ユリス・ナルダン創業175周年 サヴォアフェールとメティエダールの結晶

FEATURE本誌記事
2021.10.09

1846年の創業以来、船舶用マリンクロノメーターを製造し、各国の海軍に採用されてきたユリス・ナルダン。加えて、優れた時計製造技術と精度を競うコンテストにおいて優勝してきた実績は、今につながる高精度タイムキーピングを物語るに十分だ。そうした歴史的な遺産を武器に、現代技術を投入することで、創業175周年を迎えた2021年、ユリス・ナルダンの次世代を担うべく17年にリリースされた「マリーン トルピユール」に、同社の集大成と言うべき限定モデルが登場した。

マリーン トルピユール

(右)マリーン トルピユール トゥールビヨン グラン・フー
シリコン製のガンギ車とアンクル、定力装置で構成される特許取得済みの「UNコンスタント・エスケープメント・トゥールビヨン」を搭載。受けを持たないフライングトゥールビヨンであることに注目。自社製のグラン・フー ブラックエナメルダイアルを備える。自動巻き(Cal.UN-128)。36石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径42mm、厚さ11.93mm)。50m防水。世界限定175本。585万2000円(税込み)。
(左)マリーン トルピユール ムーンフェイズ
自社製ムーブメントCal.UN-118にムーンフェイズ表示を備えたCal.UN-119を搭載。文字盤はホワイトラッカー仕上げ。スモールセコンドには他の限定モデル同様、175周年限定モデルを証す「CHRONOMETRY SINCE 1846」表示を持つ。C.O.S.C.認定クロノメーター。自動巻き(Cal.UN-119)。45石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径42mm、厚さ11.13mm)。50m防水。世界限定300本。119万9000円(税込み)。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2021年11月号掲載記事]


マリンクロノメーターから受け継ぐ「精度」と「意匠」

マリーン トルピユール ブルーエナメル
傘下に収めたドンツェ・カドラン製のグラン・フー ブルーエナメルダイアルを搭載。焼成後、エナメルの表面を研ぎ上げることで、艶を出しつつも平滑すぎず、味わい深い面を持つ。ブルーの色合いが個体ごとに異なるのも魅力のひとつ。C.O.S.C.認定クロノメーター。自動巻き(Cal.UN-118)。50石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径42mm、厚さ11.73mm)。50m防水。世界限定175本。138万6000円(税込み)。

 今年、創業175周年を迎えたユリス・ナルダン。1846年に工房をスイスのル・ロックルに設立して以降、その高い技術力によって生み出されたマリンクロノメーターを世界各国の海軍に提供してきた実績は、同社の名声を高めるに十分であった。

 日本との関わりも深く、1904年に勃発した日露戦争の日本海海戦(1905年)において歴史的な勝利を収めた大日本帝国海軍の連合艦隊旗艦を務めた戦艦「三笠」にも同社製のデッキクロノメーターが搭載されていた。当時、国家の命運を懸ける戦艦に採用されるほど、ユリス・ナルダンのマリンクロノメーターは高精度で信頼されていたのだ。その事実は、実に説得力がある。

エナメル文字盤の製造工程

ユリス・ナルダン傘下のドンツェ・カドランによるエナメル文字盤の製造工程。(右から)文字盤のベースとなるメインプレートに、均質に粉砕したエナメルパウダーを水と混ぜながら、4~5層にわたって塗布する。エナメル層で覆ったプレートをオーブンに入れ、800℃以上の高温で焼成する。

エナメル文字盤の製造工程

(右から)焼き上がったエナメル質の表面を研磨材で均一に研ぎ上げる。オーブンでの最終工程を経て、さらに表面を磨いた後、3つのプレートにカット・調整する。3つのプレートを組み上げて裏から溶接した後、文字盤表面にブランド名、インデックスなどを転写する。ひとりのエナメル職人がひとつのダイアルを手掛け、約2日間を要する。

 こうした歴史的な背景を持つ同社のアイコンモデル「マリーン クロノメーター」が、より現代的にリニューアルされたのは2017年。さらに軽量化・薄型化された「マリーン トルピユール」として、自由なスピリットを持つ冒険家のための腕時計としてリリースされた。「トルピユール」とはフランス語で「駆逐艦」を意味し、英語では「デストロイヤー」と呼ばれる小型艦を指す。三笠のように、主砲を持つ大型戦艦が、第2次世界大戦の頃には航空機の標的となるため、姿を消していくなか、小型ながらも高速で小回りの利く駆逐艦は、今なお活躍することから、ユリス・ナルダンが同モデルに込めた現代性を理解できるだろう。

 長らくユリス・ナルダンのアイコンモデルのひとつであったマリーン クロノメーターのケース径が43mmなのに対し、新設計されたマリーン トルピユールはより現代的で、今や標準的と言える42mmに小型化された。注目すべきは、同じ自社開発キャリバーUN-118を搭載しつつも、ケース厚約14mmの前者に対し、後者では約11mmと、およそ3mmも薄くすることに成功し、そのモデル名通り、小回りの利く取り回しを実現しているのだ。まさに次世代を担うにふさわしいモデルと言えよう。

UNコンスタント・エスケープメント・トゥールビヨン

2000年以降、ユリス・ナルダンが取り組んできたシリコンテクノロジーの成果である「UNコンスタント・エスケープメント・トゥールビヨン」を構成するシリコン製ガンギ車(左)と、シリコン製のアンクルを含む定力装置(右)。ガンギ車からアンクルに伝達される動力を、バネ性を持たせたシリコンパーツで一定に保ちつつ、テンプに伝える。シリコン製のため、軽量化できるのもメリットだ。

 創業175周年を迎えた2021年、ユリス・ナルダンはこのマリーン トルピユールに同社の歴史的な遺産と、今持てる技術をふんだんに盛り込んだ。伝統的な同社のマリンクロノメーターのコードである12時・6時位置のダブルカウンターに加え、ローマンインデックス、カセドラル型時分針の意匠を受け継ぎつつも、2000年以降、同社が他社に先駆けて研究開発に取り組んできたシリコン製パーツを搭載。そして、今や内製化を果たし、ますます研ぎ澄まされた面を持つエナメルダイアル搭載モデルも加わった。新作全7モデルのうち、ここでは象徴的な3モデルを紹介するが、ほかにアニュアルカレンダークロノグラフ搭載機もラインナップされ、同社の現代技術力がいかんなく、発揮されている。

 いずれも175年にわたってユリス・ナルダンが培ってきたウォッチメイキングの歴史に裏打ちされたサヴォアフェール=ノウハウとメティエダール=職人技が結晶した、同社最新の成果である。

Cal.UN-118、Cal.UN-128

右は、創業175周年を記念してリリースされた限定3針モデルが搭載する自社開発ムーブメントCal.UN-118。シリコン製ヒゲゼンマイと、シリコンにダイヤモンドコーティングを施したダイヤモンシル製の脱進機(ガンギ車とアンクル)を採用する。左は、通常の「マリーント ゥールビヨン」が搭載するフライングトゥールビヨンムーブメントCal.UN-128。キャリッジを支えるブリッジがないのが特徴。



Contact info: ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791

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