IWCのデザインコードを整理しただけでなく、同社のパブリックイメージをも変えたのが、チーフ・デザイン・オフィサーのクリスチャン・クヌープである。優れた品質で知られてきた同社が、(時計好きたちからすると)想像以上の認知度を得た理由には、彼とそのチームが作り上げたクリーンなデザインがあったことは間違いない。
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]
私たちが目指すのは形が機能に従うのではなく、形と機能の両立です

IWCチーフ・デザイン・オフィサー。ドイツ生まれ。デュイスブルク=エッセン大学卒業後、NPKインダストリアルデザイン、フロッグデザイン、フィリップスデザインで家具や照明、航空機インテリアなどのインダストリアルデザインを手掛ける。2008年より現職。各コレクションのリデザインに加え、ブティックの空間設計やカタログなど、ブランド全体のルック&フィールを統括する。
「イメージをシャープにして、一貫したメッセージを伝えるため、まずコーポレートデザインを変えることから始めました。ブランドのキーカラーをブラックとホワイトに揃え、書体も揃えました。そして一貫性のため、コミュニケーション、デジタルなども揃えました。重要なのは、そぐわないものを除外すること。そして、仲間たちに私たちのユニークなストーリーを絶えず伝えたのです。確信を持たせるためにね」
彼がやってきたのは、本当の意味でのデザインだったのである。そんなクヌープは、アイデンティティーの重要さを強調する。
「品質は大事ですが、それは当たり前。今の市場を考えると、他社との差別化を図り、それを認知させることが大事ですね」
加えて彼が重視するのは、顧客にとってのサプライズである。新しいセラタニウム製ポルトギーゼ・クロノグラフは、定番中の定番であるデザインを崩さず、なんと外装をオールブラックに改めてしまった。
「大事なのは過去のDNAをプロダクトに加えていくこと。そして見た目のコードを守りつつ、新しいサプライズを入れていくことですね」

定番中の定番をオールブラックに改めた、クヌープ流のサプライズ。黒を得意とするIWCだけあって、色調とテクスチャーの調整は見事。決して単調に見えないのが色気の理由か。自動巻き(Cal.69355)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。セラタニウム®ケース(直径41mm、厚さ13mm)。3気圧防水。世界限定1500本。220万3000円(税込み)。
可能にしたのは、IWCのユニークな社風である。
「形は技術に従う、というモットーは面白くないですね。だから私たちは形と技術(フォーム&テクニック)と言っています。私たちの在り方は垣根を越えて一緒にやっていくこと。どっちが上ではなく、エンジニアがインスピレーションを与えることもありますね。デザイナーからの意見があり、議論をして、3Dデータにしていくのです」
ブラックのポルトギーゼに限らず、今のIWCで目立つのが “色気”である。ツール感を残しつつも、それを昇華した手腕はちょっと類を見ない。
「それはうれしいですね。私たちはIWCをもっとエキサイトなブランドにしたいと思っています。エモーションと色気は大事ですよ」
そんなIWCが近々お披露目する新作は、読者の皆さんが思う以上に、エモーショナルでIWCらしいプロダクトであるはずだ。少なくとも、筆者はそれを保証する。



