片山次朗によって構築されたインダストリアルな意匠とユニークな機構で独自の世界を展開する大塚ローテック。同社初のマニュファクチュールムーブメントにして、複雑機構を備えた新作「9号」が発表された。
Text by CCFan (Watch Media Online)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
大塚ローテックの新作「9号」

レトロな電力メーターや真空管といったガラス(透明素材)で覆われた複雑な機械への憧憬を感じさせる角型ウォッチ。ブランド初の自社製ムーブメントを搭載するコンプリケーションウォッチだが、1年保証が付く。手巻き(Cal.SSGT)。30石+5ボールベアリング。1万8000振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(縦48×横30mm、厚さ13mm)。日常生活防水。1760万円(税込み)。
表示用の自社モジュールをベースムーブメントに組み合わせる手法を採る既存作とは異なり、ベース部分から大部分を自社で設計・生産した大塚ローテック「9号」がいよいよ発表された。
本作の見どころはなんといっても、搭載されるキャリバーSSGTだ。テンワを自製したトゥールビヨン、透明なサファイアクリスタルディスクによるジャンピングアワーおよびリワインディングミニッツ、そしてアワーストライキングやパワーリザーブなどの複雑機構(=ネタ)を四角い地板に載せていく様子が寿司下駄(SuShiGeTa)を想起させることから名付けられた。特に特徴的なのが中央最前面に配置されたリワインディングミニッツ。これはディスクを使ったレトログラードとも言うべき機構で、ミニッツ目盛りはディスク全周ではなく半周+αの範囲に記され、毎正時に中央のトルク蓄積ヒゲに蓄えられたエネルギーによって帰零する。この動きによってジャンピングアワーを1目盛り進め、アワーストライキングのハンマーを打ち鳴らすのだ。なお、ディスクが透明なことを活かし、アワーとミニッツ表示のベース部分に蓄光塗料を埋め込み、明所での読み取りやすさと暗所での視認性も確保した。

アワーストライキング用のゴングは今作のモチーフのひとつ、機械式電力メーター(誘導型電力量計)の電圧・電流コイルを思わせる複雑な形状を手曲げで製作した。機械的な意匠を強調すると共に、直線的な造形は回転運動の歯車やディスクとのコントラストを表現している。
パワーリザーブは棒状の指針が伸びるリニア方式が採られる。相対的にトゥールビヨンは奥側に隠されるような形になり、控えめなのも面白い。 今までの作品を想起させる「集大成」的存在の9号。ぜひ実機を見てほしい。




