今回は、初めてドレスウォッチを選ぶユーザーに向けて、5つのおすすめモデルを紹介する。昨今は、ビジネススタイルのカジュアル化に伴ってドレスウォッチが求められる機会も減っているかもしれない。ならば、必要に駆られるのではなく、自身のスタイリングに取り入れたいと思うようなドレスウォッチを1本選ぶというのはどうだろうか? 仕立ての良いスーツにコーディネートしたくなるような、シンプルなデザインに薄いつくりのドレスウォッチを紹介してゆこう。
Text by Shin-ichi Sato
[2025年7月22日公開記事]
初めてのドレスウォッチにおすすめの5モデル、全10バリエーションを紹介
現代において“ドレスウォッチ”を明確に定義するのが難しく、いくつかの要素を重ね合わせることで再考する試みを、『クロノス日本版』2024年1月号(転載記事:https://www.webchronos.net/features/138473/)では行っている。その内容を踏まえつつ、筆者なりに“初めてのドレスウォッチとして備えていてほしい要素”と“ドレスウォッチと銘打たれるモデルの多くが備える要素”として、薄い仕立てであること、シンプルな文字盤デザインおよび飛び出しの少ないシンプルなケース造形であることの3つの要素をピックアップし、それらに当てはまる5つのモデルを選出した。
筆者の好みだけを述べれば「初めてのドレスウォッチには基本となるホワイトかシルバー文字盤のモデルを選ぶべきだ」などと、断言してしまいたいところだが、一方で、ドレスウォッチのスタイリングが生み出すエレガントさを、カジュアルを含めた幅広いシーンに取り入れて欲しいとも考える。そこで、選出した各モデルについて、ホワイトあるいはシルバー文字盤と、幅広いシーンや装いにマッチするカラフルな文字盤のふたつのバリエーションを提案したい。
コンパクトでもグランドセイコーらしさを備えた「エレガンスコレクション」
日本の誇る高級時計ブランドであるグランドセイコーから選出するのは「エレガンスコレクション」Ref.SBGX347である。近年のグランドセイコーは、数年前までと比べてケース径40mm以下のモデルを充実させている。本作もそのうちのひとつで、ケース径34mmと現代基準ではかなりコンパクトだ。厚さは10.7mmと比較的薄手の仕立てである。

クォーツ(Cal.9F61)。SSケース(直径34mm、厚さ10.7mm)。日常生活用防水。47万3000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
本作は、ラウンドケースにエッジが効いたラグ、シャープなアプライドインデックス、多面ダイヤカット針など、セイコースタイルを反映したデザインを、グランドセイコーが誇るザラツ研磨をはじめとした優れた仕上げ技術によって実現している。ヴィンテージウォッチを想起させるようなコンパクトな仕立てでありながら、存在感があり、モダンに感じるのは、これらのエッジの効いたデザインと高品質な仕上げによるものであろう。
そのほかのカラーとして、深いブルーが印象的なRef.SBGX349をピックアップした。ブルーはグランドセイコーのブランドカラーであり、華やかさとシックな印象を兼ね備えた色調であるのが魅力である。レザーストラップは、文字盤色に合わせたものがチョイスされている点もモダンである。このカラーコーディネートであれば、スーツのみならず、カジュアルな装いでも存在感を放ってくれるに違いない。

クォーツ(Cal.9F61)。SSケース(直径34mm、厚さ10.7mm)。日常生活用防水。47万3000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
エングレービングされたインデックスが魅力 ロンジン「ロンジン マスターコレクション」
クラシカルなデザインを現代の技術でハイクォリティでありながらもリーズナブルに実現し、魅力的なドレスウォッチとして仕立てているのが、「ロンジン マスターコレクション」 Ref.L2.843.4.73.2である。本作の注目点は、エングレービングによってアラビックインデックスが文字盤に彫り込まれたデザインを採用している点である。このようなエングレービングは、職人による手作業によって施されてきた伝統的な手法となるが、本作では微細加工機によって量産化に成功している。その仕上がりも、エッジがスムースかつ鋭く、深さのあるもので見ごたえがある。

自動巻き(Cal.L893)。26石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ10.2mm)。3気圧防水。37万8400円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350
6時位置にはレイルウェイトラックを持つスモールセコンド表示を備え、ブルーのリーフ型の針も相まってクラシカルな印象である。このスタイリングを見ると、本作は何か特定モデルのリイシューではないかと思いたくなるが、ロンジンのアーカイブにあるいくつかのモデルの要素を参照しつつ作り出された新規デザインとなっている。その観点から見直すと、ドットのエングレービングを施しつつすり鉢状にした見返し部や、滑らかなカーブがつながったシェイプのケース、丸みを帯びたベゼルからは、少しのモダンさが感じられる。そのほか、短く切ったラグによって着用感を向上させるアプローチは、近年多くの採用事例が見られる設計思想に基づいてのものである。
本作の魅力を知るには実機に触れるのが最適であろう。注目すべきインデックスのエングレービングを斜めから見ると、職人が彫刻刀で彫ったかのような躍動感を覚える立体感があり、シンプルでありながら表情豊かであることが分かるはずだ。シルバー以外でピックアップするのが、サーモンカラー文字盤である。サーモンカラーはヴィンテージウォッチに見られるカラーで、近年、注目度が上昇している。筆者がスーツ以外のコーディネートを考えるのであれば、厚手でブラウンカラーのツイードジャケットに合わせてみたいと思わせる、魅力あふれる文字盤だ。

自動巻き(Cal.L893)。26石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ10.2mm)。3気圧防水。37万8400円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350
“都会”を意味するオメガのドレスウォッチ 「デ・ヴィル プレステージ」
続いてピックアップするのは、オメガ「デ・ヴィル プレステージ」である。デ・ヴィルとはフランス語で街や都会を意味しており、都会での装いにマッチするエレガントなモデルが多数ラインナップされている。
ケースサイズにもよるがデ・ヴィル プレステージの文字盤は、縁から中央に向かって丸く膨らんだボンベダイアルを備えており、これはヴィンテージウォッチに見られる意匠だ。曲線で構成されたケースおよびリーフ針と相まって、時計全体に柔らかな印象を生み出しており、この点が本作の魅力と言えるだろう。
搭載される自動巻きのCal.8800は、METAS(スイス連邦計量・認定局)によるマスター クロノメーター認定ムーブメントである。この認定に必要な要件の代表例は、1万5000ガウスの磁場にさらされた場合でも精度を維持すること、パワーリザーブ残量による精度の変動が小さいことなどの項目について、全数検査を行うことである。エレガントなドレスウォッチであっても最高峰の実用性を提供する姿勢は実にオメガらしく、本作を選ぶ理由のひとつとなりうる。

自動巻き(Cal.8800)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径40mm、厚さ9.9mm)。30m防水。75万9000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087
取り上げるシルバー文字盤モデルは、一般的なシルバーカラーよりもダークな色調で、シックで落ち着いた仕上がりである。その他のカラーとしてピックアップするのが、ネイビー文字盤モデルである。このカラーの特徴は、縦方向にランダムな筋目が加えられている点で、カラーも相まってデニムのような質感に仕上げられている。落ち着いた色調のため改まったシーンにマッチし、その質感から、オックスフォードシャツとジーンズのコーディネートのようなカジュアルにも似合いそうだ。文字盤カラーに合わせたレザーストラップの組み合わせも用意されている点にも注目である。

自動巻き(Cal.8800)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径40mm、厚さ9.9mm)。30m防水。75万9000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087
海辺のリゾート地を名前に持つ IWC「ポートフィノ」
デ・ヴィルが都会ならば、次はリゾート地にちなんだドレスウォッチを選んでみよう。取り上げるのはIWC「ポートフィノ」である。質実剛健なツールウォッチのイメージの強いIWCの中で、ポートフィノは1980年代からドレスウォッチのラインナップを支えてきた。コレクション名は、北イタリアに位置し、風光明媚な景観からリゾート地として知られる港町のポートフィノから取られたものである。
ポートフィノは懐中時計用ムーブメントを搭載したラウンドケースに、ラグを取り付けて腕時計に仕立てたモデルが起源であることから、現在でもラウンドケースがデザインコードとなっている。また、クラシカルな懐中時計を思わせるローマンインデックスも特徴だ。時分針に、ふくらみが大きく、先端が鋭いリーフ型の針を用いる点もデザインコードで、柔らかく柔和な印象を生み出しつつ、視認性に優れた仕上がりである。
取り上げるホワイト文字盤モデルは、時分秒針とインデックスにブルーを採用する。針をブルーに仕上げるのは、歴史的に採用事例が多いデザインであるが、インデックスもブルーとするのはやや珍しく、海辺のリゾートを思わせる爽やかな印象を本作に加えている。組み合わされるレザーストラップもネイビーで、カラーコーディネートも完璧だ。

自動巻き(Cal.35111)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径40.0mm、厚さ9.2mm)。3気圧防水。74万2500円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
もうひとつ取り上げるのはネイビー文字盤モデルである。トーンを抑えたネイビーの文字盤にはサンレイ仕上げが施され、光の反射に表情を加えている。ここに、ゴールドカラーの針とインデックスが配され、ネイビーとゴールドカラーのコントラストが、ネイビーブレザーに金ボタンを思わせる配色で魅力的だ。

自動巻き(Cal.35111)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径40.0mm、厚さ9.2mm)。3気圧防水。74万2500円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
筆者最推しの超薄型ドレスウォッチ。シチズン「エコ・ドライブ ワン」
最後にピックアップするのは、シチズンの「エコ・ドライブ ワン」である。なお、本作が筆者の“最推し”である。特徴は極めて薄いプロポーションだ。時計仕上がり厚さはわずか4.5mmで、ケース内には光発電のクォーツムーブメントが搭載される。
エコ・ドライブ ワンには、いくつかのデザインがラインナップされており、その中でも取り上げたいのは、クラシカルで伝統的なドレスウォッチを思わせるモデルである。センターには時分針、6時位置にはスモールセコンドが配された文字盤デザインで、ピンクゴールドカラーのデュラテクトピンクを施したケースに、土佐和紙を用いたホワイトの文字盤が特徴だ。

光発電エコ・ドライブ(Cal.8845)。フル充電時約7カ月駆動。SSケース(直径36.6mm、厚さ4.5mm)。日常生活用防水。35万2000円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 フリーダイヤル 0120-78-4807
薄さを追求しようとすると、文字盤と風防の間の空間も狭くなってしまい、文字盤上の立体感が乏しくなってしまいがちである。これに対し、本作では厚さ1mmのムーブメントを用いることでムーブメントに占有される容積を削減し、文字盤側の空間を確保。立体感のあるインデックスやサブダイアルの枠を配することを可能としている。
用いられる土佐和紙は柔らかな風合いを備え、文字盤に表情を加えている。また、外装のデュラテクトピンクの色調ともマッチして、華やかなで明るい印象に仕上げられている点が魅力である。
ホワイト以外の選択肢としてピックアップしたのは、ブラック文字盤モデルだ。ケースはデュラテクトプラチナ仕上げで、白く輝く仕上がりで、それとコントラストを成すように、艶のあるブラックの文字盤が組み合わされる。和紙文字盤モデルと対照的に、引き締まってクールで、スポーティーさもあるデザインだ。

光発電エコ・ドライブ(Cal.8845)。フル充電時約7カ月駆動。SSケース(直径36.6mm、厚さ4.5mm)。日常生活用防水。33万円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 フリーダイヤル 0120-78-4807
本作は、シチズンが得意とするクォーツムーブメントおよび光発電に関する技術や、和紙を用いた文字盤によって、極めて薄く、薄くても魅力あるデザインを実現している。そして、それらを伝統的なドレスウォッチの薄さが生み出すエレガンスに結びつけることで、魅力あるデザインに仕立てられている。本作に興味を持った方は、ぜひ店頭で試着してほしい。