ロレックス、パテック フィリップ、A.ランゲ&ゾーネ……華麗な時計遍歴を持つ、おぎやはぎの矢作兼が、今、着用するのは意外にもマニアックな新進気鋭の国産ブランドだ。東海地方ローカル番組で披露したその時計とは、国立科学博物館にも収蔵される大塚ローテック「7.5号」。お笑い界で一歩引いた視点から独自のカウンターを繰り出す矢作兼らしい、こだわりの1本を深掘りする。

Text by Yukaco Numamoto
土田貴史:編集
Edited by Takashi Tsuchida
[2025年7月20日掲載記事]
自称“日本一の地元密着番組”。「おぎやはぎテラス」をご存知だろうか?
正式名称「おぎやはぎテラス きょう、12時にどこ?」。東海地方を中心に、毎週違った場所に特設スタジオがセットされ、そこから生放送を繰り広げているローカル番組だ。東海地方を「楽しく照らす」をコンセプトに掲げる東海テレビの1時間番組として、2024年7月7日からスタートした。
これまでに地元のお祭りや観光スポット、飲食店などを巡り、東海地方の楽しさや地元愛を呼び起こす内容を放送。時にはゲストが迎えられ、拡大放送も何度か行われている人気番組である。ローカル放送枠ではあるが、YouTubeでティーザーを視聴することができるので、ぜひチェックしてほしい。
先日は中日ビルからお送りいたしました🏙️OA後のお二人のコメントです📣#おぎやはぎテラス #小木博明 #矢作兼 pic.twitter.com/m7v3SCAZDi
— 【公式】 おぎやはぎテラス (@thk_ogiyahagi) June 10, 2025
さて、2025年6月10日の番組公式Xでは、番組で紹介したお店を振り返る2人の様子が動画投稿されている。この時の放送テーマは、東海地方の行列スポット特集。名古屋の代表的なスイーツ「ぴよりん」や「天ぷらかき揚げ光村」のかき揚げ丼に言及するおぎやはぎの姿が映し出された。
ラフな雰囲気の中、矢作兼の腕元で存在感を発揮しているのが大塚ローテックである。その個性的な風貌は、時計愛好家でなくとも、ただならぬものを感じ取っただろう。ピリリとスパイスの効いた存在感が、番組の空気感にも絶妙にマッチしていたのが印象的だ。
唯一無二、強烈な個性を放つ大塚ローテックとは?
大塚ローテックは、カーデザイナー及びプロダクトデザイナーの片山次朗により、2012年に創業された日本の時計ブランドだ。ブランド名が示す通り、東京・大塚が創業の地である。外装からムーブメントへの追加モジュールまでを全て自社設計している点が特徴的だ。ベースムーブメントにはミヨタ製の国産ムーブメントを用いているが、それ以外は片山氏が自ら設計している。
製造本数が少なく、入手困難なことでも知られており、以前から愛好家の間では個性派腕時計として注目されていた。そんな大塚ローテックが世界的に注目されたのは、2024年11月のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)2024である。チャレンジ部門のグランプリに大塚ローテックの「6号」が選ばれたからだ。チャレンジ部門は3000スイスフラン(約50万円)以下の時計が対象。フレンドリーな価格ながら、優れたパフォーマンスを秘めたモデルがノミネートされるカテゴリーである。
そして、矢作兼が着用している「7.5号」は、科学・技術史資料として日本の国立科学博物館で保存されているモデルだ。民生用の腕時計が同博物館に受け入れられたのは令和になってから初のこと。スイスの国際時計博物館(MIH)にも収蔵されている事実からも、本作がいかにユニークなものかが分かる。

購入は大塚ローテックの公式販売ページから抽選販売に申し込むことができる。「7.5号」は、いつでも抽選販売に応募が可能というわけではないため、購入を考えている場合には、販売スケジュールが配信されるメールマガジンに申し込むのがよいだろう。自動巻き(Cal.MIYOTA82S5+自社製ジャンピングアワーモジュール)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.2mm)。日常生活防水。
このモデルは一般的な針とインデックスではなく、ケース上面にターレット状に備えられた3つの小窓から時刻のディスクを覗く仕組みだ。腕時計としては「6号」も7.5号も奇抜な外観に見えるが、さまざまな産業機器の計器を思わせる風貌のため、どこか懐かしい雰囲気も持っている。メカ好きには刺さる要素が満載なのだ。
販売受付はウェブ上での抽選制。購入はひとりにつき一度の応募で1点まで、公式ECサイトから応募することができる。次回以降の抽選販売スケジュールを知りたい場合は、メールマガジンから知ることができる。日本国内の住所が必要だが、シンプルな方法で入手できることは魅力的だろう。
クルマが好き、時計が好き、人が好き! な矢作兼
矢作兼は高校卒業後、ビルのメンテナンス用品を扱う貿易会社のサラリーマンとして働いていた経歴を持つ。営業成績は優秀で上海勤務なども経験し、上海支店長のポストも用意されていたものの、2年で退社した。入社当時は英語ができる、と嘘をついていたというが、最終的には英語も中国語も堪能になったそうだ。その後、高校時代の友人である小木を誘ってお笑いコンビを結成。2006年に「虎の門」話術王決定戦にて準優勝を獲得した。
「おぎやはぎの愛車遍歴」などの番組における発言からも、車だけでなく時計、ゴルフ、ビリヤードなど多趣味であることが知られている。なんと番組の企画内でロールス・ロイス・シルヴァーシャドウを購入したこともある。
同じ所属事務所や親交の深い芸人仲間から、随分と慕われているようだ。現場でのおぎやはぎの印象が非常に良く、芸人としても信頼できる存在だと、オアシズの光浦靖子は自身のコラムで述べている。バナナマンの設楽統も「人付き合いの天才」「矢作さんとしゃべっているとみんな矢作さんのことが好きになる」「誰しも矢作さんに好かれたくなる、そう思わせる才能がある」と絶賛。海外経験や営業経験で培ったコミュニケーション能力の高さや幅広い趣味から来る好奇心旺盛さが、矢作兼の魅力を増幅させているのではないだろうか。
華麗なる時計遍歴を持つ矢作が、大塚ローテックを着用する理由
矢作兼はA.ランゲ&ゾーネのRef.191.032、ロレックスのデイトナやエクスプローラーⅡ、GMTマスターⅡ、そしてパテック フィリップ「アクアノートエクストララージ」Ref.5167A-001など、華麗なる腕時計遍歴があるというウワサだ。
また高級モデルだけでなく、キャンプ番組内ではアウトドアスタイルにマッチしたG-SHOCKのRef.GA-2110SU-3AJFを着用するシーンも確認されている。元々ファッション好きでもあり、中学3年の時に東京・青山のコム デ ギャルソンで買い物をしていたというエピソードや、モッズ系ファッションに憧れていたことなども披露しているため、時計単体でなくコーディネートやTPOも含めて楽しんでいる様子が伝わってくる。
面白い、カッコいい、と思うものを柔軟に取り入れ、自分のものにしていく姿勢は53歳になった今も変わっていない。様々なものに興味を持ち続けるからこそ、大塚ローテックも、彼の“語りたいアイテム”になっていることが推察される。
お笑いタレントの中でもガツガツした雰囲気を出さず、1歩引いた視点で他とは違うカウンターを繰り出す「おぎやはぎ」の存在が、時計界における大塚ローテックの存在に重なってくる。王道を追いかけるのではなく、独自の視点で自分らしい価値を見出し、それを自然体で表現する。そんな矢作兼だからこそ、大塚ローテックの持つ魅力を見抜き、自身のスタイルに取り入れているのだろう。