ブルガリ 創業140周年を祝う唯一無二の試み

2024.06.20

今年、創業140周年を迎えたブルガリ。記念すべき年を言祝ぐのは、世界最薄記録を再び塗り替えた「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」だ。しかし、より注目すべきは、オクト フィニッシモに加わったスケッチ文字盤である。ムーブメントを文字盤に描くという大胆な試みは、ブルガリの成熟と自信を、言わずと物語っている。

オクト フィニッシモ スケッチ 限定モデル

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]


ブルガリは、薄型時計に新しい可能性を見いだした

 薄型時計の記録を塗り替えてきたブルガリの「オクト フィニッシモ」。他社に覆された最薄の記録を再び「オクト フィニッシモ ウルトラ COSC」で奪回したのも記憶に新しいところだ。もっとも、ブルガリはこのオクトフィニッシモを、薄さ自慢の時計にするつもりはなかった。ブルガリ グループ CEOのジャン-クリストフ・ババンが強調してきたように、オクト フィニッシモとは、薄型時計を使えるものとする試みであり、ブルガリの技術陣は、ムーブメントを強固にするだけでなく、視認性の改善にも努めてきた。好例は、大きなレトログラード式の日付表示を持つ「オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー」だろうか。

 同時にブルガリは、オクト フィニッシモに薄型時計の枠を超えた可能性を見いだした。つまり、大きな文字盤をキャンバスに見立てることで、さまざまな意匠を盛り込めることに気付いたのである。安藤忠雄や宮島達男、妹島和世とのコラボレーションモデルとは、薄さ以上の何かを求める、ブルガリの探求心がもたらしたものだった。

オクト フィニッシモ スケッチ 限定モデル

 2024年の「オクト フィニッシモ スケッチ 限定モデル」も、やはり大きな文字盤を最大限に生かした、薄型時計に留まらない新作だ。文字盤に描かれたのは、なんと搭載するムーブメントのスケッチ。中身を見せるのではなく、絵で示した試みは、間違いなく世界で初めてだし、今後もないのではないか。

 以前筆者は、クリエイション部門でエグゼクティブ ディレクターを務めるファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニと、オクト フィニッシモの造形について話したことがある。彼は工業的なバックグラウンドを持つデザイナーだが、「私はアゴラフォビア(広場恐怖症)ではない」とも語っていた。工業的で緻密なデザインはできるが、だからといって、空白は嫌いではないという意味だ。オクト フィニッシモの造形が、陰影に富みながらも、伸びやかな理由だろう。対して筆者は、これだけ文字盤が大きければ、いわゆるメティエダールの手法も映えるのではないか、と述べた。ボナマッサ・スティリアーニの回答は明快だった。「それはやりたくないね」。

 22年に発表された「オクト フィニッシモ オートマティック」と「オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT オートマティック」は、インデックスを印字ではなく、スケッチで描いた試みだった。鉛筆と木炭によるニュアンスを忠実に再現した文字盤は、なるほど空白を残しつつも、工業的で、しかもありきたりではない。本作の人気を受けたかは分からないが、今年ブルガリはムーブメントを文字盤に描いた、ふたつの限定版を追加した。ひとつはクロノグラフ、もうひとつがここで挙げた3針モデルだ。

オクト フィニッシモ スケッチ 限定モデル

ブルガリ「オクト フィニッシモ スケッチ 限定モデル」
オクト フィニッシモの文字盤に、Cal.BVL138のスケッチをあしらった限定モデル。非常に薄い腕時計だが、10気圧防水を持つ。ビルトインされたバックルにより、装着感も軽快だ。自動巻き(Cal.BVL138)。31石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40mm、厚さ6.4mm)。10気圧防水。世界限定280本。250万8000円(税込み)。

「オクト フィニッシモをオクト フィニッシモたらしめるムーブメントを見せたかった」とボナマッサ・スティリアーニが語るように、本作のハイライトは、文字盤全面に描かれたムーブメントである。しかも、文字盤からロゴを省くだけでなく、ルビーなどの表記を加える凝りようだ。もっとも「単に描くだけでは目立たない」ため、ムーブメントの輪郭や、ジュネーブ仕上げなどは強いタッチで仕上げられた。感心させられたのは、余白の持たせ方。マイクロローターや受けの一部を抜くことで、文字盤が強くなりすぎないよう、うまく抑えている。空白を恐れない、ボナマッサ・スティリアーニらしい“冴え”ではないか。ここまで堅い文字盤が時計全体になじんでいるのは、余白のうまい持たせ方はもちろんだが、そもそも、それを支える強い外装があればこそ、だろう。思えば、ブルガリは良い「額縁」を手に入れたものだ。

 今や薄型時計という枠を超えんとするオクト フィニッシモ。薄さという傑出した個性を、あえて遊び心でくるんだ本作とは、ウォッチメーカーであるブルガリの余裕、そして自信の表れに思える。創業140周年にこんなモデルを持ってくるメーカーは、そうあるものではない。



Contact info: ブルガリ ジャパン Tel.0120-030-142


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