MEMBERS SALON

A.ランゲ&ゾーネ/グランド・ランゲ1(1/1) 2013年11月号(No.49)

A. LANGE & SÖHNE GRAND LANGE 1

ブランドのアイコンでありつつ、大型バージョンでは文字盤の構成ゆえに評価が分かれたグランド・ランゲ1。しかし、待ちあぐねた専用ムーブメントがついに内蔵され、のびのびとした表情を見せている。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa


point
・アイコンにふさわしいインパクトあるデザイン
・作業技術が非常に優秀
・ムーブメントの手仕上げ装飾が美麗

point
・リーズナブル感に欠ける価格
・日付の切り替わりがスローチェンジ式

調和のもとに憩う

1994年10月25日、A.ランゲ&ゾーネが再興ブランドとして最初の4モデルを発表した時、一番注目を集めたのはランゲ1だった。このモデルは、古典的な雰囲気を漂わせながらも独創的、このふたつの要素が完璧に調和しているという最強のキャラクター性を提示してみせた。左右非対称の文字盤は、左側に時と分の表示を置き、右側に大型日付表示と秒表示、そして、パワーリザーブ表示を配置するという構成で、絶対的な個性を放っており、その存在はブランドアイコンとなっている。ランゲ1は、ブランドの再スタートから約20年もの歳月の中、同じデザインで作り続けられている唯一のモデルである。その間、トゥールビヨンやムーンフェイズ、永久カレンダーやワールドタイマー、自動巻きなど、バリエーションも増え、同社の主要ラインを形成している。

だが、ケース直径38・5㎜というランゲ1のサイズは少し小さいという声が高まった結果、2003年には直径41・9㎜のグランド・ランゲ1が登場した。ちなみに、これをもって各モデルに専用ムーブメントを搭載するという〝ワンモデル・ワンムーブメント〟の原則は破られることとなった。それまでのA.ランゲ&ゾーネでは、新しいモデルには新型ムーブメントが充てられていたのだが、このグランド・ランゲ1には、ランゲ1に搭載されているキャリバーL901・0が流用されたのだ。このムーブメントは、通常のように文字盤中央から放射状に各表示が位置しているのではなく、不協和音のようなオフセンターの構成を持つ。ことにアウトサイズデイトなどは、通常はアワー表示が配されるエリアにまで食い込んでいる。その姿はまったく異形であると言っていい。

2012年、そのグランド・ランゲ1に専用ムーブメントが開発された。直径40・9㎜のケース内にぴったり収納するにあたってサイズは拡張されつつも、従来使用のムーブメントが持つ異形の中の調和は保たねばならない。そのため、アウトサイズデイトも適合するように拡大された。新型キャリバーL095・1は、これまで搭載されていたL901・0の全特徴を受け継ぎ、ムーブメント直径は3.7㎜大きくなったものの、厚さに関しては1・2㎜薄くなっている。これはランゲ1のパワーリザーブに起因するところが大きい。新型キャリバーも従来型と同じくパワーリザーブは約72時間。しかし、向かい合って置かれたツインバレルに替えて、香箱はひとつのみ。ふたつ分のボリュームを合わせたような大きさのシングルバレルにまとめ、香箱の高さを減らすことができたので、ムーブメント全体が薄くなったのだ。そのため、直径は大きくなっても見た目はかなりすっきりとスリムになり、結果、装着感も改善された。

専用ムーブメントを得た新たなグランド・ランゲ1は素晴らしい出来栄えだ。全体のプロポーションとオフセンターの各表示は完璧に近い。時・分のインダイアル、スモールセコンド、アウトサイズデイトが正三角形で結ばれる位置に配された文字盤、サテンと鏡面のダブル使いで研磨されたケース、面取りが施されたラグ。これらのひとつひとつが装飾品たるにふさわしい作りを持つ。

アウトサイズデイトはランゲ1ラインの中で最も大きくなったので、視認性はより一層高まった。もっとも、深夜に日付表示が動きはじめてから、切り替わりが完了するまで30分は掛かるという面もあるのだが。ともあれ、このモデルは普通とは違った位置関係にもかかわらず、時間がさっと分かるのがいい。さらに、ホワイトゴールドケースのモデルだと、暗がりにいても時・分とパワーリザーブ残量を読み取ることができる。これはグランド・ランゲ1で唯一、夜光塗料を使ったモデルなのだ。ランゲ1も同じく、ホワイトゴールドモデルのみ、時・分針とパワーリザーブ表示針に夜光塗料が使用されている。ほかに、プラチナケースで文字盤が部分的にトランスパレント化され、アウトサイズデイトも発光するグランド・ランゲ1〝ルーメン〟もラインナップされる。

専用ムーブメントを搭載し、リニューアルされたグランド・ランゲ1。旧デザインに見られた妥協点は消え、のびのびとした表情となった。

このリニューアルモデルは文字盤の計算された美観もさることながら、何と言っても作り込みのクォリティの高さが全体的に際立っている。几帳面に磨き上げられ、まばゆいばかりの光沢を放つケースとラグ、表から見えない部分的までしっかり研磨されたバックルとツク棒の仕上がりは完璧。また、立体感を持たせたロジウムやゴールドの艶やかな針、繊細にプリントされ、菱形のゴールドインデックスを載せたシルバーの文字盤からも、作業技術の高さがうかがえる。そして、A.ランゲ&ゾーネの一番の見どころは、手仕上げで装飾が施されたムーブメントだ。ルーペでじっくり鑑賞すると、凝りに凝ったディテールは優美の極みであることを実感できる。目を引き付けるのは、ジャーマンシルバー製4分の3プレートの温かみのある色調や、青いネジとゴールドのシャトンに支えられた深紅のルビーの彩りの妙味、スワンネック緩急針が描く曲線や、その下に置かれたテンプ受けのエングレービングだ。A.ランゲ&ゾーネのエングレービングはひとつひとつ手彫りされているため、まったく同じものは存在しないのだが、彫り師の作風には個性の違いがあり、それぞれのニュアンスが異なるのも味わい深い。

微調整用のネジを4つ含むチラネジ付きのテンワは、若干小さな印象を受けるがクラシックな雰囲気が漂う。プレートやブリッジ類はエッジが面取りされ、そのわずかな面積さえも鏡面に磨き上げられているが、その手間はガンギ車受けと新設された4番車受けのふたつのブリッジも同様だ。4分の3プレートを分割してテンプの左隣に独立させ、目を引くように置かれているあたり、造形的にも魅了するムーブメントの開発に努力したことがうかがえる。これは大きな面積を占める4分の3プレートの中の浮島のように嵌め込まれたふたつのブリッジのように、A.ランゲ&ゾーネらしい小技であろう。もっとも、全体的にブリッジが分割され、輪列が覆われずに麗しく露出しているに越したことはないのだが、総合すると、やはりビジュアル面にもこだわったムーブメントと言える。

グランド・ランゲ1専用キャリバーL095.1はムーブメント直径34.1㎜。ランゲ1のパワーリザーブを維持したまま、ツインバレルからシングルバレルに変更され、ケースの厚さは抑えられた。優美な仕上がりも存分に堪能できる。

もちろん、技術面でもいくつかの見どころがある。A.ランゲ&ゾーネは、機械式時計の精度を左右するヒゲゼンマイまでも自社製造する数少ないマニュファクチュールのひとつだ。自社オリジナルのヒゲゼンマイは、同社の全モデルにまでは装備されていないのだが、グランド・ランゲ1にはこの自社開発・自社生産の高品質なヒゲゼンマイが使用されているのだ。それに加え、10の位を表示するために十字プレートを組み合わせたアウトサイズデイト機構のコンパクトな設計も見逃せない。そして、パワーリザーブ表示にはあえてドイツ語で〝AUF〟(アップ)、〝AB〟(ダウン)とプリントして、さりげなくドイツ時計としての主張をしている点にも注目したいところだ。

さて、歩度測定機ではどう出るだろうか。結論から言うと、かなり良好だ。平均日差はマイナス0・3秒。旧型のグランド・ランゲ1とほぼ変わらない数値である。姿勢差も4秒に収まっている。しかし、振り角に関してだけは、水平姿勢時と垂直姿勢時の差が47度というのは少々開き過ぎのように思われる。それでもトータルすると、日々の使用で針合わせするのは、かなり少なくて済むはずだ。

見目良し、精度良しではあるが、リュウズが小さめで、引く時に結構力が必要なのは改善してほしいところだ。もっとも、針合わせ自体はストップセコンド仕様なので、厳密に合わせることができる。約72時間は連続して作動するおかげで、金曜日の昼に時計を外して放置していたとしても、主ゼンマイがフルに巻き上げられていれば、月曜日の昼までは動いているのはありがたい。しかし、この腕時計を一度手にしたならば、さっさと外したいなどとは思わなくなるだろう。着けると違和感がほとんどないのだ。重さを感じさせず、ストラップや尾錠はなめらか。フォールディングバックル仕様の腕時計にありがちな、肌当たりのごつさがない。

ここまで来ると、すでに想像がつくと思われるが、購入するかどうかの決め手は唯一その価格だろう。ホワイトゴールドケースモデルは364万3500円。約72時間という長めのパワーリザーブとアウトサイズデイトが技術面において特徴的ではあるが、オフセンターされた時・分表示とパワーリザーブ表示のほかは時・分・秒表示の手巻き腕時計としては、値が張る部類だろう。しかし、その金額は手間を惜しまず技を尽くした美しい手仕上げ装飾のムーブメントや、卓越したクォリティの表れとも言える。だが、A.ランゲ&ゾーネに並ぶブランドであるパテック フィリップやオーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンのモデルと比較してしまうと、リーズナブルとは言い難い。加えて、ランゲ1のホワイトゴールドケースのモデルと比べても、56万7000円もの差がある。
しかし、グランド・ランゲ1で注視すべきは、何と言っても〝乱調の美〟でありながらも古典的な気品をたたえていることと、作業技術のクォリティの高さだ。ランゲ1の完成度に釣り合うまで、多少道のりは長かったが、待てば海路の日和あり。願うものが実現した成果をリアルタイムで体感できるのは、掛け替えのない出来事なのである。

時計本体だけに留まらず、尾錠やツク棒まで研磨は完璧。端から端まで手の掛かった抜かりのなさは、まさにハイクォリティそのもの。

技術仕様

A.ランゲ&ゾーネ/グランド・ランゲ1

製造者: ランゲ・ウーレンGmbH
Ref.: Ref.117.028
機能: 時、分、秒(スモールセコンド、ストップセコンド仕様)、日付表示(アウトサイズデイト)
ムーブメント: 自社製キャリバーL095.1、手巻き、2万1600振動/時、42石、チラネジ付きテンワ、耐震軸受け(KIF使用)、スワンネック型緩急針、パワーリザーブ約72時間、直径34.1㎜、厚さ4.7㎜
ケース: 18Kホワイトゴールド製、無反射加工のドーム型サファイアクリスタル風防、トランスパレントバック、3気圧防水
ストラップとバックル: 手縫いのクロコダイルストラップおよびホワイトゴールド製尾錠
サイズ: 直径40.9㎜、厚さ8.8㎜、重量95g
価格: 364万3500円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時    
文字盤上 +1
文字盤下 +1
3時上 0
3時下 0
3時左 -1
3時右 -3
最大姿勢差: 4
平均日差: -0.3
平均振り角:
水平姿勢 303°
垂直姿勢 256°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 10pt.
デザイン(15pt.) 15pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 18pt.
精度安定性(10pt.) 8pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 11pt.
合計 88pt.

>>A.ランゲ&ゾーネのモデル一覧はこちら

前の記事

エルメス/アルソー タンシュスポンデュ

次の記事

オリス/アクイス デプスゲージ

おすすめ記事

pick up MODEL

正規時計販売店

正規時計販売店

高級時計を取り扱う全国の正規時計販売店をご紹介。各店が行うフェア情報やニュースもお届けします!

時計ランキング

時計ランキング

その年の新作モデルや、機構、仕上げの完成度など、毎回決められたテーマの中から、優れた10本を時計ジャーナリストたちが選出します。

スペックテスト

スペックテスト

クロノスドイツ版の人気連載「TEST」の翻訳記事。腕時計のデザイン、機能などをポイント性によって評価します!

基礎からの時計用語辞典

基礎からの時計用語辞典

時計の部品、機構、ブランド名など、基礎から専門用語まで、広範囲にわたって解説します。時計の知識を深めるための用語辞典です。

PAGE TOP