2025年に発表された「セネタ・エクセレンス・パノラマデイト・ムーンフェイズ」は、グラスヒュッテ・オリジナルというブランドが持つ真価を存分に発揮したモデルだ。自社製造による極めて精巧な文字盤に、グラスヒュッテらしい構造と装飾を持つ、高いパフォーマンスを誇るムーブメントが組み合わされている。このふたつの要素の相乗効果により、同社の強みが最大限に引き出された逸品となっている。

Text by Rüdiger Bucher,
originally published by WatchTime
グラスヒュッテ・オリジナル:写真
Photographs by Glashütte Original
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]
美、調和、精度がそろった「セネタ」
セネタ・エクセレンス・パノラマデイト・ムーンフェイズ」は、静かなたたずまいの腕時計である。慌ただしく動く世界や、ラグジュアリー産業における流行の浮き沈み、あるいは一部の腕時計ブランドが放つ派手な喧騒からの影響を受け付けてはいない。この腕時計は、審美性、調和、そして精度、要するに「エクセレンス」を体現しているのである。加えて、グラスヒュッテの伝統的な腕時計製造への深い敬意があり、それを可能な限り現代的な形で表現している。

こうした価値観は、2016年にグラスヒュッテ・オリジナルが導入した最上位ライン「セネタ・エクセレンス」によって具現化された。最初の3針モデルが発表されてからわずか数カ月後、同社はパノラマデイトとムーンフェイズを備えたモデルである、セネタ・エクセレンス・パノラマデイト・ムーンフェイズを追加した。現在搭載されているキャリバー36系の初代モデルであるキャリバー36-04を搭載した腕時計であった。

「セネタ・エクセレンス」は2016年に3針モデルから始まった。約100時間というロングパワーリザーブ、シリコン製のヒゲゼンマイを持ち、4分の3プレートを備えたムーブメント、Cal.36-01を搭載する。細かな粒状仕上げのシルバーグレインが施された文字盤に、ブルースティールの針が組み合わされたモデルだ。秒針のカウンターウェイトにダブルGのロゴが施されている点も特徴的である。自動巻き(Cal.36-01)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約100時間。SSケース(直径40mm、厚さ10mm)。5気圧防水。141万9000円(フォールディングバックル仕様)、136万4000円(ピンバックル仕様)。

その後、ムーブメントは改良され、現在はキャリバー36-24となっているが、重要な特徴は変わっていない。まず挙げられるのは、非常に長いパワーリザーブである。これは搭載する大型の香箱によって実現した。次に、耐磁性、温度安定性、耐腐食性に優れたシリコン製のヒゲゼンマイの採用だ。そして3点目が、クロノメーター級の精度である。これはムーブメントそのものの構造に加え、時計師による緻密な調整の賜物である。調速方式はフリースプラングを採用しているが、スワンネック型緩急針のようなものが見受けられる。これは緩急針ではなく、ビートエラーの調整に用いるものだ。なお、長いパワーリザーブも、精度の安定に大きく貢献している。
さらに、セネタ・エクセレンスコレクションに属するすべてのモデルは、最終的に24日間にわたる厳格な試験を受けなければならない。とはいえ、本作セネタ・エクセレンス・パノラマデイト・ムーンフェイズは、特別神経質に扱う必要のある腕時計ではない。例えば、キャリバー36-24は、カメラのレンズの取り付けに使われるバヨネット機構によってケース内に固定されている。回転させて据え付けるこの方式により耐衝撃性が高まり、整備やオーバーホールの際にも扱いやすくなった。
自社製文字盤工房
ムーブメントはセネタ・エクセレンスにとって重要な要素だが、同じくらい重要なのが腕時計の “顔” である文字盤だ。このモデルの文字盤では、4時位置のパノラマデイトと、10時と11時の間にあるムーンフェイズという、対角線上で向かい合うふたつの表示が主役となっている。この配置はグラスヒュッテ・オリジナルの歴史を少しでも知る者にはおなじみだろう。

しかし、本作の新仕様の文字盤はまったく新しい印象を与える。ブランドによって、フロステッド・カッパーと名付けられたこの文字盤の製造元は同ブランド自身であり、外部に依頼しているわけではない。なお、ドイツのプフォルツハイムにある自社文字盤工房はもともとは外部の企業であったが、現在は同ブランドに統合されている。文字盤は統合以前から重要なパーツとされていたことは言うまでもない。
間違いなく、このフロスト仕上げの文字盤は本作最大の見どころだ。温かみのある色合いを生み出しながら、巧みに施された加工によって均一な粒状の質感を作り出している。ルーペで見ても欠点のない仕上がりだ。

そこに対比を成すのが、針とインデックスである。ブルースティールの針はムーンフェイズディスク上に配された月や星と輝きを競うかのようだ。さらに印象的なのは、アプライド仕様のローマ数字インデックスである。驚いたことに、これらはゴールド製で、そこにわざわざブルーのコーティングを施している。ダイヤモンド工具による加工によってエッジは極めて明瞭に仕上げられ、精密な形状と鏡のような表面に仕上げられた。光を強く反射するその表面は、名門ブランドのトップモデルを魅力的にするディテールのひとつと言えるだろう。
こうした完成度を考えれば、蓄光塗料をあえて使用しなかったのは正しい判断だったと言える。確かに暗所での視認性は失われるが、その代わりデザインの純粋さは保たれ、明るいところでの審美性はより際立つ。
パノラマデイトもまた、1997年の登場以来よく知られた機構だ。10の位を示す内側のディスクと、1の位を示す外側のリング状ディスクという構造により、ふたつの数字は同一平面上に配置される。これにより中央の仕切りを必要とせず、すっきりとした表示が可能となった。さらに、この日付表示はムーンフェイズと対になる位置にあり、互いに呼応するようなレイアウトだ。どちらの窓枠もやや大きく面取りされており、加えて、今回テストしたフロステッド・カッパー文字盤のモデルの場合には、ムーンフェイズディスクと濃いブルーの色調も合わせられている。
詩的な要素としてのムーンフェイズ
ムーンフェイズ表示は、この腕時計に詩的な要素を与えている。ふたつの月が交互に姿を現し、輝く星々がそれを取り囲む。技術的にもグラスヒュッテ・オリジナルは一般的なムーンフェイズに満足していない。通常の機構では約3年ごとに1日の補正が必要となるが、このモデルでは追加の歯車を用いることで精度をより高め、補正は122年に1度で済むようになっているのである。
フロステッド・カッパー文字盤とムーブメントを包むのは、シンプルなステンレススティール製ケースだ。しかし細部をよく見ると、その仕上げの巧みさがよく分かるだろう。文字盤を広く見せる細いベゼルは鏡面仕上げで、裏蓋、ラグ上面、そしてラグの間のケース側面も同様にポリッシュされたものだ。さらに、ラグはポリッシュとサテンが使い分けられたものだが、その境界には繊細な面取りが施され、さりげないアクセントとなっている。

5本のネジで固定された裏蓋には大きなサファイアクリスタルが設けられ、ムーブメントの仕上げを鑑賞できる仕様だ。搭載するキャリバー36-24は、4分の3プレートを備え、グラスヒュッテの伝統的なムーブメント構造に忠実な作りである。手彫り装飾が施されたテンプ受け、ブルースティールのネジ、そしてグラスヒュッテ・ストライプなど、装飾面でも同様だ。このストライプ仕上げはコート・ド・ジュネーブよりもやや幅広で重なりが少ないのが特徴で、4分の3プレートやスケルトン仕様の回転ローターにも施されている。回転ローター外周部分は21Kゴールド製で、「21K」の刻印が施されている点にも要注目だ。
そのほか、このムーブメントには、地板のペルラージュ仕上げ、巻き上げ車のスネイル仕上げなど、数多くの装飾が見て取れる。

クロノメーター級の歩度
ウィッチのタイムグラファーによる歩度テストでは、6姿勢すべてで平均日差がマイナス4秒からプラス6秒の間に収まる、クロノメーター級の数値を示した。しかも、すべての姿勢でプラス側で、文字盤上向きでの最大の進みと、3時下での最小の進みとの最大姿勢差は6.3秒であった。優秀ではあるが、評価としては満点というより「優の次」といったところである。ビートエラーと振り角は非常に安定しており、平均日差はプラス4秒だった。実際の装着状態ではプラス2秒とさらに良好な結果を示した。

装着感は非常に優れている。わずかに下向きにカーブしたラグと、ライニングが施された柔らかいアリゲーターレザーストラップのおかげで、腕への収まりは良好だ。さらに、フォールディングバックルも圧迫感がない。
これほど称賛すべき点が多いなかで、あえて欠点を挙げるとすればケースの厚さだろう。12.2mmという数値は決して極端に厚いわけではないが、これほど繊細なドレスウォッチなのだから、もう少し薄ければさらにエレガントに見えただろう。

とはいえ総合的に見れば、セネタ・エクセレンス・パノラマデイト・ムーンフェイズは、技術的に洗練され、卓越した仕上げが施された、優れた精度の腕時計である。同時に堅牢性も備え、日常的に身に着けられる実用的な “プチ” コンプリケーションウォッチでもあるのだ。
グラスヒュッテ・オリジナル「セネタ・エクセレンス・パノラマデイト・ムーンフェイズ」

プラスポイント、マイナスポイント
+point
・精度の高い自社製ムーブメント
・高精度なムーンフェイズ
・約100時間のロングパワーリザーブ
・非の打ち所がない文字盤
・最高級のアリゲーターレザーストラップ
-point
・ドレスウォッチとしてはケースがやや厚い
・暗所での視認性が確保されていない
技術仕様
| 製造: | グラスヒュッテ・オリジナル |
| リファレンスナンバー: | 1-36-24-04-02-61 |
| 機能: | 時、分、センターセコンド(秒針停止機能付き)、パノラマデイト表示、高精度ムーンフェイズ表示 |
| ムーブメント: | Cal.36-24、自動巻き、2万8800振動/時、パワーリザーブ約100時間 |
| ケース: | ポリッシュとサテン仕上げを組み合わせたステンレススティール製ケース、両面無反射コーティングを施したサファイアクリスタル製風防、サファイアクリスタルを用いた5点ネジ留めトランスパレント仕様の裏蓋、5気圧防水 |
| 文字盤: | ガルバニック処理が施されたフロステッド・カッパー文字盤、細かな粒状の型押し加工、ブルーコーティングを施した21Kゴールド製のローマ数字インデックス |
| ストラップとバックル: | ブルーのルイジアナ産アリゲーターレザーストラップ、フォールディングバックルまたはピンバックル |
| サイズ: | 直径40mm、厚さ12.2mm、ラグからラグまで縦方向の全長47.65mm、ラグ幅20mm、重量89.5g(実測値) |
| 価格: | 177万1000円(フォールディングバックル仕様)、171万6000円(ピンバックル仕様) |
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
精度安定試験
| 最大姿勢差: | 6.3秒 |
| 平均日差: | +4秒/日 |
| 着用時平均日差: | +2秒/日 |
評価
| ストラップとバックル(最大10pt.) | 10pt. | 大きな竹斑を持つ上質なライニング付きアリゲーターレザーストラップ。ストラップへの負担を抑えた、精巧で堅牢なフォールディングバックルが組み合わされている。なお、ピンバックルという選択肢もある。 |
| 操作性(5pt.) | 5pt. | バックルは扱いやすく確実に操作できる。リュウズも引き出しや回転がスムーズだ。 |
| ケース(10pt.) | 8pt | 主にサテン仕上げの側面とポリッシュ仕上げのベゼルを組み合わせたクラシックなラウンドケース。面取りされたラグが繊細なアクセントを与える。 |
| デザイン(15pt.) | 13pt. | 文字盤上の構成がこの腕時計のデザインの中心だ。プロポーションは良好だが、ケースの厚みはやや感じられる。 |
| 文字盤と針(10pt.) | 10pt. | フロスト仕上げの質感を持つ、欠点のない文字盤。マットな文字盤と、針、インデックス、ムーンフェイズディスクに施された鏡面の輝きとのコントラストが特徴的だ。 |
| 視認性(5pt.) | 4pt. | 明るい環境では非常に読み取りやすいが、蓄光塗料がないため暗所では判読できない。 |
| 装着性(5pt.) | 5pt. | カーブのついたラグにより手首への収まりがよく、フォールディングバックルは圧迫感がない。 |
| ムーブメント(20pt.) | 17pt. | 伝統的なグラスヒュッテ構造と装飾を採用した高性能な自社製ムーブメント。約100時間のパワーリザーブ、高精度ムーンフェイズ、シリコン製ヒゲゼンマイが特徴だ。 |
| 精度安定性(10pt.) | 8pt. | わずかな進み傾向を示す良好な結果。平置き姿勢でやや進みが大きく、立姿勢では進みが小さい。 |
| コストパフォーマンス(10pt.) | 9pt. | 内容を考えれば妥当な価格設定である。 |
| 合計 | 89pt. |



