1970年に25本が試作された幻のモデルをベースとするゼニスの最新作「クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー アヴェンチュリン」。時計の原点であるラウンドケースに自動巻きクロノグラフの名機「エル・プリメロ」の最新バージョンを搭載した本作は、半世紀もの歳月をかけて生み出された正統な進化形である。
Photographs by Eiichi Okuyama
名畑政治(時計ライター):文
Text by Masaharu Nabata
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
伝説的クロノグラフウォッチの系譜に見る次の時代に紡がれるべき技術
1969年に発表された統合型の自動巻きクロノグラフムーブメント、エル・プリメロは、3万6000振動/時のハイビートで作動する高精度な脱進機を装備するだけでなく、開発の当初から月・曜日・日付というトリプルカレンダー表示機能と、月の満ち欠けを示すムーンフェイズインジケーター機能さえもが組み込まれていたという。
これまで、60年代末における自動巻きクロノグラフ開発競争においては、とかくその発表と発売のタイミングが話題となっていたが、ゼニスのエル・プリメロでは、開発の当初から未来を見越した先進的な設計思想が導入されていたというわけだ。これはほとんど知られていないが、無視できない事実である。

この先進的な設計思想の下、70年に25本だけ試作されたのが、ベーシックなラウンドケースに、エル・プリメロにトリプルカレンダーとムーンフェイズ表示を搭載したプロトタイプであった。
しかし、このモデルは製品化されることなく、その数年後、エル・プリメロのトリプルカレンダーモデルは、「スペースエイジ」と呼ばれた、当時のニーズに即したマッシブで角張ったケースのモデルとして発売されたのだった。
それから半世紀以上を経た今、傑作自動巻きクロノグラフムーブメントであるエル・プリメロを搭載したラウンドケースのトリプルカレンダー・ムーンフェイズのモデルが鮮やかな復活を遂げた。それはまさに、69年に発表された「A386」の系譜に連なる名機エル・プリメロの進化バージョンと呼べるだろう。

しかも、この新しいトリプルカレンダー・ムーンフェイズモデルには日本市場だけの限定モデルとして、ダイアルに美しい煌めきを湛えたアヴェンチュリンモデルと、グリーンのストライプ模様がダイアルを鮮やかに彩るマラカイトモデルが発表されたのである。
この日本限定モデルに採用された、ヴィンテージ感満載のコンパクトな38mm径のステンレススティールケースは、A386の設計図とプロポーションに基づいてデザインされたもの。このケースはベゼルを廃し、ケースに直接、クラシカルなドーム型のサファイアクリスタルをはめ込むことで、スッキリとした外観とノスタルジックな雰囲気を見事に融合させることに成功している。
搭載されるムーブメントは言うまでもなく、伝説的なハイビートの自動巻きクロノグラフムーブメントの最新バージョンであるエル・プリメロ 3610。10分の1秒計測が可能な高精度なクロノグラフ機構に加え、月と曜日、日付というトリプルカレンダーとムーンフェイズインジケーターが組み込まれたコンプリケーション仕様である。

グリーンのストライプが美しいマラカイトのダイアルを、18Kイエローゴールドのラグジュアリーなケースに収めた日本限定モデル。ダイアルに合わせてストラップにもグリーンのコードバンをマッチングさせている。自動巻き(Cal. エル・プリメロ 3610)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KYGケース(直径38mm、厚さ14mm)。5気圧防水。日本限定55本。517万円(税込み)。
しかも、このような複雑な表示機構を備えながらも、ダイアルのエレガントな表情と表示の読み取りやすさは特筆すべきものがある。月の表示窓は3時位置の60秒カウンターの上にあり、曜日の表示窓は9時位置にレイアウトされたスモールセコンドの上に配されている。
そして、日付表示窓はゼニスの伝統に則り、4時と5時のインデックスの間にさり気なく置かれ、6時位置のインダイアルでは60分積算計とムーンフェイズ表示が同軸に設置されている。実に合理的かつ無駄がなく、視認性に優れた表示レイアウトではないか。
搭載されるエル・プリメロ 3610は、このような複雑機構を搭載しながらも効率的なトランスミッション機構の採用によって約60時間という長いパワーリザーブを実現。ケースバックはシースルー仕様になっており、ハイエンドなクロノグラフに必須と言われるコラムホイールに施されたブルーの仕上げや、ゼニスのシンボルである星が切り抜かれた自動巻きローターなど、歴史に刻まれるべき傑作クロノグラフムーブメントの、精緻にして素晴らしい仕上げを堪能できる。まさに伝説を継承し、発展させた新たなる傑作である。

ステンレススティール製のコンパクトなラウンドケースに、夜空を思わせるアヴェンチュリンのダイアルをマッチさせた日本限定モデル。インダイアルをブラックに設定し、華やかな中にも引き締まった精悍さを宿す。自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3610)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径38mm、厚さ14mm)。5気圧防水。日本限定160本。254万1000円(税込み)。
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