モンブラン、ミネルバを前面へ。日本文化と“比率の美”が交差する「ピタゴール」新章

2026.04.30

モンブランが擁するミネルバが、その名を前面に掲げて再始動した。その最初の1本として登場した「ミネルバ ヘリテイジ ピタゴール スモールセコンド ジャパン リミテッドエディション14」は、東寺や伏見稲荷に象徴される日本文化を装飾に織り込み、黄金比を基調とした「ピタゴール」の美と日本の白銀比という美の原理を重ね合わせたモデルである。

高井智世:文
Text by Tomoyo Takai
[2026年4月30日公開記事]


ミネルバの再出発を彩る日本限定モデル

モンブラン ヘリテイジ ピタゴール スモールセコンド ジャパン リミテッドエディション14

ミネルバ「ミネルバ ヘリテイジ ピタゴール スモールセコンド ジャパン リミテッドエディション14」Ref.134016
手巻き(Cal.MB M14.08)。19石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KWGケース(直径39mm、厚さ9.5mm)。5気圧防水。日本限定14本。426万850円(税込み)。

 モンブランが擁するミネルバより、「ミネルバ ヘリテイジ ピタゴール スモールセコンド ジャパン リミテッドエディション14」が登場した。本作は単なる日本限定モデルではない。ミネルバのブランド的な再定義、すなわち、これまでモンブランの高級時計製造を支えてきたミネルバが、自らの名を前面に押し出すかたちで再出発する、その最初の1本である。

日本文化へオマージュを捧げるモチーフの採用

 まず本作の特色として強調すべきは、日本文化へのオマージュを、外装とムーブメントの双方において組み込んでいる点である。

モンブラン ヘリテイジ ピタゴール スモールセコンド ジャパン リミテッドエディション14

ムーブメントのテンプ受けには、京都・東寺の五重塔がエングレービングされている。ストラップの裏側にはカーフライニングを組み合わせ、亀甲文様を採用。

 まずはトランスパレントバックからのぞくムーブメントに目を向けたい。テンプ受けには、京都の古刹(こさつ)である東寺の五重塔が精緻なレーザーエングレービングによって刻まれる。東寺は796年に創建され、1952年に国宝となり、1994年には「古都京都の文化財」としてユネスコ世界遺産に登録された歴史的建造物である。その五重塔は日本一高い木造建築として知られ、伝統的な仏教建築に見られる特徴的な裳階(もこし)様式で構成される、均整の取れたプロポーションによって日本的な美意識を象徴する存在とされる。

 文字盤側にも日本的な要素が組み込まれている。時分針およびアワーマーカーに塗布されたスーパールミノバ®は、暗所で赤みを帯びたオレンジ色に発光する。この発光色は、京都南部に位置する伏見稲荷大社へのオマージュである。同社は1万基以上の鳥居で知られ、朱色の門が連なる景観は、俗世と神域を隔てる空間として認識されている。

モンブラン ヘリテイジ ピタゴール スモールセコンド ジャパン リミテッドエディション14

針とインデックスには、京都・伏見稲荷大社の鳥居を想起させるオレンジ色のスーパールミノバ®を採用。

 さらに、ストラップ裏地には亀甲文様が採用されている。六角形が連続するこの幾何学模様は、亀の甲羅に由来し、日本では長寿や吉祥の象徴とされてきた伝統的な意匠である。着用時にはほとんど視認されないディテールにまで文化的な意味が織り込まれており、表層的なデザインを超えた奥行きが生まれている。

名機「ピタゴール」を源流とする手巻きムーブメント

 こうした日本的なモチーフは、単なる装飾にとどまらない。本作では、それらをミネルバの設計思想と結び付けている点に特徴がある。

 搭載されるのは、自社製手巻きムーブメントのCal.MB M14.08。その源流は1940年代に開発されたミネルバのCal.48系、通称「ピタゴール」にさかのぼる。この系譜は、クロノグラフで名声を築いたミネルバにおいては異色の存在であり、幾何学的な秩序と比例美に基づく設計を特徴とする。輪列は極めて整然と配置され、ブリッジは直線的かつ構造的に設計されている。

 このピタゴールの思想を読み解く鍵が「比率」である。西洋においては、黄金比(約1:1.618)が古代より美の基準とされてきた。一方、日本では白銀比(約1:1.414)が建築や工芸に広く用いられてきた比率である。京都の寺社建築にもこの白銀比が多く見られ、東寺の五重塔もまたその例外ではない。

 本作において特筆すべきは、これらの比率概念がひとつの時計の中で重ね合わされている点である。ムーブメント径が14リーニュ(約31.6mm)であること、キャリバー名「14.08」に込められた数的な要素、さらには限定数14本という設定も含め、「14」という数字が繰り返し用いられている。これは白銀比(1.414……)を想起させる数値だ。一方で、ピタゴールの源流であるCal.48は黄金比に基づく設計思想を持つ。

 加えて、Cal.MB M14.08は構造的にも見どころが多い。大型のテンプ受けはロービートのテンプを安定的に支持し、高い安定性を確保する。同時に、その広大な面積はエングレービングのキャンバスとしても機能し、東寺の意匠を成立させる基盤となっている。ジャーマンシルバー製のブリッジ、手仕上げによる面取り、V字型ブリッジといった意匠も継承され、伝統的なスイス・ヴィルレ工房の技術が色濃く反映されている。

控えめながらも豊かな質感の外装

 外装はあくまで抑制的である。直径39mmケースにサーモンカラーの文字盤、スモールセコンドという構成は、初期のミニマリズムを踏襲したものだ。文字盤にはサンレイ、グレイン、アズラージュの3種の仕上げが組み合わされ、控えめながらも豊かな質感を生む。ヴィンテージスタイルのボックス型サファイアクリスタル製風防やブラウンのアリゲーターストラップも含め、全体としては極めてクラシックなドレスウォッチの佇まいを維持している。

モンブラン ヘリテイジ ピタゴール スモールセコンド ジャパン リミテッドエディション14

ロゴはこれまでのモンブランロゴに変わり、ミネルバロゴが配されている。サーモンカラーダイアルにはグレイン、サンレイ、アズラージュ仕上げの3種類のテクスチャーを採用。インデックスと時分針はホワイトの蓄光塗料を載せたロジウム仕上げである。

ミネルバのロゴを採用

 ここで改めて、本作のもうひとつの重要な文脈に触れる必要がある。ミネルバの再浮上である。1858年、ヴィルレに創業したミネルバは、クロノグラフにおいて名を馳せた工房である。2006年にリシュモン傘下に入り、翌2007年にはモンブランの高級時計製造部門として組み込まれた。それ以降、ミネルバは表に出ることなく、モンブランのハイエンドモデルを技術面で支え続けてきた。

 しかし本作では、文字盤に筆記体のミネルバロゴのみを配するという大胆な選択がなされている。これはヴィルレ工房の技術を紡いできたミネルバが、再び前面に立つという意思表示だろう。各ムーブメントをひとりの時計師が組み上げる体制、ジャーマンシルバーの採用、ヒゲゼンマイの内製など、伝統的な製造体制は現在も維持されており、その価値を改めて提示する狙いがある。

モンブラン ヘリテイジ ピタゴール スモールセコンド ジャパン リミテッドエディション14

18Kホワイトゴールド製のリュウズには、ミネルバアローをレリーフで表現している。

 すなわち本作の新規性は三層構造をなす。第一に、日本文化の象徴(東寺、伏見稲荷、亀甲文様)を具体的なモチーフとして取り込んだ点。第二に、それらを黄金比と白銀比という比率概念を通じてムーブメント設計と結びつけた点。第三に、その名を前面に押し出すことでミネルバの再定義を図った点である。

 外観は静謐でオーセンティック。しかし、ミネルバの再出発とともに歴史と数学、ブランド哲学が高らかに明示された特別なモデルなのである。



Contact info: モンブランお客様サポート Tel.0800-333-0102


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