永遠に語り継がれるタイムピース #05 カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」

1904年に発表され、今や時計史に燦然と輝くアイコンとしてその姿を継承し続ける「サントス」。往時の飛行家の名を冠したその腕時計はまさに、カルティエが掲げる先駆的精神の象徴。その進化の過程においてサントスはついに、航空機にも用いられる外装素材を手に入れた。新たなる時代を飛翔し、さらなる高みに到達するために。

カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」

これまでの「サントス ドゥ カルティエ」は、ベゼルとブレスレットに異なる仕上げが施されていたが、本作ではベゼルからブレスレットまでをマットな質感に統一し、シームレスなルックスを実現。リュウズには、従来、ADLC 加工ケースのみに用いられてきたブラックスピネルをセットし、重厚感あるケースやブレスレットと深みのある調和を見せる。
奥山栄一:写真
Photographs by Eiichi Okuyama
SJX:文
Text by SJX
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]


外装素材の拡充でパイオニア精神を押し進める、世界有数の異端的なフォームウォッチ

「サントス」はカルティエの時計製造の力を体現している。時代を超えて存続するクラシックなデザインは、何十年にもわたって繰り返し巧みに再解釈されてきた。そして最新のチタン製モデルにおいても、その系譜は健在である。

 オリジナルのサントスは、1904年に誕生した最も古い腕時計デザインのひとつ。誕生から1世紀以上を経ているが、それでもサントスはベストセラーであり続けている。それは驚くべきことに、サントスが〝フォームウォッチ〞である点に由来する。つまり、形状が従来の丸型ではなく、正方形という異端のデザインであったにもかかわらず、成功を収めたのだ。長期にわたり成功を収めたフォームウォッチは、ひと握りしか存在しない。その代表格がサントスである。

カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」

外装に用いられているのは、「サントス ドゥ カルティエ」では初となるグレード5 ELI チタン。表面にマイクロビーズブラスト仕上げを施すことにより、マットな質感で素材特有の深みのある表情を見せている。

 そしてもうひとつの鍵となるのが長寿命性。サントスは100年以上にわたりデザインを刷新し、再解釈することで慎重に育まれる、自己強化的なサイクルを通じて存続し続けることを証明してきた。

 腕に着ける時計という概念そのものが、部分的にはサントスによって後押しされたとも言える。1904年、カルティエを世界的なラグジュアリーネームへと押し上げたルイ・カルティエが、このデザインを考案した。ブラジル人の飛行家アルベルト・サントス=デュモンという、ルイの友人のためにデザインされたのである。

カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」

ローマ数字のインデックスに、センターをスクエアに走るレイルウェイミニッツトラックなど、ダイアルの意匠は1904年のオリジナルから踏襲されている。

 当時、紳士が身に着ける正統な時計は懐中時計で、腕時計は女性用のアクセサリーと見なされていた。しかし、サントス=デュモンは飛行の際に両手を自由に保つ必要があったため、腕時計を求めた。この要望がルイ・カルティエにインスピレーションを与え、最初の「サントス デュモン」腕時計が誕生。そして、当時すでに著名人であったサントス=デュモンが腕時計を着用したことは、懐中時計から腕時計への移行を容易にしたとされる。

 形はシンプルでありながら、オリジナルのデザインは瞬時に独自性を放った。それはルイ・カルティエの鋭い美的感覚を反映していた。ケースはスクエアに近いシンプルな形で、一体型のラグを備え、文字盤はカルティエの典型であるローマ数字インデックス、レイルウェイ式分目盛り、ブレゲ針を配していた。しかし、ビスが見えるリベットで固定されたスクエアベゼルが、独創性を与えていたのだ。

 サントスの大きな節目は、その100周年となった2004年。この年に発表された「サントス 100」はオーバーサイズのスポーティーなバージョンであり、大型のスポーツウォッチが流行していた当時の気分に合致していた。ある意味、チタン製の「サントス ドゥ カルティエ」は、その最進化形と言える。チタン製モデルもやや大きめでスポーティーだが、研ぎ澄まされ、洗練され、スペックが向上している。現代の腕時計製造基準にふさわしいモデルなのだ。

カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」

Archives Cartier © Cartier
ブラジル出身の起業家であり飛行家のアルベルト・サントス=デュモン。飛行船を操縦する際に着用できる腕時計が欲しいという要望が、1904年の「サントス」誕生へと結びついた。

 しかも、現代の航空分野で広く使用されるチタンの特性は、航空用時計として構想されたオリジナルのサントスとも共鳴する。そして腕時計そのものも完全に新しくありながら、見た目はサントスの歴史的進化を映し出している。

 カルティエ ウォッチとして過去に先例はあるが、サントス ドゥ カルティエでは初めてチタンが採用された。そして、チタン製ブレスレットを備えた初のサントスでもある。マットなブラスト仕上げのケースとブレスレットは、ミリタリー風とも言える控えめな美学の印象を与えるが、おなじみの洗練された要素は保持。ケースとブレスレットに配されたビスの頭はポリッシュで仕上げられ、ケースとブレスレットの長辺に沿ったファセットも磨き上げられている。そのため、デザインに優雅さを添えているのだ。

 これは、おそらくサントスの起源を改めて示すものだろう。なぜなら、アルベルト・サントス=デュモンは実用的な時間計測器を必要とした先駆的な飛行家であったが、常に糊の効いたハイカラーシャツとパナマ帽を身に着ける洒落者でもあったのだから。

カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」

Antoine Pividori © Cartier
サントス ドゥ カルティエ
コレクションのデザインコードは踏襲しながらも、ケースとブレスレットには、硬質かつ軽量で、一般的なグレード5 チタンよりも不純物が少ないグレード5 ELI チタンを採用。チタン製ブレスレットと付属のヌバック アリゲーターストラップには、それぞれ「クイックスイッチ」システムを備えており、交換も容易に行える。自動巻き(Cal.1847MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。Tiケース(縦47.5×横39.8mm、厚さ9.38mm)。10気圧防水。予価174万2400円(税込み)。2025年11月発売予定。



▼詳細情報はこちらから▼
https://www.cartier.jp/ja/商品カテゴリー/時計/全ての時計/サントス-ドゥ-カルティエ-コレクション.html



Contact info:カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00


永遠に語り継がれるタイムピース #02 オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」

FEATURES

永遠に語り継がれるタイムピース #03 ベル&ロス「BR-X3」

FEATURES

永遠に語り継がれるタイムピース #04 ブランパン「フィフティ ファゾムス」

FEATURES