2026年、ザ・シチズンの新作として発表された「AQ4106-00B」は、高知県の伝統工芸である土佐和紙の一種、雲龍紙をダイアルに採用したモデルだ。金色の繊維を織り交ぜたダイアルは、ひとつとして同じ模様が存在しない。淡い色合いのサクラピンク®のケースとワニ革ストラップを組み合わせた、本作の魅力を深掘りする。

Text by Tsubasa Nojima
[2026年11月7日公開記事]
日本の美意識を取り入れてきた「ザ・シチズン」
腕時計のダイアルは単に時刻を表示するパーツではなく、その時計の個性を決定づけるという役割もある。色彩や仕上げ、素材の選択によって、同じデザインの時計であっても、まったく異なる印象を与えることが可能だ。近年では、ダイアルの素材や装飾に伝統工芸を取り入れたモデルも珍しくない。中でも象徴的な存在のひとつと言えるのが、ザ・シチズンが積極的に採用してきた和紙である。
和紙は日本で古くから親しまれてきた素材であり、独特の柔らかな風合いを持つ。繊維の長さやすき方によって異なる表情を生み出すことが可能であり、手作業によって生み出される不規則な模様も魅力だ。個体差を抑えた工業製品とは異なる、温かみのある質感を楽しむことができる。
ザ・シチズンに和紙ダイアルが採用されたのは2017年のこと。以来、さまざまな種類の和紙や色彩を用いることで、表現の幅を広げてきた。和紙の採用に至ったのは、単にデザインを重視したからだけではない。光発電技術「エコ・ドライブ」を搭載するザ・シチズンにとって、和紙は機能的にも理にかなった素材なのである。
エコ・ドライブは、ダイアルを透過した光をソーラーセルで電気エネルギーに変換し、時計を駆動させるという仕組みを持つ。そのためダイアルには、光の透過性が求められる。障子や行灯などにも用いられてきた和紙は、光を柔らかく通す性質を備えており、エコ・ドライブとの相性がよいのだ。日本の伝統的な素材を用いることで、独特の審美性と実用性を両立させる。和紙ダイアルは、ザ・シチズンならではの個性を形作る要素となっている。

金色の繊維を織り交ぜた雲龍紙をダイアルに採用した、世界限定350本の特別モデル。淡いデュラテクトサクラピンク®のケースとダークブラウンのワニ革ストラップを組み合わせ、上品で華やかな雰囲気に仕上げている。光発電エコ・ドライブ(Cal.A060)。フル充電時約1.5年可動(パワーセーブ作動時)。スーパーチタニウム™ケース(直径38.3mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。世界限定350本。46万2000円(税込み)。
金色の繊維を織り交ぜた、特別な雲龍紙ダイアル
今回取り上げる「AQ4106-00B」の最大の見どころは、高知県の伝統工芸である土佐和紙を用いたダイアルだ。採用されているのは、長い繊維をすき込むことで独特の模様を生み出す「雲龍紙」。繊維が不規則に絡み合い、まるで雲がたなびいているかのような表情を持つことが、その名の由来となっている。
一般的な筆記用の紙であれば、繊維の均一性が求められるだろう。しかし雲龍紙では、繊維の流れや重なりによって生まれる不規則な模様こそが魅力となっている。本作では、そんな雲龍紙に金色の繊維を織り交ぜることで、華やかさを添えている。淡く柔らかな色調をベースとしながら、そこに金色の繊維が浮かび上がることで、奥行き感のある表情が生まれているのだ。
さらにこの金色の繊維の入り方は、個体によって異なる。多くの腕時計において、ダイアルの模様には型打ちや着色が用いられ、どの個体も同じ仕上がりとなる。しかし雲龍紙の模様は、あらかじめ決められたパターンを印刷したものではない。実際の繊維が作り出すものであるため、その配置や重なり方は1枚ごとに異なる。同じAQ4106-00Bであっても、まったく同じ模様のダイアルを持つ個体は存在しないのである。世界限定350本という稀少なモデルでありながら、さらに好みの模様を探し出すという楽しみもある。

ダイアルの基本的なレイアウトは、ザ・シチズンらしいオーソドックスなものだ。シンプルなバーインデックスとシャープな時分針を組み合わせ、3時位置には日付表示を配置。ダイアルの装飾性を保ちつつも、時刻の読み取りやすさを損なわないようにまとめられている。6時位置にはザ・シチズンを象徴するイーグルマークが輝く。このマークは、「常に先を見据え、理想を追求する」「身に着ける方に永く寄り添う」というブランドのふたつの意思を表すものだ。
サクラピンクのケースとワニ革が生み出す上品な佇まい
ダイアルの華やかさを一層引き立てているのが、淡いピンク色を帯びたケースだ。本作のケースには、シチズン独自のスーパーチタニウム™が採用されている。これはチタンに独自の表面硬化技術であるデュラテクトを施した素材であり、軽さと優れた耐傷性を両立していることが特徴だ。
本作では、デュラテクトのなかでもサクラピンク®と呼ばれるカラーを採用している。一般的なピンクゴールドカラーに比べて淡く、柔らかな色合いを持ち、華やかさの一方で過度に主張しない仕上がりとなっている。
デュラテクトサクラピンク®は、審美性だけでなく、耐久性にも優れる。表面硬度はビッカース硬度で1100から1500HVを備え、日常使用によって生じる擦過傷を抑える効果が期待できる。加えて、変色しにくい性質を持つことも、長期間使用する腕時計にとっては魅力だ。ケース径は38.3mm、厚さは12.2mm。近年の腕時計としては比較的コンパクトな直径であり、袖口にも収まりやすい。ビジネスシーンでも使いやすい寸法だ。
風防には、クラリティ・コーティングを施したデュアル球面サファイアクリスタルを採用。表裏両面の反射を抑えることで、ダイアルの視認性を高めている。和紙ダイアルをクリアに楽しむことができるのも大きなメリットである。
ストラップはワニ革製を採用し、時計全体にクラシックな雰囲気を作り出している。このワニ革は、環境への配慮や製造工程の安全性などを評価する国際団体、LWG(レザーワーキンググループ)の認証を受けたタンナーによって生産されたものを使用している。シチズンの企業としての姿勢が表れた素材選定だ。

年差±5秒の高精度を支えるCal.A060
工芸的なダイアルや華やかな外装に目を奪われがちだが、本作は時計としての実用性にも妥協がない。搭載するムーブメントは、光発電エコ・ドライブのCal.A060。ザ・シチズンの多くのモデルが採用する、年差±5秒の高精度を誇るムーブメントだ。
さらに、光発電エコ・ドライブは定期的な電池交換を必要とせず。フル充電時には、パワーセーブ作動状態で約1.5年間の駆動が可能である。パーペチュアルカレンダー機構を搭載し、うるう年や月末の日数の違いを自動的に判別してくれる。時刻の調整や電池交換、月末ごとに日付修正する必要がほとんどない気軽さも魅力だ。
また、衝撃による針ズレを防ぐ衝撃検知機能や、針ズレが生じた際に自動的に修正する針自動補正機能も搭載。これらと1種耐磁性能を組み合わせた独自技術パーフェックスによって、正確な時刻表示を維持しやすい。時差設定機能を備え、タイムゾーンをまたぐ移動であっても、時針を単独でジャンプさせることで、運針を止めることなくローカルタイムに合わせることができる。
日常に寄り添う、工芸品としての腕時計

腕時計は、精密な工業製品であると同時に、身に着ける人の感性を映し出す装身具でもある。正確に時を刻み、長年にわたって使い続けられることはもちろん、所有する喜びや、眺める楽しさもまた、腕時計の大切な魅力だ。今回発表されたAQ4106-00Bは、そんな腕時計が持つふたつの側面をシチズン流に融合させたモデルと言えるだろう。
最大の特徴である雲龍紙のダイアルは、金色の繊維が不規則に織り込まれることで、1本ごとに異なる表情を生み出している。そこにサクラピンク®のケースとワニ革ストラップを組み合わせることで、華やかでありながらも落ち着いた佇まいを実現した。ひとつひとつは個性的な要素だが、全体としては調和の取れたデザインにまとめられている。
時計としての基本性能に目を向ければ、年差±5秒の高精度エコ・ドライブをはじめ、軽量で耐傷性に優れるスーパーチタニウム™製ケースや10気圧防水など、日常使用を支える仕様が充実している。繊細な工芸品のような表情を持ちながらも、特別な日にだけ取り出すのではなく、普段から気兼ねなく使えることが、本作の魅力なのである。
中でも使い続けるほどに愛着を深めてくれるのが、雲龍紙ならではの個体差だろう。自分が選んだ1本にしか存在しない繊維の模様は、単なる装飾を超えて、その時計への思い入れを生み出す要素となるはずだ。
工業製品としての完成度を追求しながら、伝統工芸が持つ唯一無二の美しさを取り入れる。AQ4106-00Bは、ザ・シチズンが掲げる「身に着ける方に永く寄り添う」という理念を、機能と意匠の両面から体現した腕時計なのだ。



