【87点】ゼニス/エル プリメロ ストライキング 10th クロノグラフ

FEATUREスペックテスト
2010.07.29

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レトロなデザインは全体的に素晴らしい出来栄え。赤いクロノグラフ針は軽量化のため、フライス加工で裏面が中空状に切削されている。

1960年代らしいレトロルックに仕立てられたケースを裏返すと、
キャリバー4052Bを隅々まで堪能することができる。

 1960年代らしいレトロルックに仕立てられたスリーピース構造のケースを裏返すと、大きな開口部を通してキャリバー4052Bを隅々まで堪能することができる。ゼニス特有の流儀に則って、表面には例外なく美しい装飾やポリッシュ仕上げが施され、エッジも丁寧に面取りされている。新たなスタンダードを築くほどの装飾レベルではないものの、見ごたえのある仕上がりで、詳細に観察して新たなディテールを発見してみたい気持ちを起こさせるには十分だ。新しくデザインされた両方向巻き上げ式のローターも素晴らしい出来栄えで、スケルトナイズされた中央部にはトレードマークのスターが君臨する。約50時間のパワーリザーブを供給するのは、ジェネラル・リゾート製の香箱に収められた長さ490mmのニヴァフレックスM主ゼンマイで、香箱が7・2回転することで1500g・㎟ものトルクを生み出す。KIF耐震装置を搭載したスイス式レバー脱進機には、グリュシデュール製テンプと自動補正機能を備えたニヴァロックス1平ヒゲが装備されている。また、爪石とガンギ歯の接触面は、摩擦を最小限に抑えるため、乾式被膜潤滑剤でコーティングされている。

 ここまで理論について述べてきたが、テストウォッチは実際、どのように動くのだろうか。着用した場合の平常時には、納得できる無難な精度で、電子歩度測定器でも同様の結果が確認された。だが、クロノグラフを継続的に作動させると、着用時も歩度測定器で測定した場合も、かなりのマイナス傾向が観察された。パーツの軽量化が進められ、微調整も完璧であるにもかかわらず、クロノグラフの作動時には、高速で回転するさまざまな輪列構成部品の慣性が影響し合い、振り角も著しく落ち込んだ。ただ、この結果は、通常使用時にはあまり大きな意味を持たない。クロノグラフを常時作動させたまま時計を着用するユーザーはあまりいないからである。

 ところで、今回はこれらの結果を歩度測定器で得るのが例になく手間のかかる作業だった。常時回転する各種歯車から多くのノイズが発生し、最新技術を駆使した測定器では、かえってうまく測定することができなかったのである。そこで、我々は旧式のスイスウィッチ製テスターを使用して測定を試みた。旧式の場合は、マイクの感度がそれほど高くないので、最終的には希望する測定結果を得ることができた。ゼニスはレーザー機器も使ってキャリバー4052Bの精度を自社で測定している。これには、微調整のための時間を節約できる一方で、測定結果に万全を期す意味もある。

 最後にもうひとつ、まったく別の疑問が浮かび上がる。この時計は、なぜ"フドロワイヤント"と呼ばれるのだろう。"フドロワイヤント"とは、そもそも"電光石火のごとく"という意味で、秒クロノグラフ針が1秒で1回転し、振動数に応じて1/5秒、1/6秒、1/8秒、あるいは1/10秒を表示する機構を描写する言葉である。厳密に言うと、今回のテストウォッチはフドロワイヤント機能を備えているとは言い難い。軽量化という、高速で回転するパーツに不可欠な技術的な解決策が、本物の"フドロワイヤント"と同じようにコストと技術力を要するものであったとしても、厳密な定義からは外れるのである。少なくとも、時計自体にはどこにも"フドロワイヤント"と謳われておらず、文字盤にも"1/10 O F A SECOND"としか表記されていない。それでもやはり、ジャン=フレデリック・デュフール氏と氏の同志は、社内でこの時計を "エル プリメロ フドロワイヤント ストライキング 10 th クロノグラフ"と呼んでいる。CEOは次のように説明した。「公式名称ではありませんが、私たちの時計にぴったりですし、時計の特徴を見事に言い当てているのです」。氏の言葉はこれはこれで受け取っておこう。だが、時計愛好家の間で間もなく熱い議論が交わされ、反対意見やさらに別の意見が出てくることも考慮に入れておきたい。

技術仕様
ゼニス/エル プリメロ ストライキング 10th クロノグラフ

製造者: ゼニス
Ref.: 03.2040.4052/69.M2040
機能: 時、分、スモールセコンド、日付、1/10秒(センター)・60秒・60分積算計を備えたクロノグラフ
ムーブメント: キャリバー4052B、直径30㎜(13 1/4リーニュ)、厚さ6.6㎜、31石、スイス式レバー脱進機、グリュシデュール製テンプ、自動補正機能を備えたニヴァロックス1平ヒゲ、3万6000振動/時、耐震装置(KIF使用)、拘束角52°、両方向巻き上げ式重金属ローター、ニヴァフレックスM主ゼンマイを内蔵したジェネラル・リゾート製香箱、パワーリザーブ約50時間、ストップセコンド機能非搭載、部品点数326点
ケース: SS製スリーピース構造、4カ所ネジ留め式サファイアクリスタル製シースルーバック、両面無反射コーティングを施したサファイアクリスタル、10気圧防水
ストラップとバックル: メタルブレスレットおよびダブルフォールディングバックル
サイズ: 直径42㎜、厚さ12.75㎜、総重量176g
特記事項: SSモデル1969本限定、18KRGモデル500本限定
価格: 99万7500円(レザーストラップ:92万4000円)

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

平常時 クロノグラフ作動時
文字盤上 -2 -5
文字盤下 +1 -2
3時上 0 -7
3時下 -1 +2
3時左 0 -7
3時右 -1 -1
最大日差: 3 14
平均日差: -0.5 -4.2
平均振り角:
水平姿勢 266° 191°
垂直姿勢 223° 168°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 10pt.
ムーブメント(20pt.) 20pt.
精度安定性(10pt.) 10pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 15pt.
合計 87pt.