未来を探求し〝今〟を創造するユリス・ナルダン

FEATURE本誌記事
2021.06.07

ブランドロゴにあしらわれた碇のマークが示すように、歴史的にユリス・ナルダンといえば、かつて航海に必須であったマリンクロノメーターの製造でその名を馳せ、以来、海のイメージをまとった時計メーカーとして知られてきた。だが、現代のユリス・ナルダンは、そうした歴史を受け継ぎつつも、「X」というコードに新たなコンセプトを込め、モダンなスケルトンウォッチを矢継ぎ早に世に送り出している。現代のユリス・ナルダンが打ち出すニューコード「X」の秘密を、2021年の新作から解き明かす。

ダイバー X スケルトン

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2021年7月号 掲載記事]


Pursuit of Modern Skeleton

ダイバー X スケルトン

ダイバー X スケルトン
2021年に創業175周年を迎えたユリス・ナルダンが、4月に開催されたウォッチズ&ワンダーズで発表した世界限定175本の新作。現行のダイバーコレクションの「ダイバーX」と、エグゼクティブコレクションの「スケルトンX」が持つ要素を巧みに融合した現代のユリス・ナルダンを象徴する新機軸が、この「ダイバーX スケルトン」である。ブルーPVDを施したチタン製ケースに、同じくブルーの航空宇宙素材のカーボニウム製ベゼルを搭載。自動巻きのスケルトンムーブメントは、一際目を引く大型のシリコン製テンワに加え、シリコン製の脱進機(ガンギ車とアンクル)を採用する。左はオーシャンブルー、右はスーパーチャージドオレンジのラバーストラップを装備。自動巻き(Cal.UN-372)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約96時間。Ti(直径44mm)。200m防水。世界限定175本。各267万3000円(税込み)。

 かつてユリス・ナルダンを成功へと導いた技術の探求に加え、最先端にチャレンジし続けること。近年、同社が打ち出す「X」というコードには、こうしたメッセージが込められている。同時に、この「X」はデザインモチーフでもある。それが見事に体現された新作が、今回紹介する「ダイバーX スケルトン」と「ブラスト アワーストライカー」だ。このふたつの新作が、現代のユリス・ナルダンを象徴していると言っても過言ではない。両者に共通するのは、「X」をモチーフにしたスケルトンとオープンワークが描き出すモダニティにほかならない。

 それを踏まえて、ダイバーX スケルトンを注視すると一層興味深い。同社のアイコンである「マリーン ダイバー」という伝統に、「X」をモチーフにしたスケルトナイゼーションという新機軸の挑戦を採り入れた賜物だからだ。ベースとなったのは手巻きのスケルトンムーブメント、キャリバー371。これを自動巻き化したのが、今作が搭載するキャリバー372である。自動巻き化した理由は、ダイバーズウォッチはスポーツウォッチのカテゴリーにあるからだ。躍動するスポーツウォッチには自動巻きが相応しい。しかし、スケルトンを際立たせるには視界を遮る回転錘のない手巻きが望ましい。この相反する要件への挑戦は、「X」に込められたコンセプトにも合致する。

 同社の開発陣は見事にその難問を解決した。「X」をかたどったセンターローターが、文字盤にあしらわれたX型のオープンワークと呼応して一体感を生み出すデザインは心地よいほど潔く、モダンだ。注目すべきは6時位置にのぞく巨大なシリコン製のテンワだ。ここにもシリコン技術の先駆者であるユリス・ナルダンの矜恃がデザイン要素として盛り込まれ、スケルトンを強調する効果的なアクセントとなっている。

ブラスト アワーストライカー

毎正時と30分ごとに耳で音を聞くだけでなく、オープンワークされた文字盤からは本作の醍醐味であるストライキング機構が作動する様子を視覚的にも余すところなく観賞できる。12時位置のハンマーがゴングを叩いて「時」を知らせる。毎正時でなくても、10時位置のプッシュボタンを押すごとに、オンデマンドで現在時刻の回数分、ハンマーがゴングを打つ。
ブラスト アワーストライカー

6時位置に配されたフライングトゥールビヨンは、現代のユリス・ナルダンが打ち出す「X」のモチーフを巧みにトゥールビヨンキャリッジに採り入れている。ブリッジを持たないフライングトゥールビヨンは、ボールベアリングで支えられている。8時位置のプッシュボタンを押すことで、アワーストライキング機能をオン/オフできる。

「X」に込められた探求心がより鮮烈に表現されているのが、もうひとつの新作「ブラスト アワーストライカー」である。その名の通り、音で時を知らせるストライキングウォッチだ。ユリス・ナルダンは歴史的に、マリンクロノメーターに加え、ストライキングウォッチでも名を馳せてきた。その技術力に、現代の同社のコードであるモダンスケルトンの要素を取り込み、文字盤をオープンワークにして、ストライキング機構を見せること。さらに、音の質と大きさを向上させること。

 これらを成し遂げるため、1980年代にストライキング機構の開発を復活させ、蓄積してきたノウハウに、2019年に発表した「アワーストライカー ファントム」で協業したフランスのオーディオ機器メーカー、デビアレ社との共同開発の成果が役立ったと、チーフプロダクトオフィサーのジャン=クリストフ・サバティエは言う。

ジャン=クリストフ・サバティエ
ブラスト アワーストライカー
ユリス・ナルダンのチーフプロダクトオフィサー、ジャン=クリストフ・サバティエ。彼は「X」というコードをこう解説する。「Xには大きくふたつの意味が込められています。ひとつは旧来、ユリス・ナルダンが受け継いできた技術を探求するというDNA。もうひとつは、故ロルフ・シュニーダーが1980年代にブランドを再興して以降に顕著な新しいことへ挑戦するというDNA。かつての天文三部作やフリークは、ユリス・ナルダンの先進性を象徴するものです」。

「以前の鳴り物の技術では、文字盤をオープンワークにする余裕がなかった。今回、鳴り物をゼロベースで開発し、文字盤側からゴングをはじめとする鳴り物機構を見えるようにした。フライングトゥールビヨンに鳴り物を加えるのは特に困難な挑戦ではなかった。だが、既存のキャリバーをベースに、約50%もこの時計のために新たに部品を作ったのだが、既存と新規のパーツを統合する初期段階の設計が難しかった」

 音量に関しては、デビアレ社のスピーカーをヒントに、ゴングの振動を厚さ0.3mmのチタン製の薄膜(メンブレン)に伝達することで増幅しているのだが、空気振動ではなく、ゴングサポートからトランスミッションアームを経て、防水パッキンの外側にあるメンブレンに振動を伝達しているため、30m防水を確保することができた。

ブラスト アワーストライカー

ブラスト アワーストライカー
1980年代以降、ユリス・ナルダンが得意としてきたストライキングウォッチのノウハウを基にゼロベースで開発された新型ムーブメントCal.UN-621を搭載。毎正時と30分ごとに自動的にゴングを打ち鳴らすアワーストライキング機構に加え、10時位置のボタンを押すことで、オンデマンドで作動させることもできる。自動巻き(Cal.UN-621)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径45mm)。30m防水。1262万8000円(税込み)。左は、ブラスト アワーストライカーの外装を分解した様子。文字盤側にゴングとハンマーをはじめとするアワーストライキング機構が搭載されているのが見て取れる。裏蓋に設けられたX型の開口部からは、ゴングの振動を増幅するためのサウンド強化システムの要である、厚さわずか0.3mmのチタン製メンブレン(膜)を見ることができる。

 特筆すべきは、裏蓋を開けることなく、裏蓋に設けられたメンブレン音響調整ネジを出し入れすることで、メンブレンの振動を変え、音質の調整を可能にした新システムの導入だ。

「一番強調したいのは、耳で鑑賞する音に関する探求だけでなく、目で見て楽しむ新しいデザインの審美性に加え、装着した時の心地よさ。これらを実現しつつも、従来のトゥールビヨンと同じ価格帯を維持していること」

ブラスト アワーストライカー

ストライキング機構を構成するゴングを青、ハンマーをピンクで、今回新たに開発された新規パーツを赤と緑で示す。文字盤側に配されたゴングを支える真鍮製のゴングサポート(赤)は、裏蓋側でトランスミッションアーム(緑)に連結し、ハンマーがゴングを叩く振動を防水パッキンで守られた内側のセカンドケースバックの外側にある音響増幅装置メンブレン(膜)へと、スティール製のトランスミッションポイントを介して伝達する。結果、音の増幅と防水性の両立が可能になった。

ブラスト アワーストライカー

ケースは3層で構成される。左が、防水性を持たせるためにパッキンを備えた内側のセカンドケースバック。赤で示されたゴングサポートに連結する緑のトランスミッションアームが、その外側にあるのが分かる。その上にメンブレンが配され、これが振動することでゴングの音を増幅して、右の図の外側のケースバックの開口部から外部へ伝達する。特筆すべきは、メンブレン音響調整ネジを出し入れすることで、裏蓋を外すことなくメンブレンの振動を変えて、音を調整できる点だ。

 こうした要素すべてが、この新作の着想の源泉だとサバティエは説明する。

 このふたつの新作に加え、海から宇宙へと発想を広げた〝未来のマリンクロノメーター〞とも言うべき造形を持つ「UFO」。この3つの新作からは、「X」に続く今年のテーマ「バーティカル・オデッセイ」というキーワードを読み取ることができる。マリンクロノメーターからダイバーズへの発展、爆発的な自然界のエネルギーを意味する「ブラスト」、海と宇宙を彷彿させる「UFO」。ユリス・ナルダンの技術と意匠の歴史が、現代という時間軸で垂直につながる。〝今〞を創造するユリス・ナルダンの新たな物語の始まりである。

UFO

UFO
ユリス・ナルダンが、175年後のマリンクロノメーターを想像して製作したクロック。3つの文字盤が3つのタイムゾーンを表示する。毎秒1振動でゆっくり往復運動する頭頂部の巨大なテンプの下に、デッドビートを刻む秒表示が置かれる。部品点数675個。手巻き(Cal.UN-902)。3600振動/時。パワーリザーブ約1年。アルミニウムフレーム(直径159mm、高さ264mm)。世界限定75個。497万2000円(税込み)。

ロマン・モンテロ

巨大な駆動装置を包み込むガラス風防は、スイスのヌーシャテル湖畔にあるガラス工房「Verre et Quartz」に所属する26歳のガラス職人、ロマン・モンテロが、ひとつひとつ手作業で作り上げる。厚さ3mmのガラス管を製作するには、ガラスを1500℃で45分以上も熱しながら素材を引き延ばし、カットしなければならない。その全工程にほぼ半日を要するという。汚れのないカバーガラスを作るためには3倍の量が必要というから、その手間と困難さがいかほどかは想像するに難くない。レペが手掛ける駆動装置は言うまでもないが、それを内包する巨大なガラス風防の芸術性と稀少性も見逃してはならない。



Contact info: ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791


2021年 ユリス・ナルダンの新作時計まとめ

https://www.webchronos.net/features/62573/
アイコニックピースの肖像 ユリス・ナルダン フリーク Part.1

https://www.webchronos.net/iconic/37423/
革新の自動巻きシステムにとどまらない、ユリス・ナルダン「フリーク ビジョン」の魅力

https://www.webchronos.net/features/42742/