価格が上がり続ける腕時計。「有名ブランドの高級モデル」と言うと、100万円超が当たり前となってしまった。一方で工作機械の発達によって、ベーシックな価格帯にも高品質なモデルが多くなっている。そこで本記事では、20万円以下で購入できる男性向け腕時計のうち、良作を5本ピックアップして紹介する。なお、自身の腕時計を探している男性に読んでほしいというのはもちろんだが、筆者である私が女性ということから、本記事は彼氏や夫などといったパートナーへのプレゼントを買おうと思っている女性視点で書いている。
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年7月24日公開記事]
良作多し。20万円以下の腕時計
世界的な原材料の高騰や円安などの要因から、高級腕時計の価格が上がり続ける昨今、有名な高級腕時計ブランドとなると、100万円超えの価格が当たり前となってしまった。一方で工作機械の発達や、大手グループを中心とした、設備・人材などの充実した経営資源を背景とした安定的な生産体制の確立によって、ベーシックな価格帯のモデルにも良作が多くなっている。そこで今回、現行モデルのうち、「20万円以下」という条件を設けて、男性向けにお勧めモデルを5本ピックアップした。冒頭でも記したように、筆者である私は女性だ。自身でこれから腕時計を購入しようと思っている男性はもちろん、彼氏や夫といったパートナーへのプレゼント選びに迷っている女性にも読んでほしいと思う。
セイコー プロスペックス「ダイバースキューバ」Ref.SBDC203

自動巻き(Cal.6R55)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径41.3mm、厚さ12.5mm)。300m防水。17万6000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室Tel.0120-061-012
ダイビングの使用を想定した機密性の高いケースをはじめとする性能はもちろん、逆回転防止ベゼルや力強い針・インデックスなど、ツールウォッチに由来するデザインから高い人気を集めるダイバーズウォッチ。各社が力を入れているジャンルというだけあり、時計市場に出回るモデルは百花繚乱だ。
そんな中、10万円台で購入できるモデルとして選んだのは、セイコー プロスペックスの「ダイバースキューバ」である。
ちなみにセイコーは1965年、国産初のダイバーズウォッチ「62MAS-010」を発売し、以降も国産初の飽和潜水対応モデルやアラーム、クロノグラフ、2カ国語表示を備えたハイブリッドダイバーズなどといった、名作の数々を生み出した。セイコー プロスペックスは、そんな同社のダイバーズウォッチの歴史を受け継ぐとともに、「海の相棒から、都会の相棒へ」と活躍のフィールドを拡充しているコレクションだ。
本作はそのセイコー プロスペックスの2024年発表モデルで、八角形ベゼルに海をイメージした波模様の文字盤を持つ。ベゼルや文字盤の深みのあるブルー、そしてダイバーズウォッチとしては厚すぎないケースがエレガンスを感じさせ、海だけではない、街中でも身に着けたい1本に仕上がっている。実際、実機を手に取るとコンパクトで、ジャケットの袖口からさりげなく存在感を発揮するだろう。
自動巻きムーブメントであるCal.6R55を搭載しており、アンダー20万円ながら、約72時間のパワーリザーブを備えていることもミソ。人やシーンを選ばずに使えるダイバーズウォッチとなっている。
カシオ「オシアナス マンタ」Ref.OCW-S400RA-3AJF

タフソーラー。フル充電時約19カ月駆動(パワーセーブ時)。Tiケース(直径41.3mm、厚さ9.2mm)。10気圧防水。18万1500円(税込み)。(問)カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925
「〇万円以下」などと予算を設けると、どうしても日本の時計メーカーのモデルが多くなる。しかし国産ブランドは、この価格帯の良作が多いので致し方なし(人件費や円安などの事情で、海外輸入品よりも国産品が価格のフィールドで優位性があるというのも大きいが)。ということで次に挙げるのは、カシオ「オシアナス マンタ」の2025年発表モデルである。
カシオが2004年から展開する「オシアナス」のうち、薄さ、そして美観を追求するフラッグシップコレクションが「オシアナス マンタ」だ。ワールドタイム機能を備えたモデルが中心であったが、近年では「S-400」として、シンプルな3針表示のモデルも用意されている。本作はそのS-400に加わった、グラデーションがかったグリーン文字盤が目を引く腕時計だ。
特筆すべきは、本作は他のオシアナス同様、ソーラー発電式であるということ。機械式やボタン電池などを使用するクォーツ式の高級腕時計は、真鍮などのメタル素材を文字盤に用いることが多い。この文字盤に塗装やメッキなどを施すことで独自の色合いを出しており、とりわけ近年はこの色味の表現の自由度が上がっている。一方でソーラーウォッチは、“表現”に制約がある。文字盤下に置いたソーラーセルで受光して発電する必要があるためだ。つまり文字盤に透過性が必要で、従来ポリカーボネートなどを使用しており、その質感はチープになりやすかった。
このポリカーボネート文字盤の質を向上させ、高級感を持たせてきたのが国産時計メーカーで、オシアナスも代表例のひとつだ。本作も一見すると、とてもポリカーボネートとは思えないようなカラーリングを確認することができ、また、カシオの金型技術が実現する立体的な樹脂製インデックスや力強い針が、高級感ある造形を実現していることも特筆すべき点である。
ベゼルはサファイアクリスタル製。硬度が高いゆえに傷が付きにくい一方で加工の難しいこの素材を、本作ではレーザー加工によってハーフマット調に仕上げている。
ちなみに本作を入れて、同時に3色がリリースされており、かつ従来からラインナップされているモデルにもバリエーションが用意されている。プレゼント相手に合わせた腕時計選びができるというのは楽しい。
シチズン プロマスター「メカニカル ダイバー200m」Ref.NB6025-59H

自動巻き(Cal.9051)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。スーパーチタニウム™ケース(直径41mm、厚さ12.3mm)。200m防水。18万1500円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807
「良い腕時計話」でセイコー、カシオと来たら、欠かせないのがシチズンだ。昨年はブランド名誕生100周年、そして今年はチタン技術55周年を迎えた同社から紹介したいのは、チタン製の「メカニカル ダイバー200m」である。
ちなみになぜチタンの技術開発を周年として祝っているのかと言うと、1970年に同社がリリースした「X-8 クロノメーター」が、チタンを使った、世界で初めての量産型腕時計であったため。今でこそ軽量で耐食性に優れるチタンは腕時計の素材として普及しているものの、精製が難しく、軍用を除いて実用化されるまでに時間がかかった(詳しいことは、編集長・広田雅将による記事をご参照あれ:https://www.webchronos.net/features/132865/)。しかしシチズンはこのX-8 クロノメーターでチタンを扱い始め、以降、この素材を使った名作の数々を生み出してきた。
現在もシチズンはチタン製腕時計を得意とすることはもちろん、独自開発した表面処理である「デュラテクト」を施した「スーパーチタニウム™」を採用し、耐摩耗性や耐傷性を強化すると同時に、チタンでありながらもカラーリングを施したり、明るい輝きを持たせたりといった、豊かな表現も可能なチタン技術を有しているのだ。
そんなシチズンの独自技術によって製造される本作は、シチズンが1977年に発売した自動巻きのダイバーズウォッチ、「チャレンジダイバー」のデザインを受け継ぐモデルだ。ツール感のある外観はデュラテクトDLCを施したスーパーチタニウム™製で、ブラックカラーを帯びている。ダイビング中も見やすい文字盤は、中央のグレーから外周に向かってブラックへとグラデーションを描いており、この意匠は海中に太陽の光がわずかに差し込んでいる様子を表しているとのこと。
直径41mm、厚さ12.3mmと、200m防水のダイバーズウォッチとしてはコンパクトなケースは、チタンの軽量さも相まって、快適に装着できるところもお勧めしたいポイントだ。
ティソ「ティソ PRX オートマティック」Ref.T137.407.11.041.00

自動巻き(Cal.パワーマティック80)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.93mm)。10気圧防水。10万7800円(税込み)。(問)ティソ Tel.03-6254-5321
ティソはオメガやブレゲなどとともにスウォッチ グループに属する時計ブランドで、この中ではミドルレンジを担っている。大手グループの経営資源を生かした、充実した生産体制の下、手の届きやすい価格で高品質かつ独創的な時計を手掛けるティソもまた、こういった、いわゆるコスパの良い時計ネタに欠かせない。
そんなティソを代表するコレクションが、「ティソ PRX」だ。1978年に同社が生み出したモデルをオリジナルとしており、当時、そして現代も一大トレンドとなった、ラグジュアリースポーツウォッチのテイストを取り入れていることが大きな特徴である。ちなみにPRXは「Precise and Robust X(ローマ数字の10)」の略称で、「高精度かつ堅牢、そして10気圧防水」の意味が込められている。
同社を代表するコレクションだけあり、非常に多彩なバリエーションが用意されている。どのモデルもハズレなしだと個人的には思うが、迷ったら最も定番の、3針表示の自動巻きモデルがお勧めだ。ベーシックであるがゆえに使いやすく、また、「パワーマティック 80」というムーブメントを搭載しており、初めて機械式腕時計を使うユーザーにとって扱いやすいというのが、お勧めの理由である。
パワーマティック 80は、スウォッチ グループが擁するETAのCal.ETA2824-2をベースとしながらも、約80時間のパワーリザーブを有し、さらにはニヴァクロン製ヒゲゼンマイを備えているため耐磁性能にも優れるムーブメントだ。磁気に強いというのは、とりわけ現代社会にはうれしいスペックだ。スマートフォンのスピーカー部分やバッグのマグネット、あるいはエレベーターの壁など、磁気にあふれる日常の中で、気付いたら機械式時計が磁気帯びしていて、精度がおかしくなってしまったという事例は少なくない。
“ラグスポ”風の、エッジの効いたケースとブレスレットが、シームレスなフォルムを描くスタイルにも引かれる。ちなみに薄く仕立てられているため着け心地もよく、毎日身に着けたくなる1本でもある。
オリエント「クラシックコレクション オリエントバンビーノ 38」Ref.RN-AC0M04Y

自動巻き(Cal.F6724)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径38.4mm、厚さ12.5mm)。3気圧防水。公式オンラインストア限定。4万2900円(税込み)。(問)オリエントお客様相談室 Tel.042-847-3380
「20万円以下」というくくりの中では、税込み価格4万2900円と、少し低い設定になってしまうものの、個人的にこういった企画があったら絶対に紹介しようと心に決めていたので、掲載を許してほしいのが「オリエント バンビーノ」だ。
オリエント バンビーノはその名の通り、日本の時計ブランドであるオリエントが手掛けるコレクションで、クラシカルかつドレッシーな意匠を特徴とする。時計市場で人気のジャンルというと、スポーツウォッチ、あるいはスポーティーなデザインの腕時計だ。近年では時計業界のトレンドとしてケースの小径薄型化が挙げられ、クラシック回帰の流行と相まってドレスウォッチも徐々に増えてきたものの、まだニッチの域を出ていない。また、手掛けるブランドは高価格帯がほとんどで、つくりも繊細な場合が少なくない。そのため「気軽に使えるドレスウォッチ」というジャンルを切望していたのだが、オリエント バンビーノはそのジャンルの代表例と言って良い。
直径38.4mm、厚さ12.5mmという大きすぎないサイズのケースはポリッシュを基調に仕上げられており、往年のドレスウォッチの雰囲気を感じさせる。ドーム型のミネラルガラス製風防やボンベダイアル、ブルーの針が、そんなヴィンテージの雰囲気を強めており、好きな人にはたまらないデザインとなっている。
普段ドレッシーな装いをすることが少ないというユーザーも、1本こういったドレスウォッチを所有しておけば、ビジネスやフォーマルシーンで使う機会があった時、重宝する。いきなり数十万円のドレスウォッチを用意するとなると心理的にも経済的にもハードルが上がるが、オリエント バンビーノなら気軽に始められて、かつ使えるドレスウォッチとなってくれるだろう。