【93点】ロレックス/ オイスター パーペチュアル ロレックス ディープシー

FEATUREスペックテスト
2019.01.20

賢いエクステンションシステム

 ケースに使用されている904Lステンレススティールは、海での潜水に特に適している。というのも、この素材は、加工が難しいが、腕時計に標準的に使用されている316Lステンレススティールよりも海水に強いという特性を備えているからだ。ロレックスは近年、このステンレススティール合金を「オイスタースチール」と呼ぶようになった。さらに、グライドロック クラスプは、約26㎜まで延長することができるフリップロック エクステンションリンクに加え、2㎜単位で最大約20㎜までの調節が可能なロレックス グライドロック エクステンションシステムを備えている。このエクステンションシステムは、使い勝手が極めて快適である。気温が高い時でも、ブレスレットを素早く容易に調節できるからだ。着用したまま操作できるのも、この機構のありがたいところである。

プラチナとセラミックス

 ケースとブレスレットの表面は、前面がサテン仕上げになっており、側面には対照的に艶やかなポリッシュ仕上げが施されている。逆回転防止ベゼルのスケールリングにも光沢があるのは、傷に強いセラミックスで出来ているためである。ここに彫り込まれた数字とインデックスにはプラチナコーティングが施されており、光の当たり具合によって、ベゼルの色は黒からチャコールグレーへと変化して見える。

 分目盛りが15分までで終わらず、全周に配されるようになったのは、ダイバーでなくても有用なクォリティアップだろう。ロレックスは、回転ベゼルの噛み合わせにおいてもその実力を発揮している。スムーズな動きながらも、30秒刻みでしっかりと噛み合う回転ベゼルは回す時の音が重厚で、噛み合いは極めて正確である。

 ロレックスの他のモデルに比べ、ロレックス ディープシーでは風防がベゼルからあまり隆起していない。そのため、風防が損傷するリスクも低い。光の当たり方によって少し反射してしまうのは少々残念だが、カラーグラデーションによって文字盤の視認性が悪化することはない。

 時針と分針には膨らみが持たせてあり、フラットな針にありがちな、映り込みで黒く見える現象は起こらない。針とインデックスはロレックスでは常のごとくホワイトゴールド製である。時針の形状や丸いアワーインデックス、6時と9時のバーインデックス、12時のトライアングルインデックスを備えたデザインは、初代サブマリーナーを踏襲する意匠である。ロレックスはここでも60年以上、一貫した伝統を堅持しているのである。意匠は審美的にも機能的にも優れており、そもそもこれ以上、改善する点は見当たらない。

新しいロレックス ディープシー(左)では、ラグの間からフラッシュフィットが隆起しない。

 針、インデックス、そして、ベゼルのゼロ位置に配されたドットには、青い蓄光塗料が塗布されている。光は、波長が長い方が短いものよりも水に吸収されやすく、青い光は水中で最も認識しやすいことから、これはダイバーにとって大きなメリットになる。ロレックス ディープシーは、文字盤が古典的なデザインであるにもかかわらず、タイムレスな印象を与える。時宜にかなったサイズ、ドーム型風防、セラミックスを使用したベゼル、あえて見せるようなデザインにしたリングロック システムの耐圧リングなどがその理由だろう。唯一、文字盤上の文字の多さは好みの分かれるところだろう。ロレックスでは見慣れてはいるものの、ロレックス ディープシーのD-ブルー文字盤の下半分だけでも文字列が5行もあり、さらに耐圧リングに記載された情報がこれに加わる。とはいえ、古典的名作の進化形に影響を及ぼすほどのものではなく、全体的には優れたバランスを見せている。


新型ムーブメント

 デザイン同様、堅牢性と高い精度で知られるムーブメントにも、本来、改良の余地はない。にもかかわらず、ロレックスは抜本的な改良を加えたのである。キャリバー3135に代わってロレックス ディープシーに搭載されているのはキャリバー3235である。ロレックスはこの新世代ムーブメントの導入を、2015年より開始した。ステンレススティールのモデルではこれまで、デイトジャスト 41のほか、新しいシードゥエラー、そして、赤青ベゼルの新しいGMTマスターⅡでこの新型ムーブメント、キャリバー3235が採用されている。先代キャリバー3135から受け継がれている構成部品の数は、全体のわずか10%に留まっており、新世代ムーブメント、キャリバー3235でロレックスが取得した特許は合計14に上る。

 では、ユーザーにとってのメリットは何だろう。まず挙げられるのは、耐衝撃性と信頼性が向上したことだろう。巻き上げ効率も向上し、パワーリザーブをより早く蓄えられるようになった。これは、ボールベアリングで支持されたローターによるところが大きい。パワーリザーブがこれまでの約48時間から約70時間に延長されたのはうれしい改善点である。ロレックスは香箱の壁を薄くし、格納されている主ゼンマイを長くすることでこれを実現した。スイス式レバー脱進機よりも効率が15%向上した革新的なクロナジー エスケープメントもパワーリザーブの延長に貢献している。これは脱進機のサイズを変え、スケルトナイズによって軽量化することで実現した。脱進機が軽くなったことは、時を刻む音が格段に小さくなったことで実感することができる。

 LIGAプロセス(X線フォトリソグラフィー、電解メッキ、成形)で微細加工されたガンギ車は、原料であるニッケルとリンの合金の恩恵により、磁束の影響を受けない。また、新しい天真も耐磁性の向上に貢献している。ニオブとジルコニウムの合金、パラクロムで出来たブルー パラクロム・ヘアスプリングは、パラフレックス ショック・アブソーバーと同様、ロレックスのほかのモデルですでによく知られている素材である。テンプの垂直方向のアガキは、以前は2本のアジャスターで調整していたが、新世代ムーブメントではこれが1本になった。さらに、ブレゲ式エンドカーブや、テンワの内側にマイクロステラ・ナットを取り付けたフリースプラング方式の緩急調整により、テンプの規則正しい振動が約束されているのだ。

 オイスターモデルでは常のことながら、この新型ムーブメントも裏蓋に隠されて見ることができない。それでもやはり、一部スケルトナイズされたローターやローターブリッジのサンバースト仕上げ、ヘアライン仕上げのスティール製部品、面取りされたいくつかのエッジやポリッシュ仕上げのネジ頭など、ムーブメントにはきちんと装飾が施されている。

新たに自社開発されたムーブメント、キャリバー3235は、
クロナジー エスケープメントの恩恵により約70時間のパワーリザーブを供給する。

チタン製の裏蓋は先代モデルから引き継がれたものである。


高い精度

 ロレックスは2015年以降、すべてのモデルにより一層、厳しい精度基準を課している。スイス公認クロノメーター検査協会(C.O.S.C.)の検査に合格するだけでなく、ロレックスの時計師はムーブメントがケーシングされた状態でより正確に時計を微調整しなければならない。ここで許された最大日差は、マイナス2秒からプラス2秒である。検査時には、着用習慣を再現できるシステムが使用されている。

 今回のテストウォッチは、歩度測定器によるテストでこうした過酷な条件をやすやすとクリアしてみせた。平均日差はわずかマイナス0.7秒/日、最大姿勢差は4秒と、ごくわずかにすぎない。着用時もわずかにマイナス側、プラス側に振れはするものの、平均すると日差はほとんど発生していない数値になる。

LIGAプロセスで成型されたクロナジー エスケープメントは常磁性の素材で出来ているため、理論上磁束の影響を受けない。

 装着性の良好なロレックス ディープシー、D-ブルーダイアルは、デイリーユースにも適している。驚異の防水性能を誇る腕時計には、普通は期待できない快適さである。果たして、その対価はいかほどなのだろう。120万円という価格は、ステンレススティール製のプロフェッショナルモデルとしては高額である。旧世代のムーブメントを搭載した300m防水のサブマリーナー デイトが81万円であることを考えると、高額感は否めない。だが、2017年発表の1220m防水の新型ムーブメントに替わった新しいシードゥエラーが108万円であることと比較すれば、度を越した価格設定とまではいかないのではないだろうか。総合的に見れば、適正な価格である。

 とはいえ、今回のテストウォッチ、ロレックス ディープシー、D-ブルーダイアルを入手するために、黒文字盤のディープシーよりも3万円多く支払えるかどうかは好みの問題だろう。数多くの特徴を備え、ロレックスの他のダイバーズウォッチとは一線を画すことから、我々にはD-ブルーダイアルのモデルの方が好印象に見えた。バランスの取れた外観と長いパワーリザーブが実現し、ロレックス ディープシーの改訂は成功したようである。ロレックス ディープシー、D-ブルーダイアルを手首に着ければきっと、日常から別の世界へとダイブしてみたくなるのは必至だろう。