ダイヤモンドセットの腕時計は、宝飾の華やかさと時計製作の精緻な技術が融合した特別な存在だ。稀少石の調達からカットやセッティングの妙、素材選びに至るまで、そこには熟練職人の手仕事と創意工夫が詰まっている。本稿では、各ブランドが生み出す多彩なダイヤモンドセットウォッチの魅力と、その輝きを支える技術を紹介する。
ダイヤモンドの輝き。宝飾と時計製作の融合
手巻き(Cal.JCAM32)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWGケース(直径50mm、厚さ25mm)。30m防水。世界限定18本。2億2880万円。(問)ジェイコブ 銀座 Tel.03-6281-4777
ダイヤモンドセットの時計は、ハイジュエリーの華やかさと時計製作の高度な技術を融合させた存在である。ここでは、稀少石の調達からインビジブルセッティングに至るまで、時計をダイヤモンドで装飾する際の技術と美的配慮について紹介する。

ダイヤモンドは本当に稀少か
一般的には「ダイヤモンドは非常に稀少だ」と考えられているが、実際には世界で採掘される量は多く、その中でジュエリーに使える高品質の原石は限られているものの、供給が極端に不足しているわけではない。ただし時計の場合、加工された宝石となったダイヤモンドの価値は、原石そのものの価格を大きく上回る。これは、厳選や加工にかかる手間、精緻なセッティング技術、ブランドの付加価値などが加わるためである。
ダイヤモンドが生まれるまで
ダイヤモンドは地殻深く、約145〜640kmの深さで、約9000万〜30億年前に形成された。極端な高温と高圧の環境下で炭素原子が結合し、地球上で最も硬い天然物質となる。その後、火山活動によって地表近くまで運ばれるが、多くはその過程で失われる。生き残った石はマグマの冷却により母岩に閉じ込められ、キンバーライト・パイプと呼ばれる鉱床を形成する。
かつてはインドが主要産地だったが、のちに南アフリカ、アンゴラ、ボツワナなどが台頭した。地域によって品質や産出量は大きく異なり、ジュエリー品質の1カラットを得るためには平均200〜250トンの鉱石を処理しなければならない。
原石から輝きへ。5つの「C」
原石のダイヤモンドは、曇ったガラス片のように光を秘めたまま眠っている。それが研磨やカットを受けることで、初めて眩い煌めきと魅力を放つようになる。こうした美しさを測る基準が、時計やジュエリーの世界で語られる5つの「C」だ。
まずはカラット(Carat)。重量を表す単位で、1カラットは0.20g。語源は、種子の重さが一定なイナゴマメの木(carob)に由来する。時計の場合、石の大きさよりも数が重視され、小粒のダイヤをびっしりと敷き詰めるパヴェセッティングが好まれる。
次にカット(Cut)。これは石の形状を意味する。光の反射を最大限に引き出すブリリアントカットが定番だが、バゲットカットの控えめな輝きも人気だ。こちらは削る部分が少ないため、理論上カラット数が多くなる傾向がある。
クラリティ(Clarity)とカラー(Color)は、透明度と色を示す。ほとんどの石には内包物があるが、小粒では肉眼で見えることはほとんどない。色味も揃っていれば違いは分かりにくく、白色系の金属にセットすれば、より無色に近く見える。高級ブランドではVVS2以上のクラリティと、ほぼ無色のカラーが選ばれることが多い。
最後はサーティフィケーション(Certification)。大粒では鑑定機関による評価や刻印が施されるが、小粒では行われない。ただし例外なく、キンバリープロセスに準拠し、コンフリクトダイヤモンドでないことが求められる。
セッティングの技術

自動巻き(cal.UN-172)。25石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGケース(直径45mm、厚さ13mm)。50m防水。価格要問い合わせ。(問)ユリス・ナルダン/ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791
石をそろえた後は、熟練職人によるセット作業が必要だ。ブリリアントカットでは穴を開け、周囲を爪状に整えて固定する。場合によっては、原石そのものよりも、セット作業の方が高価になることもある。
ユリス・ナルダン「ブラスト トゥールビヨン スパークリング」では、ひび割れた氷のような外観を持つ。バゲットや特殊形状の石を組み合わせ、金属を見せない「インビジブルセッティング」で固定している。
ダイヤモンドを主役に
黄色いダイヤモンドの使用量があまりにも多く、その価格が高騰してしまったとも。手巻き(Cal.JCAM39)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KYGケース(縦52.2×横43.5mm、厚さ12mm)。30m防水。ユニークピース。35億2000万円。
多くのダイヤモンドセット時計は無装飾モデルの派生だが、ジェイコブの「ビリオネア」コレクションのように、ダイヤモンドを主役とする専用設計もある。ケースからブレスレットまで一体化し、大粒かつ均一な色味の石を使用。黄色ダイヤのモデルも存在する。
