使命は悲願とも言える、新たなブランドアイコンの創生にほかならなかった。そして、それはあまりにも偉大なヘリテージへの挑戦だったのである。「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」。一見、クラシックなラウンドケースには、大胆かつ個性的なデザインを秘め、毎年磨きをかけるその魅力は、クリエイティビティのキャンバスと位置づけられるほど。6年目を迎えた傑作時計の真価に迫る。
(右)CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ
昨年、SSモデルに導入された新しいデザインコードをPGケースに初採用した今年の新作。「シグネチャー」と呼ばれるエンボスダイアルのパターンは、スイスのギヨシェ職人であるヤン・フォン・ケーネルと共同開発したもので、水紋のような同心円状のモチーフを微小な凹凸で表現する。クロノグラフではインダイアルを際立たせ、3針モデルはシンプルなレイアウトにその美しさをアピールする。また、グリーンやナイトブルー、クラウド50の文字盤のカラーは艶やかなPGケースとも美しく調和する。(右)自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KPGケース(直径41mm、厚さ12.6mm)。30m防水。682万円(税込み)。(左)自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KPGケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。30m防水。489万5000円(税込み)。
柴田充:文 Text by Mitsuru Shibata
安部毅:編集 Edited by Takeshi Abe
革新するアイコンウォッチ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」
2019年、オーデマ ピゲが発表した新作に、時計関係者や愛好家は沸き立った。まったくの新しいコレクションとしてはミレネリー以来、約四半世紀ぶり。熱狂的な注目の中、登場したのがCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲだ。
「CODE」は、「Challenge(挑戦)」「Own(継承)」「Dare(追求心)」「Evolve (進化)」の頭文字であり、「11.59」は新たな一日の始まりの直前を指す。新時代の幕開けを予感させる名に託されたのは、新たなアイコンウォッチだったのである。
いわゆる世界三大高級時計ブランドのひとつとして名門の歴史と卓越した技術を備え、常に革新を続けるオーデマ ピゲにおいても大きな課題があった。それは、ロイヤル オークというあまりにも大きな存在だ。その革新的なスタイルに次ぐ、コンテンポラリークラシックをコンセプトにしたアイコンウォッチのハードルは高く、これまでも試行錯誤は続けられていた。
前CEOのフランソワ-アンリ・ベナミアス氏もこの状況に手をこまねいていたわけではない。自身も25年以上取り組んできた挑戦であり、まさにブランドの命運をかけたと言ってもいいだろう。
目先の製造本数を追うことなく、専売ブティック展開を進めることで、骨太の組織体制を固め、ブランドの価値を上げる一方、選択と集中による開発に注力した。そして、新作コレクションに疑心暗鬼だった社内のムードを払拭し、ブランドのDNAのもと、培ってきた時計づくりのノウハウ、技術やスタイルをすべて結集したのである。
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲは、デビューのタイミングで、13モデルと6種類の自社キャリバーという圧倒的なバリエーションを発表し、一気にコレクションを構築した。それはアイコンウォッチであるだけでなく、オーデマ ピゲが次世代に向けたブランドのマニフェストでもあった。故に、その名にはあえて「by」を表記し、その意思を明確に打ち出したのである。
進化を繰り返す最新のディテール
コンテンポラリークラシックのコンセプトに従い、正面に向き合うのは正統的なラウンドケース。しかしひとたび視線を移せばその印象は一変するに違いない。
ケースは、前面のベゼルとケースバックでミドルケースを挟むサンドイッチ構造になっており、ミドルケースはさりげなく八角形をかたどっている。これがブランドのヘリテージを象徴するフォルムであることは言うまでもない。さらに、これを跨ぐようにブリッジ状のラグを備える。これもベゼルから伸び、ケースバックとはメンテナンス性から接地していないが、ケースバックとの間隔は極めて詰められ、まるで一体化しているかのように美観を損なわない。
精緻なディテールは、ケースを覆うサファイアクリスタルにも追求されている。表面は縦方向にカーブしつつ、内側はドーム状の曲面を描くダブルカーブを採用。見る角度や光を受け、収差や遠近感が不思議な視覚的効果をもたらす。これがミラー仕上げのラッカーやアヴェンチュリン、エナメル文字盤のモデルもより美しく演出する。
こうした伝統と大胆さを融合した新たなコレクションには当初、賛否両論があったのも事実だ。だがそれも想定内であり、これまでもヘリテージは常に物議を醸してきた。そこには100%受け入れられるものに革新性はないという哲学が貫かれる。
この5年の間、文字盤とケースの色や技法、素材のバリエーションを加える一方、昨年はステンレススティールモデルを発表。文字盤をはじめ、リュウズやバックルなど細部のデザインをリファインし、独自の魅力を提案した。さらにスターホイールの斬新な表示機構を採用したモデルの登場など、クリエイティビティのキャンバスならではの展開だ。
本来アイコンとはブランドが決めるのではなく、受け入れられ、認められてこそ生まれる評価だ。それは何十年もかけて得られる称号であるが、その資質を備え、研ぎ澄まされていくCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲへの期待はより高まるばかりだ。
選択肢の拡充が証明するマスターピースとしての風格
小ぶりな38mm径のケースには2種類のブルーが選ばれた。初代ロイヤル オークが採用したナイトブルー、クラウド50と呼ばれるシグネチャーカラーと、ファッションでも注目を集めるライトブルーだ。いずれも文字盤とストラップを同色で統一し、洗練された印象を与える。程よいサイズ感は性別を問わずに着けこなすことができ、シェアウォッチにも最適だ。(右)自動巻き(Cal.5900)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径38mm、厚さ9.6mm)。30m防水。467万5000円(税込み)。(左)自動巻き(Cal.5900)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径38mm、厚さ9.6mm)。30m防水。467万5000円(税込み)。
昨年、SSモデルが登場したことで、従来よりもプライスレンジを広げるとともに、ステンレススティール特有のシャープな硬質感はスポーティーかつカジュアルなテイストを増した。これがコレクション全体の魅力をさらに引き上げたことは、高い支持にも裏付けられている。この時、ステンレススティールの新鮮さを演出したのが新しいデザインコードだった。当初、それはひと目でゴールドと差別化し、すみ分けするためと思われたが、意外にも新作ではPGモデルにこれを導入。その背景には新しいデザインが人気を集めたこともあるだろう。それにも増してCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲというコレクションが常に進化を続け、既成概念にとらわれないという証しでもあるのだ。
今年登場したのは、38mm径の3針と41mm径の3針とクロノグラフの計7種。PGと組み合わせることでSSモデルとは異なる風格を醸し出す。それは内に秘めたコレクションのポテンシャルをさらに予感させる。
深遠なる時計作りの面白さを体感する AP LAB Tokyo
オーデマ ピゲは東京・原宿に体験型施設「AP LAB Tokyo」を開設。エデュケーション(教育)×エンターテインメント(娯楽)をかけ合わせた“エデュテイメント”をコンセプトにした、世界に先駆けたオーデマ ピゲ初の施設だ。2フロアからなり、1階のレベル1では「TI ME(時計)」「MATERI ALS(素材)」「ENERGY(機構)」「CHI MI NG(音)」「ASTRONOMY(天体)」をテーマにした5つのゲームを通して、ブランドの歴史やクラフツマンシップの知識を深めることができる。
これをクリアすると2階のレベル2へ。時計技師の解説のもと、ブランドを象徴するヘアライン仕上げやペルラージュといった装飾技法を体験できる。すべてをクリアした後には、さらにエクスクルーシブなレベル3のステージも用意されている。何に挑戦できるかは「AP LAB Tokyo」でのお楽しみ。精緻な機械式時計の世界に触れることができるまたとないチャンスであり、ぜひ気軽に訪れていただきたい。
AP LAB Tokyo
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-10-9
電話番号/03-6633-7000
営業時間/11:00~19:00 定休日/毎週火曜日
※入場無料(予約優先、予約なしの入場も可能)
※下記専用サイトからご予約可能です。
予約サイト:https://aplb.ch/g58k
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