セイコー プレザージュ SARX121は全方位的に欠点が感じられない、優等生デイリーウォッチ

FEATUREインプレッション
2024.04.06

セイコー プレザージュの新製品をいち早く着用する機会を得た。第一印象は“グランドセイコーのトリクルダウン”である。セイコーウオッチが手掛ける最上級のグランドセイコーで実現していることを、“プレザージュ”の枠の中で再構築した、極めて優れた工業製品といえる。特にグランドセイコーが独立したブランドとなって以降突き進んできたセイコーの技術や経験が、このプレザージュにいかんなく注ぎ込まれており、全方位的に満足のいく仕上がりだ。

セイコー プレザージュ

堀内俊:文・写真
Text & Photographs by Shun Horiuchi
[2024年4月6日公開記事]


琺瑯や有田焼など日本固有のクラフトマンシップが印象強いセイコー プレザージュに、新たに加わった「Classic Series」

 セイコーには、独立ブランドとして全世界に確固たる地位を築いたグランドセイコー、そしてグランドセイコーの成功を足がかりに、従来のセイコーブティックやセイコーウオッチサロンで扱う高級ラインとして復活したキングセイコーがある。2010年より、機械式時計ブランドとして展開するプレザージュシリーズは、それらの受け皿的な側面を持ち、デザイン面で攻めた「Sharp Edged Series」、さらにはマニア受けするモデルも多い「Style 60’s」など、多様な展開を見せている。その中で今回新たに加わった「Classic Series」のモデルは、恐ろしく高度にバランスが取れた”中庸”な時計だ。


メーカーの真の実力が分かる、中〜低価格帯の時計プレザージュ

セイコー プレザージュ

セイコー「プレザージュ Classic Series」Ref.SARX121
今回新しく加わったClassic Seriesはプレーンな3針デイトモデルと、オープンハートモデルがラインナップされた。3針デイトモデルは、それぞれ素色(しろいろ)、仙斎茶(せんさいちゃ)、洗柿(あらいがき)の3色のダイアルカラーが、オープンハートモデルは素色(しろいろ)、墨色(すみいろ)の2色のダイアルカラーがある。インプレッションモデルのダイアルカラーは素色の3針モデル。自動巻き(Cal.6R55)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40.2mm、厚さ13mm)。10気圧防水。13万2000円(税込み)。6月8日(土)発売予定。

 本記事の最初に、SARX121を“グランドセイコーのトリクルダウン”と書いた。ここで経済理論を書くつもりもないし、ましてやプレザージュが経済弱者だと言っているわけでもない。言いたいことは、グランドセイコーの持つ最高級ラインの技術や経験が、このプレザージュにたっぷりと注ぎ込まれ、その恩恵を大いに受けている、ということである。

 セイコーウオッチには、ハイエンドにあたるグランドセイコーから、手頃な価格の機械式時計であるセイコー 5スポーツまで、幅広い製品が展開されている。そんな中でプレザージュはそもそも価格帯縛りが厳しいポジションにいるブランドであるため、例えばひとつのパーツにコストをかけると他方にかけられなくなる。すなわちコストを絞りつつ品質を高めることと、なによりバランスが肝心なのだ。そこでこのプロダクトはどうだ。ムーブメントはキングセイコーに遜色ないCal.6R55だし、ケースはよく磨かれて、針も立体的である。白眉なのはブレスレットだし、見どころは絹のような質感を持ち、日本古来の色をまとったカーブダイアルであろう。どうして、こういったディテールがプレザージュの価格帯の中で成立しているのか。答えは、本作がとても良くできた工業製品であり、この次元のバランスでまとめ上げたセイコーの底力、である。むしろグランドセイコーをじっくりと見てみるよりも、この時計を味わう方が、セイコーの真の実力をより強く認識することになろう。

 SARX121のような中3針デイト付きの自動巻き時計というのは、およそすべての時計メーカーがラインナップする“基本中の基本”である。「ノーチラス」や「ロイヤルオーク」のような、あるいはカルティエ「タンク」のような、“それ以外あり得ないモデル”ではない。似たような時計が数多とある。そのなかで、“ここがもう少しこうだったら”というポイントは、おそらくどんな人にとってもどんな時計でも存在するであろう。好みも体格も使い方も違う万人に100点満点の時計というのはほとんど成立しないと思われるが、限りなく“万人にとっての100点満点”のポイントに近い位置にいると感じられるのが、このSARX121だ。

 その理由を列挙する前に、まずは本作のパッケージを賞賛したい。13万2000円という価格設定の中で、ここまでバランスの良いデザインとディテールを持ちつつ成立させたことが奇跡に近い。極力人の手を廃して機械的に生産しないとまずこのプライスは実現し得ないが、人の手でやらざるを得ない部分も存在するはずである。設計から生産計画、部品の歩留まりや組み立てやすさなど、各工程の全てがバランスよくコスト分配されているはずだし、さらに物流コストや販売コストも含めて、この価格で利益が出ていることは驚愕に値する。


全方位的に高バランスであることを、部分ごとに見てみる

 ではその「全方位」をばらして見ていこう。まずは外装だ。

 直径40.2mmとのことだが、その値よりも若干コンパクトに感じるケースはとてもオーソドックスな形状をしており、逆に特徴的なところがほとんどなく、強いて特徴といえば2段ベゼルを持つことくらいだが、それも気にすればそう認識する程度である。ややぷっくりしたケースサイドとベゼルはよく磨かれており、形状の乱れもほとんど感じられない。ラグは上面のみサテン仕上げであり、ケースサイドとの稜線はパリッとしているわけではないので、側面の磨きとの仕上げの差で引き立てる手法をとっている。ひとつ大事なところなのでコメントしておくが、ラグ間のケースサイド、弓カンの上面もきっちりと磨かれている。プレザージュのような価格帯では、こういった部分が仕上げられておらず、簡素化されたものが散見されるが、この時計は全くOKである。実際に使っていると目に入る部分であるため、セイコーはよく気配りができていると感じた。ケースの厚さは13mmと、3針時計としてはやや厚い。横からみると主にケースバック側の厚さが感じられる。これはスクリューのグラスバックを採用したことも一因であろう。厚さは装着感や使い勝手に影響を与えるポイントであり、とても良くできたブレスレットと相まって、細腕の筆者であるが違和感なく使うことができた。

絹のようなテクスチャを持つ、視認性の良い端正な素色(しろいろ)のダイアルと、よく磨かれたアルファハンドにより時間の読み取りは容易だ。

 ダイアルは“絹のような質感の繊細な型打ち模様”とメーカーが言っている通り、微細なプレスでシルクの質感が表現されている。よく見れば外側に向かってややアールを描くボンベ形状であり、その外周に配置されたアプライドのインデックスもフラットではなくダイアルに沿うような微妙な曲面を描いている。これはとても魅力的に感じた。デイト位置は一般的な3時位置で、ウィンドウに外枠は無いかわりに短いアワーインデックスがある。デイト表示は、このようにダイアル上で主張しない方が、本作のデザインには合っていると思う。タンポ印刷と思われるSEIKO PRESAGE AUTOMATIC 3DAYSのプリントは、絹のようなテクスチャの上でもシャープである。

 “PRESAGE AUTOMATIC 3DAYS”のフォントは、グランドセイコーの“HI-BEAT”などのものよりも統一感や繊細さを併せ持ち、むしろこちらの方が好ましい。

 一時期のセイコーのモデルとは打って変わって、とても良くなったもののひとつに針の長さがある。アワーハンドの先端はインデックスの内端にジャスト、ミニッツハンドの先端は曲げられつつインデックスの外端にリーチ、それらを超えて伸びやかなセンターセコンドハンドは、繊細な細さを維持しつつ先端はダイアル側に曲がり、スラントした見返しのインデックスに刺さるかのようだ。完璧である。アワーおよびミニッツハンドのデザインはいわゆるアルファハンドで、またカウンターウェイトを持つセコンドハンドも好印象である。コストに鑑みれば高価な針は使えないため製法はプレスであるが、アワーハンド、ミニッツハンドとも平面ではなくアールがつけられて立体的だし、セコンドハンドも繊細な細さで平面であることをカバーしている。

セイコー プレザージュ

今やプロスペックスからも失われたこの”S”リュウズにシンパシーを抱くセイコーファンは多いだろう。私も同じである。

 リュウズはセイコーファンなら期待通りの、”S”が浮き上がった比較的大きめな平目の24枚歯であり、針合わせなどもやりやすい。時計の大きさや厚さに対してみれば、このリュウズの大きさは適正である。

 白眉はブレスレットである。こういったブレスレットの、最もオーソドックスなタイプとして、ロレックスのジュビリーブレスレットが挙げられるが、本作はこのジュビリーブレスレットより1列多いデザインで、コマの小ささと適度なゆるさから、ライスブレスレットのような装着感を味わえる。最も特徴的なのはコマを横から見た形で、ビーンズ系とでもいうべきか。内側を凹ませたことでこんなにもサラッとした装着感を得られるものとは思わなかった。厚さも適切であり、操作のしやすいバックルとともに大変に気に入った。ただしこのビーンズ形状は、より普段のクリーニングを意識した方が良いだろう。

セイコー プレザージュ

ダイアルとともにこの時計のアピールポイントであるブレス。ビーンズ形状の断面のコマを持ち、極めて快適な装着感を得られる。

 ムーブメントは6振動/秒のCal.6R55である。Cal.6R35からパワーリザーブがさらに伸ばされて3日分、約72時間となった。3日間は週末を超えても月曜の朝動いていることが保証されるもので、特にこのようなビジネスシーンで多く使われることが想定される時計にはふさわしい。ムーブメント直径は27.4mm、厚さは4.95mmと自動巻きの中3針ムーブメントとしては一般的なサイズである。ダイヤショック、マジックレバー、スプロンの3技術を合わせてトライマチックと称していることなどはセイコーのウェブサイトで詳細を確認できるため、より詳しい情報が欲しい方はご一覧を。特にマジックレバーに関しては実用に振った、とても効率の良い方式であることは、普段からCal.4R/6R系ムーブメントを使っている諸兄は十分理解していることだろう。なお本個体は、着用初期はやや進み気味であったが、2日程度で落ち着きを見せ、約1週間の着用でトータル+8秒と、極めて優秀な精度であったことを付記しておく。

セイコー プレザージュ

直径40.2mmのケースに対して、グラスバックから見える27.4mmのムーブメントは、一般的に小さく見えるものであるが、この時計はデザインの妙か決して小さく見えない。むしろバランスよく見えるのは何故か、考えさせられた。


時計における”バランスとは何か”を考えた末に行き着く、実用時計の理想形

セイコー プレザージュ

室内での太陽光撮影。細腕の筆者であるにもかかわらず、40.2mmのケースサイズが大きすぎないと感じる。万人に合わせられるサイズと思う。素色のダイアルにステンレススティール、ロゴは全てブラックと、ほぼ彩度のない時計であるが故に、およそどんなシーンでも溶け込む。良好な装着感と高い視認性を持つため、とにかくストレスがない。

 結論的なものを書くとしても、やはりこのプレザージュは高バランスの実用時計に尽きる。第一印象はそれほど刺さってこなかったのは事実であったものの、使うほどに印象は良くなっていく。いつ時計に目をやっても気になる欠点がなく、視認性も良いためストレスがない。使うほどに自分の一部になる、そんな時計である。限定ではないため争奪戦がないところもストレスフリーだ。掛け値なしに万人にお勧めしたい。


Contact info:セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012


セイコー プレザージュより、「用の美」をモチーフとした新デザインシリーズ「クラシックシリーズ」が登場

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伝統から革新へ。セイコー プレザージュの魅力と人気モデルを紹介

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セイコー プレザージュ Sharp Edged Seriesをレビュー。出世を祝う“麻の葉”紋様はビジネスユースにぴったり!

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