精密機器で培ったパネライが刻む歴史。代表コレクションからたどる

FEATUREその他
2021.12.13

大型かつ厚みのある時計で知られるパネライは、海にルーツを持つブランドだ。独特の歴史からインスピレーションを受けつつ、現在も卓越した技術により進化を続けている。代表作が誕生した背景を交えながら、これまでの歩みを紹介する。

「パネライ ロ シェンツィアート ルミノール トゥールビヨンGMT - 47mm」


パネライの基礎知識

「デカ厚」で有名なパネライとは、どのようなメーカーなのだろうか。まずはその概要を押さえておこう。

精密機器メーカーのパネライ

パネライは、イタリア・フィレンツェに本拠地を置く精密機器メーカーである。1860年にジョバンニ・パネライ(1825-1897)がフィレンツェ初の時計店として創業した。

当初、時計販売だけでなく、修理や組み立てを行い、また時計学校としての性格も備えていた。その技術と知識の蓄積により、後にイタリア海軍の装備を手掛けることとなる。

現在は、高級腕時計メーカーとしての地位を確立している。時計製造に関しては、2005年に自社製ムーブメントの開発を成功させて以来、自社で一貫した生産を行うマニュファクチュール体制を敷いている。

元々が軍事用 デカ厚で知られる

パネライの時計は、イタリア海軍の軍用時計として製造されていた歴史を持つ。高い視認性と耐久性を実現するため、大型で厚みのあるスケールに仕上げられている。

パネライは第二次世界大戦後も軍用時計を作り続けてきたが、1993年に初の民間用モデルを発表。その後、特徴的な外観から「デカ厚時計」として世界中で大ブームを引き起こした。


パネライ時計の歴史

代表作が誕生した背景や、今日の名声を獲得するまでの流れを紹介する。稀有な歴史を有するブランドであることが理解できるだろう。

工房開設と海軍のためのラジオミール

ラジオミール

1936年に作られた「ラジオミール」のプロトタイプ。

1860年、ジョバンニ・パネライは、フィレンツェに時計工房兼時計学校を開設する。精密機器を提供していたイタリア海軍からの要望により、「ラジオミール」の開発を手掛けることになる。

そもそも、ラジオミールとはパネライが開発した、ラジウムベースの自発光塗料の名であった。文字盤に塗布された自発光塗料の名がそのままモデル名となったのだ。

第二次大戦の開戦を間近に控えた1936年には、ラジオミールの試作品が製造された。大型のケースや夜光数字などの特徴は、現在にまで受け継がれている。

また、第二次世界大戦後に自発光塗料のラジオミールは大量のガンマ線を放射していることがわかり、トリチウムを原料とした新しい夜光塗料ルミノールに変更。それに伴い、時計の名前もルミノールに変更された。

民間向けモデル発表と国際展開

パネライ マニュファクチュール

スイス・ヌーシャテルの丘陵地帯にあるピエール・ア・ボットに建つマニュファクチュール。

1993年には、軍用モデルから着想を得た3つの民間向けコレクションを発表し、時計愛好家の間で高い評価を得る。

1997年にリシュモングループの傘下に入ったことにより、イタリア国内での流通網が確立した。翌年にはS.I.H.H.に初出展し、パネライの名は世界中に広まっていった。

自社独自のデザインやノウハウと、スイスの優れた時計製造技術を融合すべく、2002年にはスイスにマニュファクチュール工房を設立する。

自社ムーブメント開発から現在に至るまで

「ルミノール 8Days GMT」

8日巻きのロングパワーリザーブモデル。自社ムーブメントCal.P2002は3つの香箱を備え、長い駆動時間中、安定的な精度を保つ。9時位置にはGMT、6時位置にはパワーリザーブインジケータを配置。「ルミノール 8 Days GMT - 44mm」。自動巻き(Cal.P2002)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約8日間。SS(直径44mm)。100m防水。150万7000円(税込み)。

パネライは2005年、自社製ムーブメントの開発に初めて成功する。さらに2007年には、独自のトゥールビヨンも発表された。

その後も、ガリレオ・ガリレイの天体望遠鏡観測を記念したモデルや、パネライの歴史に大きく関わる海をイメージしたブロンズモデルなど、新作を精力的にリリースしている。

「パネライ ロ シェンツィアート ルミノール トゥールビヨンGMT - 47mm」

多機能な自社製ムーブメントをスケルトナイズしたCal.P2005/Tを搭載するコンプリケーション。トゥールビヨン、24時間表示、GMT、パワーリザーブ表示を備え、ケースはチタン素材の中空構造。中身も外装もマニュファクチュールの技術の粋を発揮する。「パネライ ロ シェンツィアート ルミノール トゥールビヨンGMT - 47mm」。手巻き(Cal.P2005/T)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約6日間。Ti(直径47mm)。10気圧防水。世界限定150本。参考商品。

2016年には、トゥールビヨンレギュレーターとダブルミニッツリピーター機構を搭載したモデルを発表した。パネライが製造した時計の中で、技術的に最も複雑なモデルだ。

また、小型化・薄型化にチャレンジしたコレクション「ルミノール ドゥエ」も、同年に発表された。パネライの新領域を開拓する時計として、注目を集めている。

「ルミノール ドゥエ - 42mm」

「ルミノール」の意匠はそのままに、よりファッショナブルに派生した「ルミノール ドゥエ」。厚さ4.2mmのムーブメントを搭載したスリムなケースが特徴だ。さらに、インターチェンジャブルストラップが付属。「ルミノール ドゥエ - 42mm」。自動巻き(Cal.P900)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径42mm)。3気圧防水。88万円(税込み)。


代表的なコレクション

パネライを象徴するコレクションが、ルミノールとラジオミールである。それぞれの特徴や魅力を紹介する。

リュウズプロテクターが特徴の「ルミノール」

ルミノール

「ルミノール」コレクションの中でも高級機に位置する「ルミノール 1950」のひとつ。リュウズプロテクターにReg.T.M.の刻印があることや、丸みのあるケースサイド、手首に沿うやや真亀のラグが特徴。「ルミノール - 47mm」。自動巻き(Cal.P3000)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径47mm)。100m防水。108万9000円(税込み)。

「ルミノール」は大型のケースサイズが魅力的であり、パネライの定番コレクションだ。基本的なケース径は44mmで、40~47mmまで用意されている。

ルミノールの大きな特徴は、重厚感のあるリュウズプロテクターだ。優れた耐衝撃性と防水性を備えており、ラジオミールには備わっていない。

同様にリュウズプロテクターを備えるサブマーシブルは、以前はルミノールのコレクション内にラインナップされていたが、2019年よりコレクションとして独立した。

ブラックシールや8デイズが特徴の「ラジオミール」

ラジオミール

1940年代のラジオミールのケースに着想を得た現代版モデル。クラシカルなワイヤーラグに代わり、ケース本体と同じスティール塊からラグを直接成形。さらにタフに進化した。「ラジオミール - 47mm」。自動巻き(Cal.P3000)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径47mm)。100m防水。94万6000円(税込み)。

「ラジオミール」は軍事用として製造された背景を色濃く残し、クラシックテイストが魅力のコレクションである。歴史的には「ルミノール」よりも以前に開発されている。

ラジオミールも大型で肉厚なケースが特徴だが、リュウズプロテクターを備えていないことが、ルミノールとの大きな違いである。

ベルトとバックルのラインナップが豊富に用意されているうえ、簡単に付け替えられることも魅力と言えるだろう。


理解を深めると魅力が増す

パネライは、デカ厚時計ブームの火付け役となったブランドだ。代表コレクションの「ラジオミール」と「ルミノール」は、ともに軍用時計として開発されたモデルである。

味わい深い歴史を知ることで、大型かつ肉厚のパネライ時計が醸し出す独特の魅力を、より強く感じられるだろう。



Contact info: オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110

川部憲 Text by Ken Kawabe


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