【91点】オメガ/シーマスター 300 マスター コーアクシャル

FEATUREスペックテスト
2015.02.03

オメガ シーマスター 300 マスター コーアクシャルはそのデザインにおいて、1957年に発表されたオリジナルモデルを踏襲しており、細部に至るまで極めて忠実に再現されている。

日常生活で我々が接する磁束の発生源は、スピーカーやヘッドフォン、電磁調理器、電気モーター、携帯電話などである。タブレット型携帯端末などを固定する専用保護カバーに付いているマグネットからも磁束が発生している。時計の修理工房には必ず脱磁装置があるが、修理のために届けられた時計の精度は脱磁後、必ずもとの良好な状態に戻ると、どの時計師も繰り返し報告しており、精度に悪影響を及ぼす大きな原因のひとつが磁気帯びと言っても過言ではないらしい。
このように、耐磁性はいずれにしてもユーザーに益するところの多い性能なのである。耐磁性が著しく高く、ムーブメントも観察できるというのであれば、これ以上、うれしいことはない。
しかし、オメガはどのような手法でこれほどの耐磁性を備えるムーブメントを作り上げたのだろうか。理論上は、すべての可動部品を磁力や磁気に反応しない素材で作れば耐磁性は確保できるわけだが、パーツの動く速度が速くなればなるほど、磁気帯びと精度の関連性は深刻さを増す。磁束の影響を最も受けやすい可動部品の代表例が、テンワやヒゲゼンマイ、アンクル、そして、ガンギ車である。
オメガは先を見据え、すでに2008年から自社製ムーブメントにシリコン製ヒゲゼンマイを搭載している。今回のテストモデルに搭載されているムーブメントでは、ゴールド製のネジを備えたチタン製テンワのほか、新素材を使用した部品もいくつか加わった。地板や受け、歯車は、これまでと同様、真鍮で作られているが、銅合金である真鍮はもともと磁力や磁気には反応しない。新しいのはニヴァガウスで出来た歯車の真やホゾである。この素材は、スウォッチ グループ傘下のニヴァロックス︲FAR社がオメガ自社製ムーブメントのために特別に開発した合金である。コーアクシャル脱進機に使用されているスティールプレートは耐磁性を持つプレートに変更され、耐震軸受けのバネも非晶質金属のアモルファス合金で作られている。
オメガはこの耐磁技術を2013年にシーマスター アクアテラ 15000ガウスで発表した。2014年には、今回のシーマスター 300 マスター コーアクシャル以外にも、デ・ヴィル トレゾアや、アクアテラのほかのモデルでこの技術が搭載された。
ここで、1989年にIWCが発表したインヂュニア500,000A/mを思い出した読者もいるのではないだろうか。しかし、このモデルは、温度変化によって精度が左右されるという問題があったため、リリース後、すぐに生産中止となってしまった。こうした問題がオメガのモデルで生じないことは、独立機関のスイスクロノメーター検定協会(C.O.S.C.)がさまざまな温度条件下ですべてのムーブメントの精度テストを行うことで証明している。

シーマスター 300 マスター コーアクシャルに搭載されているキャリバー8400は、日付表示と超耐磁性がないことを除けば、キャリバー8500と同一である。2007年に発表されたキャリバー8500は、クロノスドイツ版編集部が実施したテストにおいて、何度も傑出した結果を残している。キャリバー8500では特に、改良型コーアクシャル脱進機の周辺環境が開発し直され、ツインバレルから叩き出される約60時間のパワーリザーブによって、高い精度が長時間持続するのにふさわしい好条件も与えられた。自由振動ヒゲとバランスウェイトによる緩急調整も、高い精度を確保し、正確な微調整を行うのに貢献する。さらに、軸方向への遊びが調整できるようにバランスブリッジに高さを持たせることで、より堅牢な構造が実現した。黒くコーティングされたネジや赤い塗料を盛った文字のエングレービング、また、スパイラル状に広がるアラベスクのコート・ド・ジュネーブなど、ほかではあまりお目にかかることのない装飾も好印象で、ローターは回転するタービンを想起させる。ムーブメントとケースの間に隙間がなく、スペーサーを使用していないことも好感が持てる。
トランスパレントバックの表面は肌触りが良く、ステンレススティール製ブレスレットも手首の形状になじみ、手首の細かい毛が挟まることもない。ただ、バックルもそうだが、ブレスレットのコマのエッジが鋭く、肌に当たるのがやや気になった。バックルに内蔵されているエクステンションは細かい調節が可能で、ブレスレットの長さを自分の手首のサイズにぴったりと合わせることができる。気温が高い夏季や、スポーツをしている最中に、熱や汗でブレスレットがきつく感じられるようになった場合でも、素早く調節できるのでありがたい。
ただし、ケースがやや縦長なことから、手首の細いユーザーにとっては、ブレスレットがラグの部分で折れ曲がり、多少アンバランスな印象を与えてしまうかもしれない。だが、だからと言って時計がしっかり固定されずにぐらついたり、外れたりする危険は生じない。2個のセーフティーボタンを備えたバックルは、開閉操作が簡単で、時計を安全に留めてくれる。