口うるさい時計好きですら納得のモデルを数多く送り出してきたオシアナス。新作「OCW-S400A-5AJF」も例外ではなく、もはやあえて新作の優れた点を語るまでもないほど、その完成度は飛び抜けている。そんなOCW-S400A-5AJFを実際に着用して見えてきたのは、装着感の進化と外装デザインの奥行き、そしてひとつの小さな課題だった。成熟の域に達したオシアナスが、いま直面する“次の壁”とは何か。本稿では、その魅力と課題の両面から掘り下げる。
タフソーラー。Tiケース(直径41.3mm、厚さ9.2mm)。10気圧防水。17万500円(税込み)。
Photographs & Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[2025年6月11日公開記事]
いよいよ死角がなくなってきたオシアナス
実は今更、オシアナスシリーズに対して特段語ることもない。過去に着けた「OCW-T4000C-3AJF」や「OCW-T200S-3AJF」は、腕時計として文句なしの出来を誇っており、今作「OCW-S400A-5AJF」が優れているのも正直分かりきっていたことだからだ。

https://www.webchronos.net/features/79931/
つまりポリカーボネート製の文字盤は、金属製に劣らない質感を持ち、外装の加工精度も金額以上。リュウズの操作性にのみ、改善の余地があります。この定型文で語れてしまうぐらいに操作性以外の完成度が非常に高く、安定したクォリティーを誇っているのがオシアナスなのだ。
とはいえ、実際に着けずに憶測で語るわけにはいかないため、今回もしっかりと着けさせていただいた。そのうえで、今作の美点も上記であることが間違いないことを確認させてもらった。ただし、同じような記事を量産しても面白くないため、本稿ではあえて、この美点意外で気になったところを中心に記載していこうと思う。
装着感の軽快さは新たな領域に
今回最大の見どころは、なんといっても装着感だ。かつてインプレッションをしたOCW-T200S-3AJFは、時計の重量バランスをうまくブレスレット側に散らすことで、スペック以上に軽快だと思わせる設計の巧みさを感じさせた(ただし、そもそも総重量133gはステンレススティール製と考えたら十分軽い)モデルだった。
対するOCW-S400A-5AJFは、そもそもチタン製外装の総重量が79gと、別次元レベルでとにかく軽い。そのうえケース厚は9.2mmと非常に薄く、そりゃ腕なじみもいいに決まっている。
実際に着用していた時期は4月前後と、徐々に外気温が高くなっていく季節。そんな汗ばむ時期でも快適に着けることができたのは、コマ調整時にあえて少しゆとりを持ったサイズ感にして、風通りを良くしたからだ。元々、ピッタリ腕に沿うようにキツめのコマ調整を好む筆者が、実験的に緩く着けようと思えたのも、実際に着用してみて嫌な思いをしなかったのも、この軽さと薄さのおかげに他ならない。
薄型ケースだが、決して平板に見えない立体感
軽さと薄さによる優れた装着感を褒めちぎったわけだが、OCW-S400A-5AJFの外装には他にも見逃せないポイントがある。それがケースの立体感だ。ケースを薄く作ろうとすると当然、無駄な厚みを削っていくことになるから平板なデザインになりやすい。
しかし、同作ではサテン仕上げを中心としながら、ラグやケースサイドの稜面、ベゼルなどにポリッシュ仕上げを与えることで、光を受けた時のハイライトとシャドーのコントラストが強く出るように磨かれている。
また、曲面を細かい直線に分割していくことで、全体的に角張った意匠を与えている。厚みのあるスポーツウォッチがここまで角を強調すると無骨な印象になりかねないが、OCW-S400A-5AJFは外装が薄いため押し出しはそこまで強くなく、程よくケースの表情を引き出すことに成功している。
結果としてOCW-S400A-5AJFは、薄型時計ながら飽きのこない奥行きのある外装を手にすることができたのだ。
なお、立体感という点ではサファイアクリスタル製インサートを持つベゼルもこの演出に一役買っている。ベース部分に蒸着により色付けられたペールルージュは、正面から見た際は文字盤と同色に見えるが、例えばケースサイドから嘗めるように見る場合、よりグレー傾向に色が落ち着く。
前述の仕上げのコンビネーションと合わせて、常にさまざまな角度からその見え方が変わっていく様は、非常に満足度が高かった。
高級時計と戦う領域に入ったからこその改善点もある
このように、着用した際に新たな発見が多かったOCW-S400A-5AJF。もちろんこれら特徴に合わせて、冒頭で記載したように文字盤の質感は驚くほどに高いのだから、新型オシアナスに死角なし、とこの記事を締めても十分に許されるだろう。
しかし、ここまでオシアナスが腕時計として成熟したからこそ、あえて1点注文を付けたいとも思った。それは指紋が付きやすく、目立ちやすいというものだ。掲載カットを見てもらえば分かるが、ラグやブレスレットにはシミのような黒ずんだ汚れが目立っている。これはすべて着用時に付いた指紋をはじめとする皮脂汚れだ。
もちろん、どんなに綺麗な状態を保っていても、カメラで撮ればこの類の汚れは目立ってしまうもの。それでもクロスでしっかり拭いてもここまで汚れが残ってしまうのは、少し残念だ。そして着用した個体が広報用のサンプルだったとはいえ、手元に来た時点でこの汚れ具合だったことを考えれば、同作は汚れがつきやすい or 目立ちやすい外装であることは明白だ。
チタンという素材は元々指紋が付きやすく、加えてサテン仕上げは皮脂汚れが溝に溜まりやすいため、これが難題であることは重々承知だ。しかし、IPやDLC、もしくはそれに準ずるような皮膜を形成する蒸着やコーティングを施すだけでも、この問題は目に見えて改善されるだろう(なお、ケース表面には硬度を高めるチタンカーバイト処理はすでにされている)。
いよいよ販売価格が17万円を超えてきて、高級時計を相手に戦わなければいけないオシアナスだからこそ、この部分にはより注力してもらいたい。