ショパールのウォッチメイキングの本丸であるショパール マニュファクチュールが今年設立30周年を迎えた。垂直統合による一貫した生産工程を確立し、そこから生まれる「L.U.C」コレクションにはメゾンの哲学が貫かれる。発展と正統進化を続ける中、新作では次なる世代に向けてカラーや素材といった新たな息吹を注ぐ。その新鮮な魅力は、真価をさらに引き出し、時代を超越して深化を続けるL.U.Cの新境地を拓くのである。

初代「L.U.C 1860」の復刻としては、2023年に次ぐ。素材や仕上げ、スペックはこれに共通するカラーバリエーションモデルだ。文字盤にはホワイトゴールドを用い、ロゴから放射状に広がるギヨシェ装飾をより際立たせるとともに、アリューズブルーとのコントラストも映える。自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。ルーセントスティール™ケース(直径36.5mm、厚さ8.2mm)。30m防水。421万3000円(税込み)。
Photographs by Eiichi Okuyama
柴田充:文
Text by Mitsuru Shibata
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年7月号掲載記事]
L.U.C正統の成熟、その先へ
30年を経て深化を遂げた素材と装いの新境地
ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2026のショパールブースは、華やかな賑わいの中にも例年とは少し異なる雰囲気が漂っていた。新作がきらめくサロンスペースの中央に、年代物の旋盤が設置され、職人が細密な作業に勤しむ。それは、ショパール マニュファクチュール30周年を祝し、そこに込められたクラフツマンシップと、伝統装飾の芸術性をより強く打ち出したものだった。

ドレスアップした来場者が見守る中、披露されていたのはメタレムによる「L.U.C」の文字盤製造の様子だ。同社は、創業から100年近い文字盤装飾の名門であり、2020年からショパール グループへと加わった。200名以上の熟練した職人が結集し、40種もの専門技術を擁する。それでもこの会場で行われているレベルの手動旋盤によるギヨシェが施せるのは、わずか8名に限られ、使われている旋盤も100年以上前のものという。「ギヨシェ装飾はアートであり、使い込まれた歴代の道具は職人の手の一部となり、これでなければ表現できないのです」と、担当者は自負を込めて語った。

ショパール マニュファクチュールを象徴するL.U.Cコレクションは、時計作りにおけるメゾンの理想の追求であることは言うまでもない。基本構想は1985年に始まり、93年にプロジェクトが本格スタート。その3年後に発表された最初のムーブメント、キャリバーL.U.C 1.96は、マイクロローターを備えた自動巻き機構に加え、二重香箱による約65時間の長時間駆動を実現し、COSC認定クロノメーター基準の高精度を満たした。伝統的な時計技術に最新性能を備えた革新作だった。そして、ここから始まったL.U.Cは、技術革新ばかりでなく、さらに美術工芸としての審美性をまとう。その一角を担うのがメタレムなのである。

L.U.C 1860の新作からは、時を経て磨き抜かれた風格に、新たなスタイルが伝わってくる。文字盤はもちろん、美の探求はムーブメントにも注がれ、シースルーバック越しに見られるキャリバーL.U.C 96.40-Lには、優美な装飾が施される。それは所有者にしか味わえない、真のラグジュアリーと言えるだろう。


深みと味わいあるブルーは、マニュファクチュールの近くを流れるアリューズ川から着想を得たという。それは、共同社長のカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏が好むフォーマルなネイビースーツのカラーを思わせ、たゆたう流れでもL.U.Cの哲学は決して揺るがない。
薄型時計は、スリムさと機能を両立した専用ムーブメントや、高度なケーシングに加え、まるで「第2の皮膚」のように手首になじむ、心地よい装着感から高く支持されている。一度着ければ手放せなくなり、味わう至福の充足感は、熟練職人による伝統的なビスポークスーツをまとう喜びにも重なるだろう。

文字盤のプルシアンブルーは、18世紀にプロイセン王国の首都ベルリンで誕生した顔料だ。ショパール マニュファクチュールを擁するヌーシャテル州は、かつてプロイセン支配下にありながら後にスイス連邦へ加盟した、稀有な二重帰属の歴史を持つ。メゾンは本作にその伝統のブルーを採用し、特異な歴史への敬意を表した。自動巻き(Cal.L.U.C 96.12-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。ルーセントスティール™ケース(直径40mm、厚さ7.2mm)。30m防水。192万5000円(税込み)。
ショパールは、これまでも現代のジェントルマンにふさわしいモダンクラシックスタイルとして、「L.U.C XP」のバージンウールのメリノストラップ仕様や、ナポリの名門テーラー、キートンとのコラボレーションにより微細な千鳥格子柄を文字盤にあしらってきた。メゾンとファッションの親和性は高く、「L.U.C XPS」の新作が提案するのも、薄型時計の新たなラグジュアリースタイルだ。

ケースは厚みを7.2mmに抑えながらも、あえて直径を40mmにしたモダンなプロポーションで、快適なフィット感を享受しつつ、その存在感を損なわない。そして広がった文字盤には、マニュファクチュールの位置するフルリエとも歴史的な縁のある美しいプルシアンブルーに加え、1930年代のモダニズムを連想させるセクターダイアルを採用している。スモールセコンドを備えた3針仕様で、カレンダーを省いたドレッシーな機能美を際立たせるのだ。

現代のジェントルマンの定義のひとつは、伝統を重んじると同時に、先進的な理想を受け入れることだとショパールは説く。そしてスタイルからは余分な装飾や一時的な流行を排除し、精緻な職人技を尊ぶのだ、と。それを具現化した新作は、カジュアルからドレッシーまで日常のあらゆるシーンにシームレスに応え、まさに現代のダンディズムが薫るのである。

これまで30年にわたってショパールマニュファクチュールを率いてきたカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏だが、近年では時代やマーケットの変化に伴い、世代交代をほのめかしている。常に時が進み続けるように、途切れることなく前進し続けること。それは独立系オーナーメゾンにとって宿命だろう。一族の意志を継ぐ後継者が、ショイフレ氏の長男カール-フリッツ氏だ。

すでにその力量は、いまやショパールのメンズウォッチのアイコンとなった「アルパイン イーグル」の開発を指揮したことでも証明された。そして、「L.U.C タイム トラベラー ワン」の新作からも、若い世代の新たな息吹が感じられる。
ケース側面の2時位置のリュウズでローカルタイムを調整し、4時位置のリュウズで都市ディスクを12時に合わせ、世界24都市の時刻を表示する。2016年に発表されたこのオーセンティックなワールドタイマーをモダンに解釈し、スタイリッシュに仕上げた。チタンの軽量性とセラミックスの硬度や耐傷性を併せ持つセラマイズドチタンの渋銀ケースに、カーキの文字盤やストラップを組み合わせた、冒険と好奇心あふれるフィールドウォッチを思わせる躍動感あるデザインだ。

カール-フリッツ氏は、ヴィンテージファッションや日本のデザイナーズブランドにも強い興味を持ち、来日時には目を輝かせていたほどだ。腕時計に息づくファッションセンスもうなずける。
L.U.Cは、伝統的なスイスの時計製造や文化を継承しつつ、時代の先進技術を取り入れ、独自のウォッチメイキングを極めるために生まれた。その底流にある、次世代につなぐという強い意志は、若きリーダーへと託されるのである。

ケースに採用したセラマイズドチタンは、超高温下でのプラズマ電解酸化処理で生成される。表面のセラミックス層は最大1000ビッカース硬さを誇り、ベースのグレード5チタンをはるかに超える硬さを獲得した。耐摩耗性や耐衝撃性、耐腐食性に優れ、マットな渋銀色からもタフネスが漂う。自動巻き(Cal.L.U.C 01.05-L)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラマイズドグレード5チタンケース(直径42mm、厚さ12.09mm)。50m防水。世界限定250本。287万1000円(税込み)。



