【インタビュー】フレデリック・コンスタントCEO「ニールス・エガーディン」

2023.12.22

「フレデリック・コンスタントは35年前に日本でビジネスを始めた。日本とは、300本を輸出して、1週間で売り切った国だよ。そんな日本に初のブティックを設けられることを光栄に思う」。そう語ったのは、フレデリック・コンスタントのCEOとなったニールス・エガーディンだ。

三田村優:写真 Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(クロノス日本版):取材・文 Text by Masayuki Hirota(Chronos Japan)
Edited by Yukiya Suzuk(i Chronos Japan)


私たちは、自分たちのプライスレンジに留まり続けます

ニールス・エガーディン

ニールス・エガーディン
フレデリック・コンスタントCEO。1978年、オランダ生まれ。アイントホーフェン大学を卒業後、時計業界に参画。2012年にフレデリック・コンスタントの創設者であるピーター・スタースと会い、同社の営業副部長となる。18年よりマネージング・ディレクター、23年から現職。20年には大ヒット作の「ハイライフ」を発表した。同じシチズングループに属するラ・ジュー・ペレとのコラボレーションも増やすほか、時計師の増員により、マニュファクチュール化を加速させる。

 彼が銀座ブティックのお披露目に持ってきたのは、新しい「クラシック トゥールビヨン マニュファクチュール」である。同社らしい端正なデザインを強調したこの新作は、すでに目ざとい時計の愛好家たちから高い評価を受けている。

「私たちは、2004年に初のマニュファクチュールムーブメントをリリースした。ETAがエボーシュムーブメントの供給を止めるという話があったからね。初のトゥールビヨンは08年にリリースした。これはデイデイトと昼夜表示の付いたものだった。私たちはシンプルなトゥールビヨンを持っていなかったので、そういうモデルを作ろうと思った」

 インデックスはローマ数字からバーに改められ、ケースサイズも直径39mmとわずかに小さくなった。

「スイスにはトゥールビヨンを作っているメーカーは多くある。でも、直径39mmサイズのモデルを作っている会社はまずないだろうね」

 彼曰く、フレデリック・コンスタントは、月に60本のトゥールビヨンを製造しているとのこと。しかし、さらに増産を考えているとエガーディンは語る。時計師が極端に不足する中、トゥールビヨンを作れるような優れた時計師を確保できるのか?

「現在、私たちはオランダやポーランド、フランスの時計学校などと組んで、インターンを採用している。ひとつの仕事しかできない他社と違って、私たちの会社では、CNCマシンを扱ったり、ベーシックなムーブメントから、腕があればパーペチュアルまで組み立てたりできるようになっているから、インターンには困らない。彼らの中から年に4人から6人を採用しているから、時計師は確保できているよ」

クラシック トゥールビヨン マニュファクチュール

フレデリック・コンスタント「クラシック トゥールビヨン マニュファクチュール」
2023年の創業35周年モデルに加わったステンレススティールモデル。仕上げを考えると価格は驚異的だ。磁気帯びのしにくい、シリコン製の脱進機を採用する。ほかにもシルバーカラー文字盤のSSと、手作業でムーブメントを仕上げたPtモデル(世界限定35本、854万7000円)がある。自動巻き(Cal.FC-980)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.99mm)。5気圧防水。世界限定350本。231万円(税込み)。

 そんな同社が今後打ち出すのは、クラシックへの回帰だ。

「私たちの顧客は複数の時計を持っている。クラシックな時計を好む人もいるし、そうでない人もいる。後者に向けて作ったのが、スポーティーシックな『ハイライフ』コレクションだ。これはここ数年重要なものになっている」

 後発にもかかわらず、売り上げに占める割合は30〜35%というから、ハイライフは間違いなく、同社にとっての稼ぎ頭だ。

「スポーティーシックな時計は重要だし、売れている。でも、愛好家たちは小さなサイズのクラシカルな時計に目を向けるようになったね。というわけで、2024年はシンプルでクラシカルな時計をリリースする予定だ」

 その鍵となるのが、新しい自社製ムーブメントであるようだ。

「今までのムーブメントと95%の部品は同じだ。しかし、輪列と香箱を見直すことで、パワーリザーブは約3日間に延びる。しかも、振動数を落とさずにね。このムーブメントを2024年の新作に載せる予定だよ」

 着々とマニュファクチュールとしての基礎体力を高めるフレデリック・コンスタント。しかし、同社は安易な値上げからは距離を置き続ける。

「私たちの美点は3つある。ひとつはイノベーティブであること。会社が若いからね。そしてユニークであること。最後に、良い仕上げとフェアなプライスだ」

 確かに、創業以来フレデリック・コンスタントは、価格を抑え続けてきた。

「エクストリームラグジュアリーブランドは、ここ数年で価格を大きく上げたね。そして息切れを起こしつつある。しかし、私たちは大変だけれども、自分たちのプライスレンジに留まり続けた。良質なトゥールビヨンを1万5000スイスフランで提供するメーカーは他にないと思うよ。私たちのスタンスは、昔から変わっていないのです」



Contact info: フレデリック・コンスタント相談室 Tel.0570-03-1988


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