カルティエウォッチの原点にして、実用腕時計の先駆けである「サントス」ウォッチ。ここから進化・発展を遂げ、今やメゾンのアイコニックピースのひとつに君臨する「サントス ドゥ カルティエ」に、初のフルチタンモデルが登場した。超軽量にして強靭な素材は、ビス留めをアクセントとするスクエアフォルムと完璧に調和。空への冒険のために生まれた歴史も改めて想起させる。

ラージサイズモデルに、コレクション初となるチタン外装のモデルが登場。使用するチタンは、スティールより43%軽く、硬度は約1.5倍。日常的にサントスを着用したい人にとっては頼もしい仕様だ。チタン製ブレスレットのほか、ヌバックアリゲーターのセカンドストラップが付属しており、「クイックスイッチ」交換可能システムによりストラップを容易に交換できるのも魅力。自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。Tiケース(縦47.5×横39.8mm、厚さ9.38mm)。10気圧防水。予価166万3200円(税込み)。2025年11月発売予定。
Edited & Text by Iwao Yoshida
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
メゾンのアイコン「サントス ドゥ カルティエ」にフルチタンモデルが登場
飛行機を操縦中に時刻を簡単に確認できる時計が欲しい……。友人であるブラジル人の飛行家、アルベルト・サントス= デュモンのそんな依頼に応え、ルイ・カルティエが、エドモンド・ジャガーと組んで1904年に製作した「サントス」ウォッチ。カルティエ最初の本格腕時計にして、すべての実用腕時計の祖とも言えるこのモデルは、フォルムにおいても時代を先取りしていたことで知られる。懐中時計の流れから考えれば、ラウンドケースで仕立てるのが自然なのに、あえて直線基調のスクエアフォルムに。直線的で装飾的なアールデコ風デザインがもてはやされていた20世紀初頭、人々の目にはとびきりモダンで前衛的に映ったことだろう。

ちなみに、ルイがデザインした初期のカルティエの腕時計は、サントス以降も、戦車からインスパイアされた「タンク」、樽型の「トノー」、亀の甲羅がモチーフの「トーチュ」と、非ラウンドケースばかりだ。ルイの後のデザインに目を向けても、「パンテール」「クラッシュ」「パシャ」「バロン ブルー」と、既存の腕時計から逸脱した斬新なフォルムを主体にリリースしていることが分かる。こうした〝フォルムを生むウォッチメゾン〞という方向性は、おそらく最初のサントスで決定付けられたものであろう。
そんなカルティエの〝元祖フォルムウォッチ〞を現代的に再解釈した「サントスドゥ カルティエ」から、外装素材にチタンを採用した新作が登場した。同コレクションは78年にメタルブレスレットを採用したモデルが登場して以来、ステンレススティール、ステンレススティールと貴金属のコンビ、貴金属の無垢のみの展開で、外装全体に軽量かつ強靭なチタンを採用するのは今回が初。しかしまるで昔から存在していたかのように、チタンのマットで深みある色合いが、完成されたデザインとマッチしている。とりわけベゼルやブレスレットのビス留めとの相性が良いと感じる人は多いはずだ。

なお、サントスのベゼルのビス留めは、当時は割れやすかった風防ガラスの交換を容易にするための工夫だが、ルイはそれを巧みに意匠に昇華した。機能とデザインの両立という、やがて到来するバウハウス的モダニズムの潮流をも先取りしていたわけだ。後のラグジュアリースポーツウォッチには、同様にベゼルにビス留めデザインを採用するモデルが多いが、源流は間違いなくサントスだ。
新作は、チタン独特の硬質な風合いによってビス留めの機能美が強調され、どこか航空機の外装のようなイメージもまとう。現代的な素材を得たことで、かえって空の冒険のために生まれたシリーズの歴史を想起させる仕様となったのが面白い。サントス誕生時のエピソードにロマンを感じる人には、最高の1本だ。

オールステンレススティール製のラージモデルに追加された待望のブラックダイアル仕様。針とインデックス、レイルウェイミニッツトラックにはスーパールミノバが施され、暗所での視認性も良好だ。文字盤はサテンとサンレイ仕上げを半々に取り入れ、奥行き豊か。こちらもヌバックアリゲーターのセカンドストラップが付属。自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(縦47.5×横39.8mm、厚さ9.38mm)。10気圧防水。予価137万2800円(税込み)。
またこのチタンモデルのリリースと同じタイミングで、ステンレススティールのブレスレットモデルに、黒文字盤が追加された。白い針とインデックス、レイルウェイミニッツトラックには蛍光グリーンのスーパールミノバが施され、よりスポーティーな雰囲気が強まっている。今までのラインナップでは、意外なことにオールスティールモデルに黒文字盤の設定はない。ぐっと引き締まった印象となっており、こちらもサントスの秘めるモダンさやクールさに惹かれる層から支持を集めそうだ。
2モデルとも、メゾンのアイコンウォッチの時代を超越するフォルムを味わうには絶好の仕上がり。ぜひ店頭で実機をチェックしていただきたい。