「手の届くラグジュアリー」で時計市場を突き進め! フレデリック・コンスタントのCEOをインタビュー

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2026.11.06

世界経済を背景に、あるいはブランディングを目的に、高価格帯の腕時計を販売するブランドが増えている。そんな中、「手の届くラグジュアリー」を変わらずに標榜し続けているスイスの時計ブランドがある。フレデリック・コンスタントだ。2026年はジュネーブ・ウォッチ・グランプリ(GPHG)に、同社のふたつの新作モデルがノミネートされており、ブランドとしての勢いの強さを感じさせる。そんなフレデリック・コンスタントのCEO、ニールス・エガーディンがGPHGノミネート作を携えて、来日。GPHGの製品について、そして「手の届くラグジュアリー」のための企業努力について、話をうかがった。

高橋敬大:写真
Photograph by Keita Takahashi
鶴岡智恵子(クロノス日本版):取材・文
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2026年11月6日公開記事]


GPHGのノミネートからもうかがえるブランドの“勢い”

 1988年の創業以来、「手の届くラグジュアリー」を理念としてきたスイスの時計ブランド、フレデリック・コンスタント。世界的なインフレや外国為替市場におけるスイスフラン高の影響で腕時計の価格は上がり続けており、とりわけ日本市場では、円安が影響してくる海外ブランドの高騰を嘆く声は大きい。また、長らく高価格帯の製品が好調であった時計市場を背景に、高級路線へと舵を切ったブランドも少なくない。

 そんな中にあっても、消費者にとって「手の届きやすい価格」を維持し続けている時計ブランドはある。フレデリック・コンスタントは良心的な価格設定に加えて、2004年にリリースした「Cal.FC-910」以来、マニュファクチュールムーブメントをも、一部のコンプリケーションモデルや貴金属を使ったモデルを除いて、60〜80万円台のレンジで提供しているのだ。

 さらに2026年は、このマニュファクチュールムーブメントを搭載したワールドタイマーを刷新。パワーリザーブを従来の約38時間から約72時間へと延長し、同時に、より手の込んだ文字盤を採用した。そんな新しい「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」、そして同じく今年の新作である「クラシック モネータ ハンドワインディング」が、「時計業界のアカデミー賞」とも称されるジュネーブ・ウォッチ・グランプリ(以下GPHG)のファイナリストに残ったことは、同ブランドの勢いを象徴するニュースであった。

 このふたつのノミネート作品を携えて、フレデリック・コンスタントを率いるCEOのニールス・エガーディンが来日した。ノミネート作品の出来栄えとは? なぜフレデリック・コンスタントは「手の届くラグジュアリー」を標榜し続けられるのか? いくつかの質問から、同社の現在地が見えてきた。

ニールス・エガーディン

ニールス・エガーディン
1978年、オランダ生まれ。2012年にフレデリック・コンスタントの創設者であるピーター・スタースと会い、同社の営業副部長に就任。2018年にはマネージング・ディレクターに起用され、2023年から現職へ。2020年には「ハイライフ」を発表した。

目を引く文字盤の「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」

 GPHGの「小さな針」部門にノミネートされているのが、クラシック ワールドタイマー マニュファクチュールだ。この部門は、4500〜1万スイスフランの販売価格の時計を対象にしている。

フレデリック・コンスタント クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール

フレデリック・コンスタント「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」Ref.FC-719BLW3H6
ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表された「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」。自動巻き(Cal.FC-719)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ12.53mm)。5気圧防水。88万円(税込み)。

 これまでフレデリック・コンスタントには同名コレクションがラインナップされてきたが、世界各都市の時刻を同時に表示させるワールドタイム機能はそのままに、改良したムーブメントCal.FC-719を搭載することで、パワーリザーブを約72時間へと延長したのは、前述の通りだ。

「香箱を15〜20%ほど大きくして、主ゼンマイを長くしています。この主ゼンマイは薄くすることで、より大きな容量を収められるようにしました。香箱を拡大したことで輪列の位置の見直しも行いましたが、実際に変更したコンポーネントは6%で、残り94%は以前に搭載していたCal.FC-718と同一です。なお、我々はテンプの振動数を落とすことはしていません。性能を落としたくはありませんから」

 このムーブメント改良のアプローチは、すでにフレデリック・コンスタントのマニュファクチュールコレクションで行われてきたものだ。今回ワールドタイマーモデルが刷新されたことで、トゥールビヨン搭載モデルとビッグデイトモデル以外は、すべて「パワーリザーブ約72時間」がスタンダードになったというのだから驚きだ。「今後、すべてのマニュファクチュールムーブメントのパワーリザーブを約72時間にしますよ」。

Cal.FC-719

ケースバックがトランスパレントとなっており、ムーブメントを観賞できるのは前作から変わらず。しかし、青焼きネジの数やブリッジの装飾等、性能にとどまらず美観の面でも刷新されていることも、特筆すべき点だ。アップグレードされたすべてのマニュファクチュールムーブメントは、新しさを強調するために、従来品から仕上げを変更しているのだという。

 さらに、文字盤にも変更が加えられている。従来のワールドタイマーモデルも、世界地図を文字盤に凝縮させた意匠で、ワールドタイム機構の醍醐味を楽しめる名作であったが、新作モデルはこの世界地図がより際立つデザインになっているのだ。その理由は、日付表示の小窓がなくなったことに加えて、巧みな仕上げの使い分けが大きいだろう。世界地図の海にあたる部分または大陸に梨地仕上げが取り入れられ、そのほかの面とのコントラストが強められている。

フレデリック・コンスタント クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール

明るい光源下で見ると、梨地の目の細かさや世界地図の精緻な意匠がよく分かる。

「文字盤の世界地図をこれほど明るく、鮮やかな色にしたのは今回が初めてです。また、ハイエンドな意匠とするために、グラデーションも使いました。文字盤の構造も複雑になっていて、ざらざらとした梨地の質感を取り入れたほか、文字盤と地図とで異なる素材を使用し、加えて地図のレリーフをより立体的にしました。都市名はプリントで記しています」

フレデリック・コンスタント「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」Cal.FC-719LBWD3DH6

フレデリック・コンスタント「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」Cal.FC-719LBWD3DH6
GPHGノミネート作品にはグラデーションブルーが用いられているが、本作のほか、ダークなブルー文字盤、または世界限定88本のみ生産された淡いブルーとグレーを使った上の画像のモデルもリリースされた。自動巻き(Cal.FC-719)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ12.53mm)。5気圧防水。世界限定88本。完売。

 性能、美観ともにアップグレードされたにもかかわらず、本作は従来モデルとの価格差を10万円以内に抑えた88万円(税込み)での値付けになる点も、非常に好ましい。この原稿を書いている時点ではGPHGの結果は不明だが、筆者は断然フレデリック・コンスタント推しになった。

手巻きムーブメントを搭載した「クラシック モネータ ハンドワインディング」

フレデリック・コンスタント クラシック モネータ ハンドワインディング

フレデリック・コンスタント「クラシック モネータ ハンドワインディング」Ref.FC-435BBL3S6
2026年のジュネーブ・ウォッチ・デイズで発表された新作「クラシック モネータ」。手巻き(Cal.FC-435)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約63時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ10.13mm)。5気圧防水。世界限定999本。35万2000円(税込み)。

 もうひとつ、GPHGに出品され、ファイナリストへと駒を進めたフレデリック・コンスタントの今年の新作モデルがある。「クラシック モネータ ハンドワインディング」だ。GPHGでは、販売価格が4500スイスフラン以下の時計が対象となる、「チャレンジ」部門でのノミネートとなる。

 クラシック モネータ ハンドワインディングを初めて見た時、文字盤中央から外周にかけてブラウンを濃くしていくグラデーション使いや、このブラウンの雰囲気とマッチした梨地仕上げが目を引いた一方で、手巻きムーブメントを搭載していることが意外であった。なぜなら現在の時計市場は自動巻きモデルかクォーツモデルが主流であり、手巻きとなるとかなりニッチで、とりわけフレデリック・コンスタントのようなミドルレンジには珍しい仕様であったためだ。「クラシック」は薄型ケースもひとつの特徴であるため、薄く仕立てたいのかと考えたものの、であればクォーツムーブメントを搭載すれば良い。なぜ、あえて手巻きムーブメントを選んだのだろうか?

「私たちは2024年、『クラシック モネータ』をとてもシンプルなクォーツウォッチとして打ち出しました。2026年にはソーラーウォッチをリリースしています。クラシック モネータの成功を受けて、私たちは、今度は違うことをしたいと考えました。このコレクションはヴィンテージ感のあるデザインです。だとしたら、次の新作は手巻きムーブメントがふさわしいと考えたのです。もちろん、薄さのためというのもありますけどね」

クラシック モネータ ハンドワインディング

直径38.5mm、厚さ10.13mmのケースは全長も短く設計されており、男女問わず身に着けやすいサイズ感となっている。

 なお、このムーブメントはラ・ジュー・ペレ製ということもあり、35万2000円(税込み)と、前述したマニュファクチュールコレクションと比較して、いっそうリーズナブルな価格帯に位置付けられている。

 クラシック ワールドタイマー マニュファクチュールもクラシック モネータ ハンドワインディングも、技術的な新しさ、コンセプトのユニークさという点で、快作であると感じた。同時にこれらの快作からは、中国や米国といった、これまで高級時計の売買を支えてきた市場に先行き不安が出てきている中にあっても、ブランドとしての勢いを維持していることを感じさせられた。

 GPHG、いけるんじゃないの? という気持ちを込めてエガーディンに問うと、彼は笑いながら「ノミネートされたこと自体が、非常に光栄ですよ。また、多くのメディアやお客様に『このモデルが欲しい』と言ってもらえることも光栄です」と、意外にも控えめな回答が返ってきた。もっとも、「この腕時計を製造することに費やした努力や時間が評価されたと確信しています」とも、明快に答えてくれた。


どのようにして「手の届くラグジュアリー」を実現しているのか?

ニールス・エガーディン

インタビュー中、終始楽しそうに回答してくれたエガーディン。ブランディングにとどまらず、外装やムーブメントといった製品のテクニカルな質問にもよどみなく答える様は、彼の製品知識の深さやCEOとしてのイニシアチブを感じさせるものであった。

 なぜフレデリック・コンスタントは高級時計の価格高騰が顕著な中にあっても、今回取材した新作モデルをはじめ、高品質な「手の届くラグジュアリー」をユーザーに提供することができるのだろうか? 加工技術の発達で、価格や原産地を問わず、腕時計の外装およびムーブメントのクォリティは年々向上している。しかし、フレデリック・コンスタントのように、マニュファクチュールムーブメントやニッチな手巻きモデルを、ベーシックな価格で提供し続けられるブランドというのは、そう多くない。エガーディンは、ふたつの理由を語ってくれた。

「もちろん、品質を保ちながら価格を維持するというのは簡単なことではありません。私たちは、まず販売数を伸ばすことを意識しています。利益率は低くなりますが、たくさん売れば、競合他社のようにアグレッシブに値上げするということをしなくて済みます。また、私たちは優秀なベースムーブメントを所有しているということも大きな強みです。先ほどお伝えしたように、今回パワーリザーブを延長しましたが、ベースムーブメントは約10年私たちが使ってきたものであり、改良自体がごくわずかなものです。我々のR&Dは大きな設計変更をすることなく、引き続きフェアな価格で、新型ムーブメント搭載モデルを提供することができているのです」

 年産数こそ教えてもらえなかったが、高級腕時計ブランドはあまり語りたがらない販売数と利益率の関係を、こともなげに口にするエガーディン。そこには、創業以来、「手の届くラグジュアリー」を真摯に堅持してきたフレデリック・コンスタントの矜持、そして価格を上回る品質の腕時計を提供し続けているという自信をうかがい知ることができた。


来年の“目玉”を匂わせつつ、時計市場を突き進む

 GPHGのファイナリスト進出作の出来栄えをはじめ、2026年もブランドの勢いを感じさせる顔を見せてくれたフレデリック・コンスタント。なお、エガーディンは来年のさらなる躍進をも垣間見せてくれたので、その言葉を最後に記しておきたい。

「今はまだ詳しく言えませんが、来年は非常に強力な新作ラインナップになりますよ。ハイエンドモデル、ベーシックモデル、そしてユニークなコラボレーションモデルを用意しています。4月のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ、9月のジュネーブ・ウォッチ・デイズ、そして11月のドバイ・ウォッチ・ウィークでローンチします。そうそう、ラ・ジュー・ペレとのコラボレーションも強化していきます。楽しみにしていてくださいね」



Contact info:フレデリック・コンスタント相談室 Tel.0570-03-1988


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