永遠に語り継がれるタイムピース #01 A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1」

1994年の発表以来、時計業界におけるアイコンのひとつとして君臨する「ランゲ1」。時計業界では見られなかったアシンメトリーを打ち出したにもかかわらず、このモデルは今や永遠のクラシックとして認識されるようになった。たちまち成功を収めた理由は、実は原則に忠実なデザインと、傑出したムーブメントにあった。

A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1」

2015年にリリースされた第2世代のランゲ1。見た目こそ1994年の初作にほぼ同じだが、中身が大幅な改良を受けた結果、実用時計としても第一級の性能を誇る。瞬時に切り替わる日付表示も実用性が高い。手巻き(Cal.L121.1)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径38.5mm、厚さ9.8mm)。30m防水。
奥山栄一:写真
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]


卓越した開発力によって次代へと続く、不朽のアシンメトリックデザイン

 世間にある傑作の多くは結果としてそうなったものばかりだ。即興から誕生したパテック フィリップの「カラトラバ」を筆頭に、デザインの面白さでリバイバルを果たしたジャガー・ルクルトの「レベルソ」や、戦車の形に触発されて思いがけずに生まれたカルティエの「タンク」などーー。しかし、企画の段階から傑作となることを目指し、果たしてそうなった時計もある。その好例が、A. ランゲ&ゾーネの「ランゲ1」である。

 1845年に創業されたドイツの名門A. ランゲ&ゾーネは、第2次世界大戦後に国有化され、その歴史を終えた。しかし、ドイツの再統一後となる1994年に復活し、4つの新作をリリースした。そのひとつが、アシンメトリーなデザインを持つ「ランゲ1」である。かつてオフセットしたレイアウトを持つ時計は存在したが、非対称のレイアウトがアイコンとなったのは、このモデルしかない。

A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1」

Cal.L121.1の心臓部であるテンプ。時計業界の常識と異なり、リュウズの隣にテンプが配置されている。理由は、理論的に優れたレイアウトを実現するため。歯車の取り回しに無理がなくなった結果、ムーブメントの抵抗は大きく減った。

 ランゲ1がいきなり傑作となったのは、徹底してデザインを突き詰めたためだった。文字盤上のすべての表示は重なることがなく、しかもそれらは丸と四角、三角形と黄金比といった基本要素のみで構成されていた。つまり、風変わりな非対称の文字盤を持つにもかかわらず、デザインの根本はオーソドックスなのである。個性的でありながら正統派なランゲ1が、他社がうらやむほどの成功を収めたのは当然だろう。

 加えてこのモデルは、搭載するムーブメントも傑出していた。搭載するのはジャガー・ルクルトの手巻きを全面刷新したキャリバーL901.1。約72時間という実用的なパワーリザーブと高い精度、そして入念な仕上げも新しいランゲ1に名声をもたらした。

A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1」

目を引くのは、ムーブメントを覆う巨大な受けだ。ジャーマンシルバー製の受けはムーブメントに剛性を持たせるだけでなく、真鍮製にはない仕上がりを持つ。

 そんなランゲ1がモデルチェンジされたのは、2015年のこと。しかし、A. ランゲ&ゾーネは、このアイコニックなモデルの改良には慎重だった。結果、同社はそのデザインをほとんど変えず、中身のみに手を加えたのである。強いて新旧の見た目の違いを挙げるなら、ベゼルとラグ(ベルトを留める4本の脚)が少し細くなった程度。新旧モデルを並べて意地悪く比較しないと、誰も気づかないのではないか? 理由を開発責任者のアントニー・デ・ハスに尋ねたところ、「傑作モデルのデザインは変えたくなかったが、今後20年変わらずにいるために少し手を加えた」と説明してくれた。

 しかし、時計を裏返してムーブメントを見ると、違いは明白だ。見た目こそ旧作に似ているが、時計の心臓部にあたるテンプが大きくなった。大きなコマが、ショックを与えても倒れにくいのと同じく、テンプが大きくなると時計の動きは安定し、精度は改善される。以前のランゲ1は、精度こそ優秀だったが、デビュー当時でさえ、テンプは明らかに小さかった。対して、A. ランゲ&ゾーネの開発チームは「大きな心臓」を与えようと試み、果たして成功したのである。また時間の遅れ進みを調整する機構には、緩急針のないフリースプラングテンプが採用された。これにより強いショックを受けたり、ゼンマイがほどける直前になったりしても、時間が狂いにくくなったのである。結果として、ユニークなアイコンであるランゲ1は、今や最も高性能な機械式時計のひとつとなったわけだ。

A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1」

A.ランゲ&ゾーネのアイコンである巨大なアウトサイズデイト(大型日付表示)。午前零時前後になると瞬時に切り替わる。

 仕立ての良さは言うまでもない。地板と受けにジャーマンシルバーを使ったムーブメントは、ルーペでの鑑賞に耐えられるほど入念に仕上げられており、リュウズを回した際の感触も、いかにも高級品という滑らかさを持っている。

 正直、新旧のランゲ1を並べても、違いを見分けられる人は少ないだろう。しかし、その裏側を見ると、中身は別物となったことが見て取れる。キープコンセプトでプロダクトを熟成させるA. ランゲ&ゾーネ。その在り方は、アイコンであるランゲ1を、さらなるアイコンへと高め、育て上げているのである。

A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1」

ランゲ1
アシンメトリーというかつてないデザイン要素を、クラシカルにまとめ上げた傑作中の傑作。誕生から約30年を経たモデルだが、デザインは今もって革新的だ。2015年発表の現行モデルは、旧作に比べてケースが0.2mm 薄くなったほか、ラグの造形を見直すことで、装着感も改善された。18KPGケース(右)のほか、18KWGケース(左)もラインナップされている。価格はいずれも649万円(税込み)。

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Contact info:A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845


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「一目でランゲ1だと分かること。それがランゲ1たる理由」。A.ランゲ&ゾーネのCEOをインタビュー

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