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ヴァシュロン・コンスタンタン/ケ・ド・リル・ デイ/デイト&パワーリザーブ・オートマティック(1/1) 2011年11月号(No.37)

VACHERON CONSTANTIN QUAI DE L'ILE DAY DATE & POWER RESERVE AUTOMATIC

構成部品をカスタマイズできるケ・ド・リルは、個性を重視する愛好家にふさわしい。ケ・ド・リルは今回のテストで、日常使いにおける実用性も実証してみせた。

アレクサンダー・クルプ:文 Text by Alexander Krupp
ニック・シェルツェル:写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・興味深いモジュールコンセプト
・極めて秀逸な作り込み
・美しい自社製ムーブメント

point
・高額
・リュウズで設定できない日付と曜日
・テストウォッチでは精度が不安定

変えられるという贅沢

・ド・リルという、世界で最も贅沢に違いないモジュールシステムが発表されてから、今年で3年経つ。3年前、この新種のタイムピースの購入を決断した愛好家は、ドイツ国内に約100店舗ある専門店で持ち運び可能なカスタマイズ画面を使い、2種類の機能バリエーションと、それぞれに2種類用意された文字盤、そして、極めて多彩なケースコンビネーションから、構成を選ぶことができた。ドイツ国内の専門店では今年から、当時発表されたデイト付き3針モデルと、日付・曜日・パワーリザーブ表示を備えたモデルに加え、アニュアルカレンダー・レトログラードも販売されている。その上、3種類になった機能バリエーションの全モデルに、透明ではない、よりシンプルでプレーンな文字盤も用意されるようになった。

「ケ・ド・リル・デイ/デイト&パワーリザーブ・オートマティック」のテストウォッチにも、プレーンな文字盤が装備されている。3種ある機能バリエーションの中では2番目に複雑な、日付・曜日・パワーリザーブ表示を搭載したモデルである。現行コレクションでは、機能、文字盤、ケースの素材、ストラップから約700通りの組み合わせが可能である。ヴァシュロン・コンスタンタンが審美的な理由から特定の素材の組み合わせを“禁止"していなかったら、ケースにおけるカスタマイズの可能性はもっと増えていただろう。いずれにせよ、このマニュファクチュールはケ・ド・リルにより、ブランドにこだわりを持つ顧客に対して、可能な限り個性的であると同時に、ひと目でモデルを識別できる製品を提供するという、自らに課した要求を満たしているのだ。

クロノスドイツ版編集部は今回のテストのために、18Kピンクゴールドとチタンの標準的なモデルを選んだ。このほか、ケースの一部あるいは全パーツの素材として、白金族の貴金属、パラジウムを選ぶこともできる。ケースは、次の3つの構成グループで成り立っている。前述の通り、ヴァシュロン・コンスタンタンの美意識により、ひとつの構成グループ内では1種類の素材しか選ぶことができない。

1)ベゼル
2)ラグ(ラグの間に位置するアタッチメントとケースバックリングも含む)
3)ケースサイドと裏蓋側のホルダープレート

テストウォッチでは、構成グループ1)と2)が18Kピンクゴールドで、グループ3)はチタンで出来ている。モジュールコンセプトをより明確に打ち出すなら、ベゼルにはチタンやパラジウムを選ぶ方が適切かもしれない。だが、デザインが新しくなったクラシカルな文字盤には、正面をピンクゴールドで統一した方がよく似合うだろう。
ケ・ド・リルでは当初から、コピー防止対策も重要なテーマであった。紫外線に当てると浮かび上がる太陽のモチーフが入ったサファイアクリスタル文字盤のモデルは、2008年の発表以降、現在も入手可能である。ルーペで見ると、微細な文字も読むことができる。このサファイアクリスタル文字盤にはさらに、スイスの紙幣にも使用されている透明保護フィルムが両面に施されており、下側の保護フィルムには、無数の微細なマルタ十字がプリントされている。上側の保護フィルムには、文字盤の中心から外周まで届く放射状の線が60本入っており、ミニッツインデックスとして機能する。

極めて入念なコピー防止対策は、効果の上でも技術的にも興味深くはあるものの、ケ・ド・リルの購入を検討している顧客にとってはそれほど重要ではない。ケースの構造がすでに複雑さを極めていることから、この時計はコピーしようにも本物と寸分たがわぬ正確さでは作れないからである。こうしたことから、ヴァシュロン・コンスタンタン側でも、エレガントさを増した新世代の文字盤では、紫外線プリントの太陽モチーフ以外の安全対策を省略することができた。テストウォッチでは、4時と5時の間に太陽のモチーフを見つけることができる。

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ケースとムーブメントは見事な調和を見せる。モジュール構造のマルチカラーケースと同様、ムーブメントもクラシカルでありながらモダンな印象を与える。

快適な日常のパートナー

このように、ケ・ド・リルは偽造業者を失望させる多くの顔を持っている。では、ケ・ド・リルが具体的にできることは何だろうか? ケ・ド・リルは信頼できる日常のパートナーなのか、それとも人目を引く装飾品に過ぎないのだろうか? テストウォッチは、こうした警戒心を見事に解いてくれた。ケ・ド・リルは、おおよそ高級腕時計に期待される通りの装着感、操作性、視認性を備え、時刻合わせも快適である。作り込みは秀逸で、デザインも素晴らしく、美しく堅牢な設計のマニュファクチュールキャリバーを搭載している。もっとも、すべてが完璧というわけにはいかないのは必然である。順を追って見てみよう。

ケ・ド・リル・デイ/デイト&パワーリザーブ・オートマティックを購入したユーザーは、時計をボックスから取り出した後、まずはじっくりと観察するだろう。そして、購入の決め手となったケースに感嘆するに違いない。ケースは、カスタマイズできる点だけでなく、個々のパーツが豊かなフォルムを持つことも魅力である。ネジ留めされたラグにはステップと明確なエッジが付けられており、ミドルケースからはサテン仕上げのケースサイドの上下の両端が突出している。また、裏蓋側のホルダープレートから張り出すねじ込み式の裏蓋は非常に立体的だ。明確なドーム型をしたサファイアクリスタルの風防は、ふくらみを持たせたケースの魅力的なラインと一体化している。ケースがあまりにも複雑であるため、ポリッシュとサテンのコンビ仕上げを施した美しい表面が、当たり前のように映ってしまうほどである。

ケースを隅々まで眺めた後、満足感に浸ったユーザーは、多層構造で一部にマット仕上げが施された、どこから見ても完璧な加工の文字盤を観察する。アラビックインデックスとバーインデックスは、エッジ部分に面取りとポリッシュ仕上げが施されており、表面には縦方向にサテン仕上げが施されている。細かいサテン仕上げは、蓄光塗料を塗布した時分針に加え、秒針や付加機能用の3本の小さな針にも観察することができる。これらの小さな針は、日付、曜日、そして、パワーリザーブを表示する。ほかの表示要素がすべて、視認性に優れているのに対し、日付はやや読みづらい。細かいポインターデイトは必ずしも読み取りやすい表示方式ではない上、このモデルでは23日を表す数字が欠けているため、ユーザーは21日から25日までの日付を把握するのに戸惑うかもしれない。

日付と曜日は、付属の修正用のペンを使用し、ケース側面にある修正ボタンを押すと設定できる。ケ・ド・リルでは、リュウズを簡単に引き出して回すことができるので、日付と曜日もリュウズで合わせられればもちろん、もっと快適だったかもしれない。だが、付加機能の設定方法が分離されていることで、リュウズの引き出しポジションが1段で済み、誤操作の心配がないのはメリットと言えるだろう。たったひとつのポジションにリュウズを引き出せば、ストップセコンド機能の恩恵も相まって、時刻を正確に合わせることができるのだ。

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モジュール構造のケース。ベゼル、ケースサイド、ラグ(アタッチメントも含む)、ホルダープレートおよび裏蓋は、無限ではないにしても、多様な組み合わせが可能。

美しい自動巻き

リュウズを引き出すとテンプが板バネによって停止するストップセコンド機能は、マニュファクチュールキャリバー2475 SC/1が備える多くの利点のひとつであり、ケ・ド・リルを初めて手にしたユーザーは、これをサファイアクリスタルのトランスパレントバックから観察することができる。美しい自動巻きキャリバーは、グリュシデュール製テンワを備え、分割された受けによるクラシカルな構造を持つ。ムーブメントにはロジウムプレートが施され、受けのエッジは面取りされ、さらにポリッシュされている。コート・ド・ジュネーブやペルラージュ仕上げ、そして、ゴールドカラーのエングレービングなどの装飾も、伝統的な印象を与えている。また、巻き上げ機構や、ストップセコンド機能の板バネとレバーを見渡せる視界が確保されていることは、メカ好きな愛好家にとってはたまらないハイライトだろう。設計と装飾のクォリティが特に高い証として、ムーブメントにはジュネーブ・シールが刻印されている。品質を保証するこの刻印は、ゴールドカラーではなく、テンプの横に控えめに彫り込まれている。

自動巻きキャリバー2475 SC/1でモダンな印象を与えるのは、22Kゴールド製ローターである。このローターは、ルテニウムコーティングされていることから色調が一段と暗く、半円状の5本のリブと台形の開口部を持つ。ローターは、相反する要素の入り交じる魅力的な特性をムーブメントに与えている。これと共通する対照性は、クラシカルな文字盤に対するテクニカルな印象を与えるモジュール構造のケースという、この時計のほかの部分にも表現されている。トランスパレントバックから見ることができる開口部付きのローターは、片方向巻き上げ式だが、巻き上げ効率は高い。毎朝、数分間、手首に着けるだけで、最大約40時間のパワーリザーブがフルチャージされるのだ。
ケ・ド・リルを手にしたユーザーは、ムーブメントを観賞した後で、そろそろ時計を着けてみたくなっている頃ではないだろうか。ただし、着用するためにはもう少し辛抱が必要である。まず、クラスプの内側にある頭の大きな固定用ネジをドライバーで開け、手首のサイズに合う穴を見つけ、その後でもう一度ネジを固定しなければならないからだ。この安全対策は、非常に堅牢な作りのダブルフォールディングクラスプの他の部分と同様に、ユーザーとの強い連帯感を保証してくれる。ただ、工具を使わないとストラップの長さを変えられず、その結果、扱いづらくなっていることが、この安全対策の残念な点である。

ゴールド製のダブルフォールディングクラスプが少し特別に感じられるのは、堅牢な構造と外側のロックにあしらわれた大きな半マルタ十字に起因するだけではない。ロックとプッシュボタンのある側が反対側よりも長く作られており、構造が左右非対称であることにも原因がある。プッシュボタン自体は安全に機能するのだが、長い側しか開かない構造は残念である。プッシュボタンのないフォールディングバックルと同じように、開ける際には短い方を強く引っ張らなければならないのだ。ヴァシュロン・コンスタンタンは、盗難防止対策の向上を期すためにこの構造を採用したとしており、ボタンを押すだけで両側が開く構造では、着用者に気付かれずに時計を手首から引き抜くことができてしまうことを理由に挙げている。
ヴァシュロン・コンスタンタンがケ・ド・リルに装備したストラップも、クラスプ同様に品質が高い。残念ながら、テストウォッチは実際の商品とは異なり、型押しのカーフレザーストラップで提供され、掲載写真も同ストラップで撮影されている。純正ストラップは、後になってからクロノスドイツ版編集部に届いた。全面的に接着された手縫いのストラップは、ツヤ出し塗料が表面に薄く塗布されている。欲を言えば、縁を表革で包み込んで裏側から縫う縁返し仕立てにすべきだったかもしれない。だが、切断面の塗装も高級感があり、デザイン的にも技術的にも、十分な出来である。

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独自の個性と高い品質。ゴールド製のダブルフォールディングクラスプは左右非対称の設計で、非常に頑丈。

クォ・ヴァディス?

「クォ・ヴァディス?」。ラテン語で「どこへ行くのか?」を意味するこの問いは、ムーブメントにも投げかけることができるだろう。なぜなら、テストウォッチの精度が、時計全体の高い加工品質にも、マニュファクチュールキャリバーとしてのクォリティにもふさわしくなかったからである。歩度測定機における計算上の平均日差は、マイナス0・5秒/日とごくわずかだったものの、最大姿勢差は13秒とかなりの開きがあり、着用時の平均日差はマイナス3・5秒/日だった。こうした結果が、調整ネジと緩急針によるトリオビス型緩急調整機構に起因するわけではないことは間違いない。基本的に、かなり効果的な微調整が期待できる機構だからだ。とは言え、自由振動ヒゲゼンマイとバランスウエイトを搭載したフリースプラングテンプの方が、よりエレガントな解決策だったことは確かだろう。

逆に、水平姿勢と垂直姿勢で振り落ちが非常に小さかったことは、喜ばしい結果である。これは、歯車の軸の先端にあるホゾなど、ムーブメントの可動部品が、垂直姿勢でわずかに摩擦を生じているものの、極めて高い品質で加工され、仕上げられていることを示唆している。
テストウォッチで観察された不安定な精度のほかに、大きな難点があるとすれば、それは高い価格である。伝統あるマニュファクチュールの作であり、加工が良質な上、付加機能を備えていたとしても、3万9200ユーロ(394万8000円)という価格は、腕時計としては高額である。だが、多くのタイムピースと同様、ケ・ド・リルの場合も、心を揺り動かすさまざまな要素が決定的な意味を持っている。メカ好きな愛好家にとって、ケ・ド・リル以上にパーソナルな時計を獲得する機会は少なく、ケ・ド・リルほど、モジュールコンセプトが贅沢に表現されている時計は稀な存在である。

技術仕様
ヴァシュロン・コンスタンタン / ケ・ド・リル ・デイ/デイト&パワーリザーブ・オートマティック

製造者: ヴァシュロン・コンスタンタン
モデル: Ref.X85I0P2A
機能: 時、分、秒(ストップセコンド仕様)、日付、曜日、パワーリザーブ表示
ムーブメント: 自社製キャリバー2475 SC/1、自動巻き、2万8800振動/時、27石、調整ネジと緩急針によるトリオビス型緩急調整機構、グリュシデュール製テンワ、耐震軸受け(キフ使用)、パワーリザーブ約40時間、直径26.2mm、厚さ5.7mm
ケース: 18KPGおよびチタン、ドーム型サファイアクリスタル製風防(両面無反射コーティング)、サファイアクリスタル製トランスパレントバックを備えた18KPG製ねじ込み式裏蓋、30m防水
ストラップとバックル: 手縫いのアリゲーターストラップおよび18KPG製セーフティーフォールディングクラスプ
サイズ: 縦50.5×横41mm、厚さ13.5mm、総重量130g
バリエーション: 文字盤、ケース素材、ストラップの組み合わせ多数
価格: 394万8000円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

文字盤上 -1
文字盤下 +5
3時上 -7
3時下 +6
3時左 0
3時右 -6
最大姿勢差: 13
平均日差: -0.5
平均振り角:
水平姿勢 281°
垂直姿勢 263°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 10pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.) 6pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 10pt.
合計 80pt.

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