セイコー プロスペックスより2024年11月に発売された、「ダイバースキューバ」Ref.SBDC203をレビューする。ラグジュアリーなデザインが特徴の本作だが、根っ子の部分はまさにセイコーダイバーズらしい、ハイスペックなスポーツウォッチだ。
Photographs & Text by subasa Nojima
[2024年12月20日公開記事]
2024年に誕生した、ラグジュアリーなセイコーダイバーズ
セイコーのダイバーズウォッチと言えば、ツールウォッチの代名詞と呼ぶべき存在だ。1965年に誕生したファーストモデル「62MAS」は南極地域観測隊に供給され、その後に誕生したダイバーズウォッチたちも、数々の探検に携行されることにより、その信頼性を確たるものとしてきた。その血は現行モデルにも受け継がれており、優れた防水性能をはじめ、視認性に優れたダイアル、ねじ込み式リュウズを備えた堅牢な外装など、プロフェッショナルの期待に応えるスペックを持ち合わせている。
セイコーは、「プレザージュ」や「キングセイコー」「アストロン」など、6つのブランドを軸としてラインナップを擁しているが、そのうち本格的なスポーツウォッチを展開しているのが、「プロスペックス」だ。控えめな価格帯ながらハイスペック、そして豊かなデザイン性は、“タートル”や“サムライ”、“スモウ”などファンから愛称とともに親しまれている。
そしてそのプロスペックスに2024年11月、新たなモデルが追加された。「SBDC201」「SBDC203」「SPB485JC」だ。既存のダイバーズウォッチたちの多くがツール感のあるヘアライン仕上げを主体としているのに対し、ポリッシュ仕上げを多用したこれらの新作は筆者の目に少々異質に映った。平たく言ってしまえば、硬派なダイバーズウォッチよりもいわゆるラグジュアリースポーツウォッチに寄った印象であった。果たしてその印象は本質を捉えたものであるのか、SBDC203の実機を基に確認していきたい。
![](https://www.webchronos.net/wp-content/uploads/2024/12/Seiko_Prospex_SBDC203_880.jpg)
これまでのセイコーのダイバーズウォッチとは一味違う、エレガントさを強調した2024年新作。八角形のベゼルに波模様のダイアルが特徴だ。自動巻き(Cal.6R55)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径41.3mm、厚さ12.5mm)。300m防水。17万6000円(税込み)。
ブルーのダイアルに浮かぶ、優雅な波模様
まずはダイアルから見ていこう。本作はブルーカラーのダイアルを持つが、やや暗めの色味は落ち着いた大人っぽさを感じさせる。水平方向のパターンが施されているが、これらは完全な直線ではなく波打っており、有機的な印象。公式の説明によれば、これは海岸線の情景をイメージした波模様であるとのこと。サンレイ仕上げが施され、角度を変える度に放射状に光が動く様子を楽しむことができる。
![セイコー プロスペックス「ダイバースキューバ」Ref.SBDC203](https://www.webchronos.net/wp-content/uploads/2024/12/prospex_sbdc203_2.webp)
インデックスの形状は、これまでの同社製ダイバーズウォッチではあまり見られなかった砲弾型を採用している。パッと思いつく限りで類似した形状のインデックスを持つのは、2024年新作の「SBDY131」だろうか。ダイバーズウォッチと言えば、視認性を高めるためにとにかくインデックスの面積を広く取ることが多いが、本作の場合はやや細めとなっており、ダイアルだけを見れば過度なダイバーズウォッチ感はない。しかしキズミを用いてインデックスを眺めてみると、金属製の縁取りの上に盛り上がるほどの蓄光塗料が充填されており、暗所での視認性を心配する必要がないことが分かる。
時分針はペンシル型。時針には中腹で線が入り、かつ分針は時針より細いため、同じ形状であっても瞬時に見分けることが可能だ。秒針には、インデックスに重ならないやや内側に蓄光塗料が塗布されている。4時半には日付窓が配され、機能性も十分だ。
八角形のベゼルとポリッシュ主体のケース
恐らく本作の中で最も注目されるポイントは、逆回転防止機構が備わった八角形のベゼルではないだろうか。多角形のベゼルは、いわゆるラグジュアリースポーツウォッチの多くが採用する意匠だが、鋭いエッジの利いたデザインの多いそれらのベゼルに比べ、本作のものはやや角を落とした、なだらかな形状になっている。これが全体に柔らかで優雅な印象をもたらし、本作ならではの個性を発揮している。
この形状は、見た目の印象を変えるだけではなく、操作性の向上にも寄与している。指で摘まんで回転させる際に、指とベゼルが面で接することになるため、グリップ感が増すのだ。120クリックで1周し、カチカチカチと小気味良い手応えがあるため、狙ったところに容易に合わせることが可能だ。ベゼルインサートはメタリック感のある深いブルーに彩られ、60個の目盛りを配したシンメトリーなデザインだ。
本作の個性を際立たせているのは、ベゼルだけではない。ダイバーズウォッチは一般的にヘアライン仕上げを主体とすることが多いが、本作ではラグの上面にポリッシュ仕上げを施し、ダイバーズウォッチらしからぬエレガントさを与えられている。
また、曲面を多く取り入れたデザインも魅力だ。ラグの先端に向かってギュッとカーブしているだけではなく、リュウズガードへと繋がるラインにも曲面が採用されている。
ケースバックには、同社製のダイバーズウォッチでお馴染みの荒々しい波をモチーフとした刻印が施されている。内部のムーブメントを鑑賞することはできないが、300m防水を備えた本作のタフさを感じられる意匠だ。
ステンレススティール製のブレスレットは、3連タイプ。両端をヘアライン、中央をポリッシュ仕上げとすることで、ケースの仕上げとの統一感を持たせている。コマ自体は長すぎず、可動域も十分確保されている。クラスプは三つ折れ式で、ダブルロック仕様である。ダブルロック用のフリップに配された薄いロゴや操作した感触をはじめ、高級感を重視した仕様ではないが、必要な機能は十分に果たしている。ダイバーエクステンションも備わっており、ウェットスーツの上から着用する際に腕回りを延長することができる。
ケースとブレスレットともに、同社独自の表面加工であるダイヤシールドが施されており、耐傷性が高められていることも嬉しいポイント。
![セイコー プロスペックス「ダイバースキューバ」Ref.SBDC203](https://www.webchronos.net/wp-content/uploads/2024/12/prospex_sbdc203_4.webp)
ムーブメントは安定のCal.6R系
搭載されているムーブメントは、Cal.6R55である。これは、同社製の機械式自動巻きムーブメントの主力であるCal.6R系の中でも比較的新しいムーブメントであり、約72時間のパワーリザーブを備えていることが特徴だ。自動巻き機構は、ラチェット式の一種であるマジックレバーを採用し、シンプルな構造と高い巻き上げ効率を両立させている。Cal.6R系は高級ムーブメントとは言い難いが、その分多くの普及機に採用され、高い信頼性を勝ち得てきた実力派だ。
操作方法は、一般的な3針ムーブメントと変わらない。ねじ込み式リュウズを解除後、そのままのポジションで主ゼンマイの巻き上げ、1段引きで日付のクイックチェンジ、2段引きで時刻調整となる。針のふらつきはなく、リュウズ自体が大きいため、ねじ込みなどの操作も簡単だ。
![セイコー プロスペックス「ダイバースキューバ」Ref.SBDC203](https://www.webchronos.net/wp-content/uploads/2024/12/prospex_sbdc203_6.webp)
エレガントなデザインは汎用性高し
実際に腕に装着してみると、手で持っていたときよりもだいぶ薄く感じる。改めてスペックを確認すると、厚さは12.5mm。搭載しているムーブメントが薄型ではないことと、300m防水を備えていることを考慮すれば、十分薄く仕上がっていると言えるだろう。しかしそれ以上に見た目に薄く感じるのは、恐らくケースの湾曲が腕のカーブにぴったりと沿っているからだ。これによって腕への密着感を強く感じる。加えて、厚みをケースバックやベゼルにバランスよく分散させていることもポイントだ。ミドルケースに厚みが寄ってしまうと、かなり見た目のボリューム感が出てしまう。さらに、ミドルケースからケースバックに向かって絞った形状となっていることも、見た目の薄さに寄与していることだろう。
エレガントなダイバーズウォッチという本作のキャラクターは、幅広いシーンに対応する優れた汎用性をもたらしてくれる。特に、ビジネスシーンでもすんなりと溶け込んでくれるのは、ダイバーズウォッチとして稀有な存在だ。
元来ダイバーズウォッチの主戦場は、言わずもがな海をはじめとする自然の中だ。過酷な環境において正確な時刻情報を提供するために、視認性や堅牢性を極めていった結果、ダイバーズウォッチの要件は規格化され、プロフェッショナル向けのツールらしい硬派なデザインに収斂されていった。
やがてダイバーズウォッチは特有のデザイン性や実用性から、街中でも使用されるようになる。ダイバーズウォッチを愛用するがダイビングをしない、いわゆる“陸(おか)ダイバー”である。恐らく、ほとんどのダイバーズウォッチは、陸ダイバー、またはライトなダイバーの手に渡っているのではないだろうか。
街中での市民権を得たダイバーズウォッチだが、ビジネスシーン、つまりスーツと合わせるにはなかなかモデルを選ぶ。そんなとき、本作は筆頭候補となってくるはずだ。これまでのセイコーダイバーズではジャストで埋められなかった隙間を、SBDC203はしっかりとカバーしてくれる。
海中からオフィスまで
300mもの防水性やブレスレットのエクステンション、高い視認性など、スペック面で見れば本作は文句なしにプロフェッショナルユースのダイバーズウォッチである。一方、デザインを見れば煌びやかなダイアルとベゼル、そしてポリッシュ主体のケースと、ドレッシーな意匠が目立つ。相反する要素を併せ持つ本作は、海中からオフィスまでをカバーする多用途ダイバーズウォッチを目指したものだろう。
個人的にはいっそのこと、タウンユース向けにスペックを落としてもよいのではないかとも思ったが、あくまで本格的なダイバーズウォッチとしての性能を犠牲にしていないのは、プロスペックスというブランドとして譲れないポイントなのだろう。ダイバーズウォッチは、探検家たちが命を預けるアイテムである。1965年から続くセイコーダイバーズの血が、本作にも通っているということが良くわかる。