【76点】クロノグラフのない 〝クロノ〟

FEATUREスペックテスト
2018.07.31
初代クロノリスが生まれたのはウィリアムズで活躍したデイモン・ヒルの父親、グラハム・ヒルがさまざまなレースで活躍していた時代である。



快適な操作感

 いずれにしても、ケースの厚さが12.4㎜というのは、スポーツウォッチとしては薄い仕上がりである。また、クロノリスは快適な着用感を提供するだけでなく、操作も簡単だ。巻き上げと時刻、日付合わせを行う2時位置のリュウズはねじ込み式ではないが、大きく扱いやすい。ミニッツリングを回すためのもうひとつのリュウズはねじ込み式で、前述のリュウズよりも刻み目が多い。4時位置にあるこのリュウズは、ねじ込みを解除するとケースからかなり隆起するので操作が快適で、回すとミニッツリングがしっかりと噛み合う。ミニッツリングは30秒刻みで正確に噛み合うことから、分針が2本のインデックスの中間に位置する場合でも正確に合わせることができる。

 良好な精度も使いやすさの理由のひとつだ。クロノリスでは時刻合わせも楽しみのひとつとはいえ、毎日使う時計を頻繁に合わせ直さなければならないのはやはり億劫である。今回のテストでは、新生クロノリスでこうした心配がないことが実証された。歩度測定器で測定した時の日差には姿勢によってかなりばらつきがあったが、平均するとプラス3.7秒/日というわずかなプラス傾向にとどまった。数週間の着用テストではさらに数値は優秀で、日差は平均でプラス2秒/日からプラス3秒/日の間だった。

セリタ製ムーブメント、Cal.SW200“スペシャル”。ローターの中央部が赤く塗装されているのがオリスの特徴。
簡素な加工

 このように、クロノリスは操作性が高く、レトロデザインの美しいデイリースポーツウォッチである。では、クロノリスは完璧な時計なのだろうか。時計を選ぶ際は、何が自分にとって重要な要素かを検証し、プラスマイナスで考えるべきだろう。クロノリスにおいてマイナス要素として挙げられるのは、加工の簡素な針である。目の良い時計愛好家なら、裸眼でも白い時分針の側面の塗りが上面に比べて均等さに欠け、表面にざらつきがあるのを確認することができるだろう。オレンジカラーの秒針も、ルーペで見ると加工の甘さが見えてしまう。

 堅牢なステンレススティール製の裏蓋も同様に簡素な仕上がりである。シースルーバックのモデルが多い今日、オリジナルモデルの時代を想起させるという意味においてはクローズドバックもふさわしいが、オリスの紋章のエングレービングは復刻版であることを主張する大切な要素であるにもかかわらず、かなり彫りが浅い。


 とはいえ、21万6000円というクロノリスの堅実な価格設定は、時計愛好家にとって良心的と言えるのではないだろうか。打たれ強いスポーツウォッチは心躍らせるレトロデザインと同様、昨今のトレンドだからである。だが、これが功を奏するのは、オリジナルモデルのディテールを単に再現するのではなく、今日の価値観に合わせ、有意義かつスタイリッシュに翻案された場合に限る。この条件を満たしていてこそ、〝クロノグラフ機構非搭載のクロノ〟であっても、その魅力は正当性を勝ち得るのである。