グランドセイコーは1960年に誕生した、日本が世界に誇る高級時計ブランドである。時計市場ではスイスやドイツブランドなどとは異なるポジショニングを行っており、“グランドセイコーらしい”モデルを多くラインナップしている。本記事では、そんなグランドセイコーについて紹介する。
グランドセイコーの基礎知識
グランドセイコーは国内の腕時計メーカーの中でも最高級ブランドのひとつに数えられる。同時に、世界にも販路を拡大するグランドセイコーについて、まずは歴史やスタイルといった“基礎”の部分から解説する。
グランドセイコーの歴史
グランドセイコーの誕生は、1960年にまでさかのぼる。当時、スイスは時計王国と呼ばれるほどに、高級腕時計の分野で圧倒的な支持を得ていた。そんなスイスの牙城を切り崩し、日本国内で最高級腕時計を造るという志を経て誕生したのが、グランドセイコーである。
また、グランドセイコーは誕生からわずか4年で、カレンダー機能と高い防水性能を備えたセルフデーターを世に送り出した。
その後も女性用腕時計として「19GS V.F.A.」などといった名作を世に送り出すものの、69年にセイコーが「クオーツ アストロン 35SQ」を皮切りに、クォーツ式腕時計が普及。時計市場のシェアをクォーツが多く占めることになったため、機械式時計を生産していたグランドセイコーは、一時休眠した。しかし88年に同ブランド初のクォーツ式腕時計「95GS」で市場に返り咲き、現在に至るまで、高機能と優美な意匠をおなえた高級腕時計ブランドとしての地位を確立している。


セイコースタイル
現在のグランドセイコーにおける基本フォームとなっているのは「セイコースタイル」である。セイコースタイルはデザイナーの田中太郎氏によって確立されたデザイン文法で、以下の3つの基本コンセプトを持つ。
1. 平面を主体として、平面と二次曲面からなるデザイン。三次曲面は原則として採り入れない。
2. ケース。ダイアル、針のすべてにわたって極力平面部の面積を多くする。
3. 各面は原則として鏡面とし、その鏡面からは極力歪みをなくす。
このセイコースタイルを取り入れた初のモデルが、1967年に発売された「44GS」である。以降、セイコースタイルはこの3つの基本コンセプトをデザイン文法として、さらに9つの定義を設けているのである。
その定義とは、他のインデックスの2倍の幅を持つ12時のインデックスであったり、接線サイドラインであったり、フラットなダイヤルであったりと、細部に至るまで厳格に定義されている。
この洗練されたセイコースタイルこそ、グランドセイコーをグランドセイコーたらしめている要因といえるだろう。
マニュファクチュールへのこだわり
マニュファクチュールとは、ムーブメントから自社で一貫製造する時計メーカーを指す言葉だ。グランドセイコーは、高級腕時計ブランドとして、マニュファクチュールに対し強い信念を持っている。
それはパーツ一つひとつの素材を徹底的に研究し、購入者が満足できるよう、高いレベルでのデザイン性と機能を備えているという点である。マニュファクチュールを名乗るブランドは多いが、外装部品まで自社で仕立てる時計ブランドは世界でも希少である。
グランドセイコーの魅力
多くの高級腕時計愛好家がグランドセイコーを支持し、今なおグランドセイコーの製品に魅入られるその魅力はどこにあるのだろうか?グランドセイコーの腕時計の魅力に迫る。
デザイン性
グランドセイコーには、シンプルでベーシックな、普遍的な意匠を備えたモデルが多くラインナップされている。もちろんスポーツウォッチやドレスウォッチも用意されているが、こういったベーシックな意匠はビジネスにもプライベートにも幅広く使用することができ、グランドセイコーが幅広い層の顧客を抱える理由が垣間見える。さまざまなシーンに対応し、長期に渡って利用できるデザインを追求していることが、グランドセイコーの魅力の一つといえるだろう。
一方で日本の自然や伝統をモチーフとした文字盤などを採用することで、他社にはない、独創性にあふれた意匠も持ち味となっている。
機能性
機能性にも注目していこう。特筆すべきはC.O.S.C.(スイス公式クロノメーター検定協会)を 超える、高精度基準「グランドセイコー規格」(GS規格)である。
腕時計の使用環境に左右されず、同ブランドの優れた性能を確認するために用意されているこの独自規格は、ケーシング前のムーブメントを対象に、合計17日間の検査をパスすることを求めている。
さらに、この規格をいっそう厳格にした、グランドセイコースペシャル規格も存在する。
ブランドイメージ
2017年、セイコーから独立し、高級腕時計ブランドとしてのポジションを明確にしたグランドセイコー。もちろんブランド側だけでなく、機能美と優美な意匠を両立した製品、そして、そんな製品を実現する技術力は、国内外の時計愛好家がグランドセイコーを“一流”と認識するに足る理由だ。
また、グランドセイコーはクォーツ、機械式のほか、独自機構であるスプリングドライブという3つの動力を基準として、実用性が高く高機能なイメージがある。さらにそのシンプルなデザインは、実直で誠実なイメージを見る物に抱かせるのだ。
半世紀にわたって培われてきた“国産の最高峰”というイメージは、今後も揺らぐことはないだろう。盤石なブランドイメージは、グランドセイコーの魅力である。
ムーブメントによる種類
前述の通り、グランドセイコーは3種の駆動方式を備えたムーブメントを展開している。ムーブメントごとの特徴を、紹介しよう。
9Sメカニカル

9Sメカニカルの特徴は、精度を支える柱である「てん輪」にある。てん輪は、振動を一定速度に保つ役割を果たしている。 0.000001g単位で重量調整が行われるほどの精密パーツだ。
他にも、9Sメカニカルではパーツの製造に「MEMS」(Micro Electro Mechanical Systems)という最新技術が用いられている。
MEMSは0.001mm単位の精度でパーツを加工する先端技術で、「がんぎ車」をはじめとする重要パーツの軽量化も実現しているのである。
9Fクォーツ

そのひとつが「瞬間日めくりカレンダー」だ。日回し歯車の回転により「瞬間日送りレバー」のばねをたわませ、やがてカムの回転がある位置にまで到達すると、日付が切り替わるという仕組みである。この切り替えが午前0時に正確に行われるのは、熟達した職人の技術によると言える。
世に出ているクォーツはおおよそ自動組み立てだが、9Fクォーツは職人の手によって手作業で組み立てている。ダイヤル側とムーブメント側を、異なる2人の職人が担うことで、高い精度を維持しているのである。
9Rスプリングドライブ

スプリングドライブではクォーツ式に用いられる水晶振動子の電気信号と、主ゼンマイという動力、そしてブレーキの役割を果たす磁力を利用したローター・ステータが用いられており、機械式動力の力強さと、クォーツ式動力の正確さの両方を併せ持っている。
200以上の部品、0.01mm単位で記された設計図からスプリングドライブを生み出せるのは、卓越した職人の技巧があってこそである。