ノルケインを代表するコレクションである「ワイルド ワン」。2025年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで、直径39mmの小径ケースを備えたモデルがラインナップに加わった。この新作モデル、ただのサイズ違いのバリエーションと思うなかれ。あらゆるユーザーが機械式腕時計を楽しめる、次世代の高級スポーツウォッチである。

鶴岡智恵子(本誌):文 Text by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
[2025年6月9日公開記事]
ノルケインの「ワイルド ワン スケルトン」に“楽しい”新作モデルが登場!
2018年、ベン・カッファーによって創業されたノルケイン。新興ブランドではあるものの、家族経営の独立した体制の下、優れた品質の高級腕時計を製造することで成功を収めている。この成功は、「ワイルド ワン」のヒットの影響が少なくない。2022年にリリースされたこのコレクションは、独自構造のケースによって、機械式腕時計でありながらも5000Gの耐衝撃性を備えた高性能スポーツウォッチだ。ノルケインのコアコレクションとして誕生以来、毎年複数の新しいバリエーションがラインナップに加わっており、2025年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブでは直径39mmのケースを持った「ワイルド ワン スケルトン 39mm」が4種類、登場した。
自動巻き(Cal.N08S)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。ノルテックケース(直径39mm、厚さ11.75mm)。200m防水。ハイパーピンク、パープル アイス ブルー、スカイ ブルーは各92万4000円、世界限定400本のミント グリーンは93万5000円(いずれも税込み)。
新作モデルはそれぞれ名称にハイパーピンク、パープル アイス ブルー、スカイ ブルー、ミント グリーンとカラーが冠されており、ケースのラバー部分、ラバーストラップ、文字盤のフランジにあしらわれたスケール、針の蓄光塗料などが鮮やかに彩られる。なお、ミント グリーンのモデルのみ、400本の限定生産だ。
「ワイルド ワン スケルトン 39mm」がもたらす“楽しさ”
目を引くカラーリングだけでも楽しい気分にさせられる本作だが、“楽しさ”は外観だけにとどまらない。冒頭でも記したように、機械式腕時計であることを、あらゆるユーザーが楽しめるモデルとなっているのだ。そんな“楽しさ”を実現する、ワイルド ワン スケルトン 39mmをひもとく。
独自構造のケースはキャンバスになった
ワイルド ワンは、ふたつの大きな特徴を持つ。ひとつは機械式腕時計でありながら、5000Gもの耐衝撃性能を持つこと、もうひとつは一般的なスポーツウォッチと比べて、極めて軽量であることだ。一部の製品を除いて、現在の機械式腕時計の多くは一定の衝撃テストをクリアしており、日常生活の中での使用が機械の性能に影響を与えることはほとんどない。しかし、ゴルフやテニスなどといった、打撃によって手首に大きな衝撃が加わるようなスポーツには不向きだ。衝撃によって、機械式時計の精度を調整するテンプのヒゲゼンマイが歪んでしまったり、テンプを支える天真が折れてしまったりするためだ。一方、ノルケインはワイルド ワンを、前述したような、手首に負荷のかかるスポーツで使えると明言している。この耐衝撃性を実現するのが、独自のケース構造だ。
このケースは25個のパーツで構成されている。ムーブメントをチタンで成形したコンテナで包むことで保護し、さらにこのコンテナにラバー製のショックアブソーバーを被せたうえで、NORTEQ(ノルテック)という独自素材で出来たケージをベゼル側、ケースバック側の両側からサンドイッチした構造となっている。加えてチタン、ラバー、NORTEQという素材を使っているため軽量だ。
そんなワイルド ワンに、もうひとつの個性が加わった。この独自構造のケースは、キャンバスにできるということだ。今回発表された4種の新作モデルのように、従来からラバー部分に特徴的なカラーリングを施したバリエーションは展開されてきた。しかしバーガンディーやブラウン、グレーカラーのNORTEQの開発に成功したノルケインは、今年パープルカラーのバリエーションを打ち出してきた。
NORTEQはBIWIが開発した、カーボンファイバーと60%のバイオ由来原料(ヒマシ油)を含む高性能なカーボン複合素材だ。普通、カーボンはブラック以外のカラーにすることはできない。しかし本作は、カーボン繊維1本1本に色付けすることで、ブラック以外の色味を出すことに成功している。表面を塗装しているわけではないので、傷によって剥げず、また、NORTEQらしいパターンも損なわない。もっとも今回のような明るいカラーを表現するのはとても難しく、ノルケインはBIWIと、何度もサンプルの検証を行ったという。先日、ノルケインの副社長であるトビアス・カッファーが来日した際に本作を取材した。彼はNORTEQの色付けが難しいと語りながらも、今後、さらなる新色を投入する構想があることを示唆していた。彼らがこのキャンバスにどのような“絵”を描くのかは「まだ秘密」とのことだが、新しいバリエーションの登場によって、いっそうワイルド ワンの“楽しさ”は増すに違いない。
小経化と軽量化がかなえる「万能な腕時計」というポジショニング
本作の大きなトピックは、従来42mm径であったワイルド ワンのケースが、3mmサイズダウンしたという点だ。独自のケース構造、そして耐衝撃性をそのままに小経化しなくてはならず、BIWIはケースを切削するための、13個のツーリング(CNC工作機械において切削工具を固定・保持するための接続機器のこと)を一新し、チタン製コンテナやラバー製ショックアブソーバーの位置やサイズも、新しく設計し直したという。トビアス・カッファーは「ムーブメント以外、すべてゼロから設計しました」と語った(参考:https://www.webchronos.net/features/139264/)。
さらに小径化に伴い、軽量化も図られた。ワイルド ワン スケルトンの42mm径モデルが78gのところ、本作は64gとなっている。ケースのみであれば、わずか44gだ。
小さく軽い腕時計は、装着感に優れる。取材時、このワイルド ワン スケルトン 39mmを試着した。個人的な着用感となってしまって恐縮だが、手首回り14.7cmの女性である私にとってもなじみよく、短いラグが手首に沿うような形状となっていることから、手首とケースの間に隙間ができてしまったり、ヘッドがグラついたりといったこともなかった。直径39mm、厚さ11.75mmというケースサイズは、決して女性にとって小さくはない。だからこそ、女性の自分が本作を着用して違和感のないことに驚かされたのだが、聞けばノルケインとBIWIは、さまざまな手首回りに対するケースの着用感を研究しており、幅広いユーザーが快適に装着できる腕時計であると自負している。
つまり39mm径の登場によって、ワイルド ワン スケルトンはいっそう幅広いユーザーにリーチする「万能な腕時計」としてのポジショニングを確立したと言える。機械式腕時計は小径化によって、パワーリザーブをはじめとしたスペックが落ちてしまうこともあるのだが、本作は耐衝撃性、そしてムーブメントはそのままであることも特筆すべき点だ。結果、機械式腕時計を、あらゆるユーザーが快適に楽しめるのだ。
もっとも、取材後に42mm径のモデルを試着したのだが、こちらも装着感は良好だった。しかし、やはりオーバー40mm径のケースはレディースのブラウスの袖口には収まりきらず、大きいと感じた。新サイズの本作は、こういったファッションや好みの多様性にも応えてくれる万能さを有している。
機械式ムーブメントを身近に
ワイルド ワン スケルトンはオープンワークの文字盤によって、文字盤側からもムーブメントを観賞できる。この仕様は、本作の機械式腕時計の“楽しさ”を伝える、最たる特徴だ。というのも、ケースバック側をサファイアクリスタルなどでシースルーにしたモデルは数多くあれど、ケースバック側は着用時やリュウズの操作時には鑑賞しにくく、また、自動巻きモデルであればローターが目立ち、ムーブメントの全体像や構造などを理解しづらい。しかし文字盤側からムーブメントを見せることで、本作はリュウズを使って主ゼンマイを巻き上げる際に、香箱真が回転して主ゼンマイが巻き上がる様や、着用している状態でもテンプが往復運動を繰り返す様が楽しめる。

定期的な時刻調整の必要がないクォーツ式ではなく、あえて機械式腕時計を購入するユーザーというのは、機械そのものに関心を持つ場合が少なくない。そんなユーザーにとって、常に手元で機械式ムーブメントを確認できるというのはうれしいポイントではないだろうか。
なお、ムーブメントの仕様はこれまでに同じだが、「ワイルド ワン スケルトン 39mm ミント グリーン」のみブリッジにブラックルテニウム仕上げが施されており、精悍な印象を与える。
機械式腕時計の“楽しさ”を「ワイルド ワン スケルトン 39mm」で存分に味わう
ノルケインは「機械式腕時計の情熱を広める」ことを目指してきた。今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表された「ワイルド ワン スケルトン 39mm」は、この理念を体現するコレクションと言えるだろう。機械式腕時計であることと、誰もがさまざまなシーンで使いやすいことを両立させた本作は、クラシカルで敷居が高い印象もある機械式腕時計への間口を広げる、次世代スポーツウォッチであるためだ。
もちろん、これまで複数の機械式腕時計を所有してきたユーザーにとっても楽しいコレクションだ。むしろその軽さや着用感、衝撃への耐性は、機械式腕時計を使い続け、その取り扱いについて熟知してきた人にこそ驚きに満ちたものになるだろう。
本作の“楽しさ”で、ぜひ機械式腕時計の“楽しさ”を味わってほしい。