ベル&ロス「BR-X3 ブラック チタニウム」の実機レビューを行う。本作は、2025年秋に発表された新コレクションに属するモデルだ。チタン製ケースや多層構造のダイアル、ケニッシ製ムーブメントの搭載を特徴とする。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2025年10月10日公開記事]
ベル&ロスの2025年最新作をレビュー!
多くのブランドから新作が発表されている秋、ベル&ロスからは新たなコレクション「BR-X3」が披露された。BR-X3は、ブランドを象徴するスクエア型ケースを採用した「BR-03」をベースに、さらなる進化を遂げたコレクションである。
基本的なデザインを踏襲しつつ、多層構造のダイアルやケニッシ製のマニュファクチュールムーブメントを採用することで、デザインとスペックの両面で、よりモダンな高級時計として仕上げられている。バリエーションは、現時点で2種類。サンドブラスト仕上げのグレード2チタンケースを採用したツール感溢れるモデルと、爽やかなブルーダイアルとステンレススティールケースを組み合わせたモデルだ。
今回、この貴重な新作の実機を借りる機会に恵まれたため、その外装から着用感まで、インプレッションとして書き記してみたい。

スクエア型のチタン製ケースに計器のような多層構造ダイアルを組み合わせた「BR-X5」。ケニッシ製のマニュファクチュールムーブメントを搭載している。自動巻き(BR-CAL.323)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Tiケース(直径41mm、厚さ13.3mm)。100m防水。124万3000円(税込み)。
計器と呼ぶにふさわしい存在感
本作の第一印象として筆者が感じたのは、“圧倒的なメカメカしさ”であった。コクピットクロックに着想を得たスクエア型ケースはもちろん、多層構造による複雑な構成のダイアルには、映画で映し出される宇宙船の内部のような、自然と高揚感を誘うような理屈を超えた魅力がある。
ダイアルは、ブラックをベースとして、その上にフレーム状のグレーのパーツを取り付け、さらにすり鉢状のフランジによって構成されている。グレーのフレームがチタンケースとの連続性を感じさせ、ブラックのフランジがダイアル全体をグッと引き締めている。3時位置にあるのは日付表示。前後1日を含めた3日分が一度に表示され、三角形のマーカーで指し示される。恐らく航空機に搭載される高度計のデザインを取り入れたものだろう。
対照的に9時位置に配されているのが、パワーリザーブインジケーターだ。こちらは燃料計をイメージしているのだろう。6時側はE(Empty)、12時側はF(Full)の文字が配され、1から3まで段階的にブロック分けされている。本作のパワーリザーブは約70時間であるため、ひとつの目盛りがおよそ1日分に相当するはずだ。
立体的なインデックスも特徴だ。6時位置と12時位置のふたつのアラビア数字インデックスは、まるでブラックのダイアルに浮かんでいるかのような高さを持ち、バーインデックスはフランジに半ば埋め込まれたような見た目となっている。それぞれに蓄光塗料が塗布され、暗所でも十分に視認可能だ。時分針は両サイドに斜めの角度をつけることで陰影を生み出し、サンドブラスト仕上げと相まって強い光源下での視認性を確保する。すり鉢状のフランジのおかげで、分針や秒針と目盛りの距離が短く、正確に時刻を読み取ることが可能だ。
サンドイッチ構造のスクエアケース
他のブランドではなかなかお目にかかれないユニークな構造のケースも、本作の魅力を形作る要素のひとつだ。サンドブラスト仕上げのグレーのベゼル、ケースの上下がグレード2チタンであることは分かりやすいが、その間に挟まるミドルケースにはブラックDLC加工のチタン、さらにその四隅とベゼルの下部には、ラバー製のパーツを取り付けている。これらのパーツは四隅のネジによって固定され、高い加工精度と優れた設計によって100mの防水性が確保されている。防水性を得にくいとされるスクエア型ケース、かつ複数の部品を組み合わせた構造という不利な条件が重なりながらも、本作は悪天候時でも安心して着用することができる防水性能を有しているのだ。
3時位置にはリュウズガードが配され、不意な衝撃によるリュウズの破損を防ぐ役割を担う。ねじ込み式のリュウズの外周にはグリップ感の高い溝が刻まれ、かつ直径自体も大きいため、リュウズガードの存在によって操作性が損ねられてしまうことはない。
ラグは、短く下方に突き出たデザイン。見た目にはほぼラバーストラップと一体化しており、ラグそのものの存在を感じさせない。そのストラップにはパンチング加工が施され、きつめのテーパーがかけられている。スポーティーなデザインはダイアルとケースにもマッチしている。幅の広いツク棒を備えたフィッシュテール型のバックルが装着されており、ケースに負けない存在感を放っている。
ベル&ロスのために開発されたケニッシ製ムーブメント
ケースバックはシースルー仕様のため、内部に収められたムーブメントを鑑賞することが可能だ。本作が搭載しているのは、2022年に発表された「BR-X5」と同じケニッシとの共同開発によるBR-CAL.323だ。優れた性能を誇るケニッシのムーブメントは、出資元であるチューダーやシャネルをはじめ、ブライトリング、タグ・ホイヤー、フォルティス、ノルケインなど、名だたる実力派ブランドに採用されている。
素っ気ないようにも見える薄いヘアライン仕上げの受けや厚みのないローターなど、いわゆる高級時計用ムーブメントとしての見応えは決して満足感の高いものではない。しかし全体をやや暗めのグレーで仕上げることで、そのインダストリアルな見た目が強調され、計器感のあるケースに見事に調和している。仮にツール感の強い本作に搭載されていたムーブメントが隅々まで仕上げられていたら、チグハグな印象を受けていただろう。
何よりも特筆すべきは、見た目よりもスペックだ。約70時間のパワーリザーブとCOSC公認クロノメーターを取得した高精度を備え、フリースプラングテンプと両持ち式のテンプ受けは理論上、耐衝撃性にも優れている。ベル&ロスは、このムーブメントを搭載したモデルに5年の保証期間を設けており、その品質への自信も感じられる。
着けるだけでテンションが上がる!
筆者はチタン製の時計、その中でもとりわけスポーツウォッチに苦手意識があった。見た目は重厚であるのに、手に取った時の拍子抜けするような軽さとのギャップが脳に混乱を招き、どうにも安っぽく感じてしまうのだ。どの程度共感いただけるかは分からないが、家電量販店の売り場でふと手に取ったカメラや携帯電話がモックアップであったかのような、そんな感覚だ。
とはいえ、チタンは無視できない魅力にあふれた素材である。軽さは着用感の良さにつながり、長時間腕にしていても疲れ知らず。金属アレルギーを引き起こしにくく、ステンレススティールよりもさらに錆びにくい。純チタンであるグレード2では、これらの性質がより強く表れ、合金であるグレード5では、ポリッシュやヘアラインなどの仕上げを与えることが可能であり、見た目にも明るい色調が高級感を感じさせる。
では本作はと言えば、個人的に良い意味で予想を裏切ってくれた。なぜか程よい重量感と塊感があり、乗せた手のひらに確かな手応えを残してくれるのだ。スクエアケースはラウンドケースに比べて体積が大きくなるため、その分がこの心地よさにつながっているのだろうか。しかしながら、実際に着用すると全く手首に負担を感じさせない。軽量さに加え、しなやかなラバーストラップも着用感に貢献しているのだろう。実用性と満足感が見事に両立している。
そして何よりも、否が応でもテンションを上げてくれるような、機械好きの心をくすぐるディティールこそ最大の魅力だろう。不思議と本作は、ケースとダイアルの一体感が強く、存在感のあるスクエア型と相まって、一塊の計器のような感覚がある。おそらく、ミドルケースとダイアル中央に与えられたブラックや、ケースとダイアル内のフレーム、針に共通するサンドブラスト仕上げのグレーなど、ケースとダイアルで同じ色味を用いているからだろう。
個性際立つ現代の高級時計
現代において腕時計を着用することは、もはや趣味の領域となりつつあるのではないだろうか。至るところに時刻を確認する手段があふれる中、腕時計がないことで困るのは一部のシチュエーションに限られる。しかしだからこそ、腕時計を着用するという行為には、より積極的な意味があっても良いはずだ。時刻を確認するという道具を離れ、自分を鼓舞したり表現したり、そのような面が注目されつつあるように思う。
今回インプレッションしたBR-X3は、まさにそのニーズに合致したモデルであった。計器のようなデザインとベル&ロスを象徴するスクエア型ケースは、ブランドの歴史と哲学をこれでもかと反映させたものだ。流行り廃りに流されるのではなく、ブランドが作りたいものを作るという信念によってできあがったプロダクトは、そのブランドに惚れ込んだ人にとってはたまらない魅力を放つ。そしてそれを良いものだと自分で判断してチョイスすることが、腕時計による自己表現へとつながっていく。
本作は決して万人受けするモデルではないだろう。ダイアルは見やすく、ケースは軽く、ラバーストラップもしなやかな肌触りだ。実用面では文句の付け所のないほど優秀だが、デザインのクセは強い。昨今の高級時計には、分かりやすいトレンドの移り変わりがある。いわゆるラグジュアリースポーツウォッチや、特定のカラーダイアルなど、共通した要素を持つ時計が、複数のブランドから短期間でリリースされることも珍しくない。そんな中、「俺について来い」とでも言わんばかりのBR-X3が、とてもまぶしく感じるのだ。