【インタビュー】ルイ・ヴィトン ウォッチ部門ディレクター「ジャン・アルノー」

FEATURE本誌記事
2024.01.29

「ルイ・ヴィトンは大きなメゾンだから、日銭のために時計を作る必要はないのです」。そう語ったのは、ルイ・ヴィトンでウォッチ部門のディレクターを務めるジャン・アルノーだ。そんな彼が注力したのが、新しいタンブールである。

広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]


新しいタンブールを生んだ非凡な知見

ジャン・アルノー

ジャン・アルノー
ルイ・ヴィトン ウォッチ部門ディレクター。1998年、フランス生まれ。大学を卒業後、ルイ・ヴィトンのウォッチ部門マーケティングおよびプロダクト・ディベロップメント・ディレクターに就任。22年10月より現職。「ラ・ファブリク・デュ・タンルイ・ヴィトン」だけでなく、ダニエル・ロートとジェラルド・ジェンタの開発および製造も担当する。インタビューが示す通り、時計に対する知見は非凡だ。

「ケース、リュウズ、ムーブメント、文字盤など、すべてで30から40のプロトタイプを作りました。ケースのサイズを確認するために、ケース径38mm、39mm、40mm、41mm、42mmのサイズも作りましたよ」。タンブールの開発にあたって、ジャン・アルノーが注力したポイントのひとつが、ブレスレットの感触だったという。

「さまざまな仕上げやサイズで、多くのテストが必要でした。すべてで欠点がないこと、手首に着けて重く感じないこと、かさばらないこと、腕の毛に触れないこと。これらはとても重要なのです」

 彼は腕時計に対して明快な哲学を持ち、それを新しいタンブールに注入した。

「ブレスレットはできるだけ堅く、タイトでなければならない、と言う人もいますが、私の意見は少し違うのです。見た目はきれいでも、着け心地が悪かったら意味がないでしょう」。解決策としてルイ・ヴィトンは、なんとブレスレットの一部リンクに、セラミックスを採用した。

「ブレスレットのコマには少し遊びを持たせています。大きすぎないのがポイントです。セラミックスを使用しているので、時間が経っても遊びは悪くならないのです。それこそ数百回着けても変わらない」

 スイスの某社がブレスレットに使うのと同じ仕組みかと尋ねると、アイデアは似ているけれど少し違う、とのこと。ルイ・ヴィトンのウォッチ部門ディレクターに就任してわずか2年目ではなく、時計業界に何十年も籍を置く重鎮と話しているような気分だ。彼はさらに秘密を明かしてくれた。

「ブレスレットはストレートに見えますが、少しだけテーパーをかけているのです。ブレスレットを作るにあたっては、ふたつの選択肢がありました。すべてのリンクに小さなカーブを着けるか、あるいは直線にするか、ですね。見た目の差は0.1mmだし、ブレスレットの価格も30%高くなりますが、手首にはめたときの着け心地はテーパーありのほうがずっといいのです。そこで、あえてテーパーをかけたのです」

 最後にジャン・アルノーは筆者にこう尋ねた。「なぜケースが40mmになったか分かりますか?」。いや分かりませんね。「40mmだと、スモールセコンドのバランスが完璧なのですよ。39でも41でもこうはならない」。

新しいタンブールが時計愛好家たちをわしづかみにしたのも納得ではないか。

タンブール

ルイ・ヴィトン「タンブール」
ジャン・アルノーの知見で刷新された新しいタンブール。装着感や仕上げ、視認性といった全体のバランスは群を抜いて高い。また、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」の特許技術を使うことで、ローター音もかなり抑えられている。質感に富む傑作。自動巻き(Cal.LFT023、ル・セルクル・デ・オルロジェとの共同開発)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径40mm、厚さ8.3mm)。50m防水。261万8000円(税込み)。



Contact info: ルイ・ヴィトン クライアントサービス Tel.0120-00-1854


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