パネライ ラジオミールはどんな時計? 誕生の歴史や特徴を解説

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2022.12.19

「パネライ」はイタリアの高級時計ブランドとして時計好きならば誰もが知る名前だ。パネライといえば、有名な時計コレクションに「ルミノール」が挙げられるが、それよりも歴史が長い「ラジオミール」もパネライを代表するコレクションと言えるだろう。特徴的な肉厚なケースは着けているだけで男らしさが上がるパネライの時計だが、その誕生のルーツは第二次世界大戦にある。今回は「パネライ ラジオミール」の歴史や魅力、オススメを紹介していく。


パネライ ラジオミールのルーツ

 パネライ ラジオミールは、第二次世界大戦時のイタリア海軍の要請を受け、特殊潜水部隊が着用する潜水時計として開発されたのが始まりだ。

ラジオミール プロトタイプ

1936年に作られたラジオミールのプロトタイプモデル。インデックスに塗布される夜光塗料こそが、ラジウムベースのラジオミールである。なお、写真の個体は針がオリジナルから変更されているため、ここの部分の夜光塗料はラジオミールではない。

 1935年、イタリア海軍は水中攻撃車両と操作員に関する新しい機密プログラムを開設し、高い強度を持つ潜水時計の需要は大きくなっていった。

 潜水服を着た彼らは、グルッポ・ガンマという魚雷ほどの大きさの小型潜航艇にまたがって乗り、敵の艦船に爆薬を仕掛けるという常識外れの水中作戦を本格化させる。

 そして、ラジオミールは必需品としてイタリアの英雄たちの腕に巻かれていた。


パネライ ラジオミールとルミノールの違いとは

 パネライといえば、代表作として「ラジオミール」と「ルミノール」が挙げられるが、パネライを知らない方にとってはおそらくどちらも同じモデルに見えるのではないだろうか?

ラジオミール オリジナル

この個体は1940年代に作られたラジオミール。プロトタイプからワイヤーループ型のラグではなく、現代でもよく見る一体型ラグに変更されているのが分かる。このケース形状が「ラジオミール 1940」の大元となった。

 パネライを選ぶ上ではまず、ふたつのモデルの違いを知ることが大切だ。

 ラジオミールとルミノールの見分け方としてリュウズ部分で判断するのが一番分かりやすいだろう。

 ラジオミールの改良版として後に誕生したルミノールだが、レバーを下げるとリュウズが操れるようになるリュウズプロテクターが搭載されている。しかし、ラジオミールにはこのリュウズプロテクターが備わっていない。

ルミノール プロトタイプ

「ルミノール」は1949年に特許を取得したトリチウムベースの発光素材の名称だ。これを針やインデックスに使用したのが同名のモデルだ。写真は1940年代初頭に製作されたプロトタイプだ。

 リュウズプロテクターは、潜水での水中作業中にリュウズの誤作動や破損を防ぐ目的でルミノールから採用されたものだ。

 また、ラジオミールはステンレススティールや18Kゴールドなど、伝統的なケース素材しか用いらないが、ルミノールにはチタンやカーボテックなどハイテク素材が採用されていることも相違点として挙げられる。

ラジオミールとルミノールの由来は?

 ラジオミールとルミノールの違いは、その名前の由来からも見てとれる。

 実はどちらも視認性を高めるため、イタリア海軍の海戦用照準器や水深系などの計器のダイアルに塗布されていた発光塗料の名前が由来となっている。

 ラジオミールは、1916年からフランスの特許書類に記載があったラジウムをベースとした粉末の塗料のことで、この海中や夜間の暗闇で明瞭に明るく発光する塗料が使われた計器、時計はパネライの主力製品となりイタリア海軍、時にはエジプト海軍へ供給された。

 一方のルミノールだが、大戦後の1949年に特許を取得している。ラジウムベース塗料のラジオミールよりも、放射性物質が少なく取り扱いが容易な発光物資であるトリチウムをベースとするルミノールが塗料として使われるようになった。

  • ラジウムベース塗料→ラジミール
  • トリチウムベース塗料→ルミノール

リュウズプロテクターが好みならルミノール

 ルミノールの特徴は、なんといっても独自のリュウズプロテクターだろう。

ルミノール ドゥエ トゥットオロ

パネライ「ルミノール ドゥエ トゥットオロ」
自動巻き(Cal.P900)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。ゴールドテック™ケース(直径38mm、厚さ11.2mm)。30m気圧防水。456万6100円(税込み)。

 世に出回っている防水時計はロレックスが開発した、ねじ込み式ロックリュウズ機構が広く採用され、世界基準となっている。

 しかし、パネライは、第二次世界大戦時にイタリア海軍へ時計を卸していた当時の、ロックレバー式のリュウズプロテクターをルミノールで採用続け、その基本的な姿形は現代も変わらない。

 また、豊富なラインナップが展開していることもルミノールの魅力だ。

クラシカルな雰囲気が好みならラジオミール

 パネライの元祖であるラジオミールは、クラシックな雰囲気とレトロな雰囲気が人気のコレクションだ。

ラジオミール エイトデイズ

パネライ「ラジオミール エイトデイズ – 45mm(PAM00992)」
手巻き。21石。2万1600振動/時。SSケース(直径45mm)。約192時間パワーリザーブ。100m防水。112万8600円(税込み)。

 デザインだけではなく、第二次世界大戦時のイタリア海軍をルーツとしたその歴史にも魅力とロマンがある。

 ルミノールよりも種類が少なく、ベルトは革製のみなのため、選択肢は狭くなりがちだ。しかし、渋めの雰囲気や時計の歴史を感じたい方にはラジオミールがオススメだろう。


パネライ ラジオミールは厚みが特徴

 大型で厚みのあるケースが特徴のパネライは「デカ厚ブーム」の火付け役としても有名だ。ひと目で分かる独特でタフな外見が人気を集め、幅広い年代の男性にヒットした。

 ここではラジオミールの選び方について紹介しよう。

ラジオミールのケースデザインは2種類

ラジオミールには「ラジオミール」「ラジオミール1940」があり、リュウズとラグの形状に違いがある。

ラジオミール 一覧

パネライの公式サイトより引用した、現行ラジオミールの一覧。右下のゴールドケースモデルが「ラジオミール1940」で、それ以外が「ラジオミール」。現在はコレクション整理の過渡期にあるため、一時的にモデル展開が少なくなっている。

 ラジオミールは厚手のグローブを着けたままでもつまみやすく、操作性に優れた逆三角形状の大きなリュウズと細いラグになっている。

 これはミリタリーウォッチや戦闘機のパイロットが着けるパイロットウォッチによく使用されているものだが、行動中にぶつけてしまい破損させやすいというデメリットがある。

 そこでラジオミール1940では、出っ張りを抑えた大きめのねじ込み式リュウズが採用された。

 次に、ラグ部分の違いを見ていこう。ラジオミールは取り外しが可能なワイヤーループ型であるのに対し、ラジオミール1940は可変が長く、細い形状となっている。

 なお、CEOが交代した2018年以降、ラジオミールは大幅なコレクション整理を受け、現在、ラジオミール1940を採用するモデルはほぼラインナップから姿を消している。


パネライラジオミールはあの有名人も愛用している

 前述したとおり、パネライは元々はイタリア海軍向けの精密機器を開発するメーカーだったこともあり、創業当時は一般人が手に入れることはできないブランドだった。

 1993年にイタリア海軍との契約が終わり、一般向けに時計を製造・販売してからもそのブランドイメージの影響は少なくなかった。

 しかし、今やパネライは世界中で愛される時計メーカーとなった。ハリウッド俳優ジェイソン・ステイサムやシルベスタ・スタローンは、パネライの愛好家として知られている。スタローンに至っては、自分の名前をモデルに入れてもらうほどだ。

 限定品が多く、数量も少ないパネライ時計は、希少価値が高く愛用している有名人は今も多い。嵐の松本潤や元関ジャニ∞の錦戸亮、世界的に見ればアーノルド・シュワルツェネッガーがこの時計を付けて、メディアに出演したエピソードが残っている。

 着用している有名人でも、日頃から時計集めが趣味な人など本当の時計好きが、ラジオミールを好んでいるという印象がある。


パネライ ラジオミールにはさまざまな楽しみ方がある

ラジオミール アイリーン エクスペリエンス エディション

 ラジオミールは元々、イタリア海軍特殊部隊の任務を支える為の防水時計として開発された経緯がある。

 そのため、きらびやかな装飾はなく、暗闇の中で瞬時に、そして正確に時刻を読み取ることだけに特化した設計がされている。

 戦うために生まれた時計ということもあり経緯も見た目も無骨で男らしさが強い印象だが、重厚感から生まれる力強さとデザインのクラシカルさを両立させたラジオミールは他の時計では味わえない魅力がある。

 愛用しながらパネライの歴史を感じるのもラジオミールの楽しみ方のひとつだろう。


独創性際立つパネライ8選。ラジオミールとルミノールのおすすめ紹介

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海軍由来パネライの看板「ルミノール」を解説。主要モデルと選び方

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