2025年7月18日よりアマゾンプライムビデオで独占配信が開始されたテレビ東京のドラマ「笑ゥせぇるすまん」。主演を務めるロバート秋山竜次の完璧すぎる喪黒福造ぶりが話題を呼んでいる。「クリエイターズ・ファイル」シリーズをはじめ、さまざまなキャラクターになりきる稀有な才能を持つ秋山竜次。そんな彼がさまざまなシーンで着用する時計に注目すると、意外な一面が見えてきた。

Text by Yukaco Numamoto
土田貴史:編集
Edited by Takashi Tsuchida
[2025年8月8日掲載記事]
完全一致! 「笑ゥせぇるすまん」の原作に忠実すぎるビジュアル
「笑ゥせぇるすまん」の原作は、藤子不二雄Ⓐによる名作ブラックユーモア漫画だ。黒いスーツ、黒い帽子に身を包んだ謎のセールスマン・喪黒福造(もぐろふくぞう)が、悩める登場人物のちょっとした願望を叶えるが、約束を破ったり、忠告を聞き入れなかった場合には、容赦なくその代償を負わせる物語である。
この作品は、1989年にアニメ化されたのを皮切りに、ゲーム、実写など各種メディア展開が行われ、幅広く知られるようになっていく。話の内容はむしろ大人向け、比較的遅い時間帯での放送だったが、アニメ版は当時の小中学生にも絶大な人気を誇った。
「お客様の契約違反」に対し、ペナルティとして顔面を指差す「ドーン‼︎‼︎」の術で破滅に追いやるパターンが典型的なオチ。客の末路を見届けた喪黒福造の冷酷ながら納得してしまう一言と、「オーッホッホッホッ......」という高笑いで締めくくられるシーンは、多くの人の記憶に刻まれているのではないだろうか。
そんな喪黒福造をロバート秋山が演じる最新作では、脚本を現代社会版にアップデートした回と、完全オリジナルの回から成る多種多様な全12話で構成されている。既存作のファンから、まだ喪黒福造を知らない層までが楽しめる今の時代にマッチした演出となっており、主演が秋山竜次であることが解禁されると、SNS上では「ビジュアルが良すぎる! 完全喪黒さんじゃないですか!」「ビジュアル見に行ったら納得の一言しか出てこない」と、再現具合を中心に“秋山喪黒”に期待する声が溢れ、大きな話題となった。
奇想天外でありながらも、誰もが共感しやすい着眼点を笑いにする才能
秋山竜次は高校卒業後に北九州から上京、「なんか東京らしいところで働きたかった」という理由で雑貨店などの面接を受けるも不採用だった。その後、ビルのダクト清掃のアルバイトをしていた際、たまたま見かけたお笑い雑誌『アジャパー』(平和出版刊)でNSC(吉本総合芸能学院)の存在を知った。
入学を検討した秋山だが、ひとりだと不安だったため、当時無職だった幼馴染のロバート馬場を「東京観光に来い」と誘って呼び寄せ、さんざん観光させて地元に帰る旅費がなくなった馬場を同じダクト清掃のアルバイトに誘ってNSCの入学金を稼がせている。このエピソードからは、秋山の相当な用意周到さが垣間見える。
芸人としての方向性に悩んでいた2012年、「はねるのトびら」で初披露した「体ものまね」は、梅宮辰夫や小沢一郎などの顔をかたどった絵や写真から作成したお面を無言のまま次々と顔にあてがうネタだったが、梅宮辰夫から「やるんだったら、中途半端じゃなく、突き詰めろ。何をどうやってもいいから、ちゃんとした芸をやれ!」と励まされたことが、秋山竜次の現在の芸風に繋がっている。
ある時、お面を忘れてしまった苦肉の策として「体に引っ付けちゃえば良いんじゃないのか」と思いついたことから、Tシャツの裏側に顔写真をつけ、Tシャツをひっくり返した際に顔が登場する芸を考案。このTシャツの発明は、特許として登録されている。
プロスペックスが大好きな秋山竜次を発見!
ロバート秋山のネタで欠かすことができないのが「なりきりモノマネ」だ。有名人やクリエイターなど架空の人物になりきり、あたかも実在人物のように振る舞う芸である。そして「クリエイターズ・ファイル」第4回目の作品「アース・フォトグラファー 兼 月刊『写の惑星』フォトアドバイザー キブネ・シン」内で着用が確認できたのはセイコー「プロスペックス フィールドマスター SBDL027」だ。
この動画ではアース・フォトグラファーという設定だが、プライベートでも愛用するセイコー プロスペックスを選択したことは、ブランドへの本人の思い入れが滲み出ているかのようだ。
セイコー プロスペックスの基本コンセプトは「挑戦者たちのための腕時計」。単なる時刻表示の道具ではなく、セイコーのブランド哲学のもと、プロフェッショナルの活動を支える機器として設計されている。防水性能200m、ダイビング、トレッキングといったアウトドアシーンに対応する本格機能を備えているため、ジャングルで何日間も過ごす“アース・フォトグラファー キブネ・シン”にとっても実用性が高く、まさに刺さるモデルだったことが推測される。

光発電クォーツ(Cal.V175)。SSケース(直径48.0mm、厚さ13.0mm)。20気圧防水。生産終了。
そのキャラクターならどんな時計を選ぶのか、までが秋山竜次の芸
クリエイターズ・ファイル以外でも秋山竜次がセイコー プロスペックスシリーズを着用しているシーンは複数確認できている。例えば2008年公開の映画「デトロイト・メタル・シティ」記者会見時にはセイコー「プロスペックス フィールドマスター SBEP003」を着用していたようだ。
この時、なりきったキャラクターは、本作に登場するステレオタイプなオタク像で非常に口数が少なく、ボソボソとした小声の毒舌家、西田照道だ。セイコー「プロスペックス フィールドマスター SBEP003」はセイコーフィールドマスターシリーズに属するデジタルウォッチだが、この場面でデジタルモデルをチョイスしたのも、西田照道らしさを突き詰めた結果に違いない。

光発電クォーツ(Cal.S802)。一部アルミを使用したプラスチックケース(直径49.5mm、厚さ14.1mm)。20気圧防水。生産終了。
また、青い文字盤を備えたプロスペックスを着用しているプライベートシーンが頻繁にSNSへ投稿されている。ロバート秋山が装着するこのモデルは、1970年代に発売されたRef.6306を復刻した“タートル”と呼ばれるダイバーズウォッチに倣ったケース形状をしたダイバーズウォッチだ。プロスペックスへの深い愛情が伝わってくる。
要所要所で多様なセイコー プロスペックスを選んでいる秋山竜次。実は相当なセイコー プロスペックス大好き芸人なのではないだろうか。さまざまなキャラクターに扮する秋山竜次にとって、それぞれのフィールドでプロが使うモデルは、“なりきる”ためにも必要不可欠な道具なのだろう。アース・フォトグラファーならアウトドア仕様の堅牢なモデル、オタクキャラならデジタル表示のギーク感あふれるモデル……キャラクター設定を細部まで練り上げる秋山竜次の芸人魂が、時計選びにも如実に表れている。
もはやそれぞれのキャラクターが実在するのではないかとすら感じさせる秋山竜次。その手首に巻かれたセイコー プロスペックスが、キャラクターの説得力をさらに高めているのは間違いない。プロ仕様の時計を身につけることで、なりきりの完成度がより一層増している姿は実に見事だ。これからも多彩なキャラクターとともに、どんなプロスペックス姿を見せてくれるのか注目していきたい。