2026年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表された新作時計のうち、チタン製モデルの傑作を紹介する。かつてチタンは、特有の暗い色調や仕上げの難しさからスポーツモデルやツールウォッチでの採用に留まっていたが、近年では良好な仕上げが可能となり、高級モデルの代表的な素材のひとつとして認知されるに至っている。軽量かつ審美性に優れる傑作5モデルを紹介してゆこう。
Text by Shin-ichi Sato
[2026年4月23日公開記事]
技術の向上によって生まれた審美性にも優れるチタン製モデル
軽量かつ耐食性があるチタニウムは、スポーティーなモデルや、実用的なツールウォッチでの採用が広がった歴史がある。一方で、チタンは暗い色調であることと、ポリッシュ仕上げを施すのが難しいことから、審美性が問われる高級時計への採用が難しいという実情もあった。
しかし、グランドセイコーのブライトチタンをはじめとした素材改良と、仕上げ技術の向上が進んだことで、現在では高級モデルの代表的な素材のひとつとして認知されるに至っている。そこで今回は、2026年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表されたチタン製モデルから5つの傑作を紹介する。
グランドセイコー「Evolution 9 Collection スプリングドライブ U.F.A. Ushio 300 Diver」
1本目として、高性能と実用性を両立したグランドセイコー「Evolution 9 Collection スプリングドライブ U.F.A. Ushio 300 Diver」を取り上げる。グランドセイコーのダイバーズウォッチは、セイコーが培ってきたプロフェッショナル用モデルのノウハウを引きつつ、高レベルな外装の仕上げを持つラインナップとして長年支持されている。大ぶりなモデルが多かったことも特徴で、マッシブな魅力を持ちつつ、ユーザーの手首にフィットするか否かは要検討項目となることが多かった。

自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RB1)。33石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径40.8mm、厚さ12.9mm)。300m防水。165万円(税込み)。(問)セイコーウオッチ(株) お客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
新作のEvolution 9 Collection スプリングドライブ U.F.A. Ushio 300 Diverは、グランドセイコーのダイバーズウォッチでは最小の直径40.8mmかつ、厚さが12.9mmに抑えられている点がトピックスだ。そして、ケースやブレスレットはブライトチタン製で、グランドセイコーらしい審美性を有しつつ、軽量に仕立てられている。この仕立てにより、本格的なダイビング用途だけでなく、スポーティーなスタイリングのデイリーユース用ウォッチとしても注目されそうだ。
ムーブメントは、年差±20秒という超高精度スプリングドライブムーブメントCal.9RB1を搭載する。これは、2025年発表のCal.9RB2の日付表示を省き、パワーリザーブインジケーターを文字盤側に移動したものだ。“U.F.A.”とは、超高精度(Ultra Fine Accuracy)を意味し、1969年に発売された高精度モデルに付けられた“V.F.A.(Very Fine Adjusted)”にちなんだネーミングである。V.F.A.はグランドセイコーの歴史の中でもアイコニックな存在であるため、本作およびU.F.A.の各モデルに対するグランドセイコーの注力度合いがよく分かる。
文字盤は、日本を取り巻く潮の流れをモチーフとした型打ち模様で、広大な海から着想を得たブルーと、澄んだ海の浅瀬を表現したグリーンの2色が用意される。

自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RB1)。33石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径40.8mm、厚さ12.9mm)。300m防水。165万円(税込み)。(問)セイコーウオッチ(株) お客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
ローラン・フェリエ「スポーツ・トラベラー」
続いては、ローラン・フェリエの新作「スポーツ・トラベラー」を取り上げる。本作の解説に入る前に、時計ブランドのローラン・フェリエについて少し説明する。ブランド創設者のローラン・フェリエは、パテック フィリップに37年間勤めた時計師であり、自動車好きの一面を持っている。自動車好きが高じて、もうひとりの創業者である実業家のフランソワ・セルヴァナンとともに1979年にル・マン24時間レースに出場。アマチュアドライバーであったにもかかわらず総合3位に入賞する偉業を成し遂げた。この際に生まれたローラン・フェリエとフランソワ・セルヴァナンの信頼関係が発展し、2010年のブランド設立につながったのである。

自動巻き(Cal.LF275.01)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径42mm、厚さ13.30mm)。100m防水。1199万円(税込み)。(問)スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650
この信頼関係を生み出すきっかけとなったモータースポーツの世界に敬意を表しつつ、“レース中に着用できる理想的なタイムピース”としてデザインされたのが、スポーツ・トラベラーのベースとなっている「スポーツ・オート」だ。ケースとブレスレットは、かつてのレーシングカーのディテールから着想を得ており、視認性の高い文字盤デザインが魅力となっている。
機構面に注目しよう。スポーツ・トラベラーは、時分秒針の他に3時位置に日付、9時位置にホームタイムを配してデュアルタイムを実現している。10時位置のプッシュボタンで時針が1時間進み、8時位置のプッシュボタンで1時間戻る機構だ。
ローラン・フェリエはスポーツ・オートにおいてチタンを長く採用しており、加工技術に対する評価が高い。ケース径42mm、厚さ13.30mmのサイズ感で、ベゼルは円形のサテン仕上げ、ミドルケースは縦方向のサテン仕上げ、ケースサイドはポリッシュ仕上げと、仕上げを使い分けている。この違いによってコントラストが生まれ、立体感が強調されている。
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ」

自動巻き(Cal.TH20-11)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(直径39mm)。100m防水。134万7500円(税込み)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7030
タグ・ホイヤーにとってだけでなく、クロノグラフモデルのアイコンのひとつである「タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ」が刷新された。新作の最大の注目点は、9時位置のリュウズを採用して、オリジナルモデルのテイストを盛り込んだモデルが、最新世代のムーブメントを搭載した点だ。では、9時位置のリュウズがどのような意味を持つかを振り返っておこう。
腕時計用クロノグラフムーブメントの大きな転換点は、1969年の自動巻きクロノグラフムーブメントの量産開始だ。この頃、各社で自動巻きクロノグラフムーブメントの開発が行われ、クロノグラフモデルが主力であった当時のホイヤーも例外ではなかった。当時のホイヤーは複数の時計メーカーと提携して「プロジェクト99」を立ち上げ、1969年にCal.11を開発のうえ、発表。量産を開始した。
Cal.11はベースムーブメントにモジュールを統合する構成であったため、9時位置にリュウズ、2時位置と4時位置にプッシャーを配するデザインとなった。Cal.11を採用したモナコのオリジナルモデルも同様の操作系となり、スクエアケースと、それと呼応したスクエア型のカウンターが、モナコのアイコンとなっていった。
このスタイリングを実現すべく、新世代のタグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ用に開発されたのがCal.TH20-11だ。これは現在のタグ・ホイヤーの基幹ムーブメントのひとつと言えるCal.TH20-00をベースとし、リュウズを9時位置に、30分積算計を3時位置に、スモールセコンド表示を9時位置に配したものである。パワーリザーブは約80時間を備え、5年間の保証対象となるなど、最新世代のムーブメントにふさわしい仕上がりだ。
ケースは軽量なグレード5のチタン製で、ややダークな色調がツールウォッチらしい雰囲気を醸し出す。また、落ち着いたネイビーの文字盤ともマッチする点が魅力だ。刷新に際してディティールも見直されており、スクエア形状を際立たせるようにケースのエッジは強調され、サファイアクリスタル製の風防は正方形のフォルムへと進化。さらに、手首にフィットするように緩やかにカーブを描くフォルムとなっている。
エルメス「エルメスHO8 スケレット」
スポーティーなメンズウォッチコレクション「エルメスHO8」には従来もチタン製ケースモデルが存在したが、新作「エルメスHO8 スケレット」はひと味違う。ムーブメントまでチタン製なのだ。

自動巻き(Cal.H1978S)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(縦42×横39mm)。10気圧防水。346万5000円(税込み)。(問)エルメスジャポン Tel.03-3569-3300
2021年のエルメスHO8コレクション開始時には、グラフェン複合素材をはじめとしたハイテク素材モデルがラインナップされ、エレガントなモデルが並ぶエルメスの中で、ひと際スポーティーなコレクションとして展開されてきた。新作のエルメスHO8 スケレットに搭載されるCal.H1978Sはチタンで製作されている。デザインは、糸を編み込んだような交差するブリッジが特徴で、その合間から輪列が噛み合い、重なり合いながら、時を刻む様子が見て取れる点が魅力である。また、サテン仕上げのチタン製ケースとともにDLCコーティングが施され、統一感のあるトーンを生み出している。組み合わされるラバーストラップにも“編み込み”を感じさせるテクスチャーが施され、ムーブメントのデザインと呼応するものとなっている。
ピックアップしたブルー・ザンジバルカラーモデルは、ダークな色調のケースとムーブメントを背景に、彩度も明度も高い、ビビッドなブルーが映える配色で、エルメスHO8のスポーティーさを際立たせている。
クロノスイス「パルス GMT シルバー ギョーシェ」
最後に取り上げるのは、クロノスイスがリリースした「パルス GMT シルバー ギョーシェ」である。グレード5チタン製の本作は、ブランド史上初となる、ケースと一体化したインテグレーテッドブレスレットを採用しており、この点に注目して選出した。

自動巻き(Cal.C.6002)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。Tiケース(直径41mm、厚さ13mm)。10気圧防水。世界限定200本。418万円(税込み)。(問)栄光時計 Tel.03-3837-0783
本作の原点となるのは、1999年発表で、水平レギュレーター表示がユニークな「トラ」である。トラの独創的なデュアルタイム表示は、その後のクロノスイスのアイコンのひとつとなった。本作の機能面の原点はトラであったのに対し、デザインのベースとなったのは「パルス」ファミリーである。パルスファミリーは、クロノスイスのこれまでのラインナップの中でも、最も進歩的なモデルが並ぶコレクションで、ブランドコンセプトの「モダン・メカニカル」を象徴したものだ。
このような系譜を持って生み出されたのが、新作のパルス GMT シルバー ギョーシェである。オリジナリティーのあるデュアルタイムや、ブランドのアイデンティディーであるオニオンリュウズとコインエッジベゼルを継承し、パルスファミリーの建築的で力強く、ひと目でそれと分かるコンテンポラリーなデザインを持つ。
文字盤構成は、センターの分針と秒針、3時位置にホームタイムを表示する12時間計、9時位置に第2時間帯を表示する24時間計を配し、GMT表示と、レギュレーター表示を融合させたものだ。文字盤のベース部分には、スイス・ルツェルンにあるクロノスイスのアトリエで熟練した職人が、100年前の手動旋盤を用いて、放射状に広がる模様が浮かび上がるかのようなギヨシェ彫りを施している。

今回の特集で注目のインテグレーテッド・ブレスレットは、ラグ部のアウトラインを反復するデザインが特徴で、ポリッシュ部を加えてコントラストも加えている点が見どころだ。リンクとリンクの境目での凹凸が小さく、フラットに連なるように見える点がモダンさを生み出しており、パルスファミリーらしい造形と言える。本作の発表と同時に、基本デザインを共有する18Kゴールドモデル「パルス GMTエナメル スカイ ゴールド」も発表された。








