイもグラスヒュッテにあるA.ランゲ&ゾーネの工房で自社製造されたものが採用されている。これにより、ランゲ1には、ごく限られたマニュファクチュールだけが提供しうる特徴が与えられることになった。ヒゲゼンマイの製造において、材料のみならず技術的なノウハウも持っているのは、数少ないブランドのみだからである。

      

 新型ムーブメントでは、テンプが旧型ムーブメントとは反対のリュウズ側に配置されている。テンプ受けも旧型とは反転した形になっており、ツインバレルと受け石の位置、そして、それに伴い輪列のレイアウトも変更された。つまり、完全に新しいキャリバーが誕生したと言っても過言ではないのである。にもかかわらず、部品点数については旧型365点、新型は368点と、ほぼ変わらないのは興味深い。石の数は43個となり、以前よりも10個少なくなった。だが、ビス留め式ゴールドシャトンは8個で、ひとつしか減っていない。ガンギ車の受けを押さえるブラックポリッシュ仕上げのプレートやエンドストーンは、旧型より変わらず受け継がれている。
 表からは見えないが改善された機能がある。瞬時日送りである。翌日の日付が表示されるまでに30分かかっていた先代モデルでは、日付が切り替わるのが遅すぎるとして、クロノスドイツ版編集部の評価はやや辛口だった。新作では、何時間もかけて早送りのバネに力が蓄えられ、深夜になると翌日の日付に一気に切り替わるのが心地よい。
 瞬時日送りは、先代モデルと同様、11時位置にある調整プッシャーで切り替えることができる。切り替わりは極めてスムーズで、このプッシャーの恩恵によってリュウズの操作もシンプルになり、その結果、リュウズには設定ポジションがひとつしかない。リュウズを引き出すと秒針が止まり、時刻を正確に合わせることができる。

 

(上)1994年にトレンドを生み出したアウトサイズデイト。
(下)新型ムーブメントでは、調整用偏心錘で微調整を行うフリースプラング方式を採用。
 

 新生ランゲ1の外装はほとんど変わっていないが、ベゼルが若干スリムになったことでややモダンな印象に仕上がっている。デザインについてはこれ以上、変更する必要がなかったと言った方が正しいだろう。ランゲ1は時計デザインのアイコン的存在であるばかりか、特別に美しい時計でもあるからだ。以前と同じ38.5㎜の直径は、ドレスウォッチとして好ましい大きさである。ランゲ1を小さすぎると感じる時計愛好家のためには、41㎜のグランド・ランゲ1が用意されている。
 加工品質の高さも、A.ランゲ&ゾーネの誇る強みのひとつである。これは、ポリッシュ仕上げのケースやサテン仕上げのミドルケース、また、エッジを丁寧に面取りしてポリッシュで仕上げたプッシャーに見て取ることができる。さらに、ラグは内側まで丁寧なポリッシュ仕上げが輝きを放ち、ツク棒の下にバーを備えた尾錠も、手が届かないように見える部分にまで見事にポリッシュがかけられている。良好な品質は、膨らみを持たせたポリッシュ仕上げのゴールド製針とゴールドの無垢を使った菱形アプライドインデックス、印字が繊細な文字盤、そして、ハンドエングレービングを施したムーブメントにも表れている。
 文字盤の各表示が重なり合うことのないオフセンターのレイアウトは、審美的なメリットだけではなく、実用性も兼ねている。アウトサイズデイトは、単にサイズが大きいことで読み取りやすいわけではない。これは、針が日付窓の上に重なってカレンダーの数字が遮られ、判読が困難、あるいは判読がほぼ不可能になってからやっと気付くありがたさである。パワーリザーブ表示も他の表示に覆われることがなく、いつでも確認することが可能だ。約72時間という長いパワーリザーブを備えた手巻き時計の場合、これは極めて重要な点である。だが、文字盤全体を利用しないレイアウトでは、必然的に通常の3針時計よりも時刻表示に与えられるスペースが小さくなる。こうした時計における時刻の視認性はいかばかりか。ランゲ1では視認性が驚くほど秀逸で、あらゆる光の条件下で明瞭なコントラストが確保されている。ただし、蓄光塗料が塗布されていないため、暗所では何も見ることができない。
 我々は期待に胸を膨らませ、歩度測定機を使用した精度テストの結果を待った。自社製ヒゲゼンマイや調整用偏心錘を備えたフリースプラング方式の緩急調整といった改良点によって、ランゲ1は果たして高い精度を叩き出すことができるのか。着用時にはプラス1秒/日という見事なプラス傾向を示したランゲ1だが、ウィッチ製電子歩度測定機クロノスコープX1でのテストでも、計算上の平均日差がプラス1秒/日と、この上ない結果を見せてくれた。ただ、それぞれの姿勢差を見てみると、マイナス4秒/日からプラス4秒/日までかなりの開きがあり、「文字盤上」から「文字盤下」に変わった時の振り落ちが46度というのも、どちらかと言うと大き過ぎる印象だった。とはいえ、全体的に見ればまずまずの精度と言えよう。すべての手巻き時計と同様、我々はランゲ1でもフルに巻き上げてから12時間後の精度を検証した。なぜなら、ランゲ1は毎朝巻き上げることが推奨されており、12時間後というのは次に巻き上げる時刻までちょうど半分の地点になるからだ。
 ランゲ1は装着感も快適で、毎朝、喜びを感じながら手首に巻くことができる。大きさと重さが手首に負担をかけることはなく、ストラップは少し時間が経てば十分しなやかになってくる。尾錠も、鋭く尖った角などまったくなく、どのフォールディングバックルよりも快適に着用することができる。
 では、ランゲ1に弱点はないのだろうか。確かに、344万円という価格は、購入を検討する際、かなりのハードルになるだろう。だが、高い加工品質、アウトサイズデイトのような複雑機構、そして、長いパワーリザーブを備え、丁寧に装飾が施されたムーブメントによって、ランゲ1は説得力のあるコストパフォーマンスを提供している。ランゲ1と同等のスペックを備えた時計が高い価格帯に属するのはパテック フィリップも同じである。ただし、ランゲ1に比肩しうる時計は、現在の市場には存在しない。あったとしても、それは個性に欠けるか、機能の面でランゲ1とはかけ離れたものであるかのどちらかである。
 新生ランゲ1は、アイコンとしての地位を堅持し続けるだろう。新型では旧型よりも多くのことが可能になった。瞬時日送り、フリースプラング方式の緩急調整など、ムーブメントは以前よりもずっと調和の取れた仕上がりになっている。ランゲ1はドイツで最も優れた時計、そして、ドイツ発の数少ないアイコニックピースのひとつなのである。

新旧揃って顔見世。右はキャリバーL901.0、左が新型キャリバーL121.1。1枚になった4分の3プレートは美麗。精度調整はテンワに備えられた調整用偏心錘で行う。

技術仕様

A.ランゲ&ゾーネ/ランゲ 1

製造者: A.ランゲ&ゾーネ
Ref.: 191.032
機能: 時、分、スモールセコンド(ストップセコンド仕様)、アウトサイズデイト、パワーリザーブ表示
ムーブメント: 自社製キャリバーL121.1、手巻き、2万1600振動/時、43石、ワンタッチ調整プッシャーによる瞬時日送り、調整用偏心錘を備えたフリースプラングテンプ、スワンネック型スプリングによるビートエラー補正装置、自社製ヒゲゼンマイ、ハンドエングレービングを施したテンプ受け、パワーリザーブ約72時間、直径30.6mm、厚さ5.7mm
ケース: 18Kピンクゴールド、ドーム型サファイアクリスタル製風防、6本のネジで留められたサファイアクリスタル製トランスパレントバック、3気圧防水
ストラップとバックル: 手縫いのアリゲーター・ストラップ 、18Kピンクゴールド製尾錠
サイズ: 直径38.5mm、厚さ9.8mm、重量95g
バリエーション: K18イエローゴールド(344万円)、プラチナ(490万円)
価格: 344万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T12の日差 秒/日、振り角)

文字盤上 0  
文字盤下 +3  
3時上 -4  
3時下 +4  
3時左 0  
3時右 +3  
最大姿勢差: 8  
平均日差: +1  
平均振り角:    
水平姿勢 310°  
垂直姿勢 264°  


評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 15pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 18pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 88pt.

>>A.ランゲ&ゾーネのモデル一覧はこちら

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