ジンの名作「104」シリーズが、いよいよ“完成形”に到達したと言えるかもしれない。2025年に発表された「104 Classic 12」は、パイロットウォッチの実用性とクラシックなたたずまいを高次元で融合した意欲作だ。道具然としつつも、どこかエレガンスな風格を漂わせる腕時計である。ではその魅力はどこからくるのか? 『ウォッチタイム』ドイツ版編集長、ダニエラ・プッシュが解説する。

ジンのお家芸、ツールウォッチをエレガントに昇華
ジンの「104」という伝説的モデルが誕生してから、2025年は12年周年となる。その歴史のなかで、「ある進化」の方向性で完成された姿といえるのが、「104 Classic 12」ではないだろうか。
ダイバーズウォッチの要素を取り入れた、堅牢なパイロットウォッチとして始まったこの腕時計のシリーズは、今やドイツのエンジニアリングが表現できる極致のひとつ、と言っても良いのかもしれない。これは単なる道具ではないのだ。魂を備えた「インストゥルメント」である。日々の生活に寄り添いながらも、確固たる姿勢、そして存在感を放つ日常のための腕時計なのだ。

ステンレススティール製ブレスレットを備えたモデル以外にも、レザー製ベルトを備えたモデルもラインナップされている。自動巻き(Cal.SW261-1)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径41mm、厚さ11.9mm)。20気圧防水。57万2000円(税込み)。
2025年9月、この腕時計の発表を受けて、『ウォッチタイム』ドイツ版編集部はこのモデルに直接触れ、その魅力を徹底的に検証することにした。
古典を新たに捉える
ジン104 Classic 12は、フランクフルトに拠点を置くジンの今に至るまでのDNAを引き継いだ腕時計である。それは、機能性、技術的精度、そして妥協のない仕上げだ。
しかし本作は、それだけに留まらない。ジンの良質さを発揮する既知の方程式に、ひとつの「繊細な洗練」とも言うべき特徴が加えられた。このシリーズでは初めて「スモールセコンド」によるデザインが採用されたのだ。
スモールセコンドは6時位置というクラシックな印象を与える位置に配置され、そのカラーはシャモアカラー(薄く温かみのあるベージュ)である。細やかな筋目加工とその光沢のある面取りは静かな奥行きを生み出しているのだ。

文字盤の残りの部分は、徹底して控えめである。黒のガルバニック加工にサンレイ仕上げが施された文字盤本体。ロジウムでメッキされたアプライドインデックスと針。そして蓄光部分やアラビア数字にはジンがシャモアと呼ぶこのベージュが採用され、落ち着いた印象を与える。シックな文字盤でかがやくロジウムは、あらゆる光のニュアンスを映しだすのだ。
その結果生まれたのは、単なる冷たい計器ではない。性格と魅力を持った腕時計。言うなれば、テクニカルでありながら、どこか人間的な魅力を備えた腕時計だ。
機能が形を導く
このモデルがオリジナルの104と大きく異なる点は、一目見ればすぐにわかる。それは12時間表記の回転ベゼルだ。
従来のカウントダウン式目盛りの代わりに、今回はよりシンプルで左右対称な目盛りが採用されている。これにより、余計なマークを一切用いずに、直感的な第2時間帯の読み取りが可能になった。

この変更は視覚的に整然としているだけでなく、腕時計全体により洗練された印象を与えているのだ。
そして、このリングが初めてセラミックスで作られた点は見逃せないポイントだ。セラミックスは深みのある光沢を生み出し、同時に高い耐傷性を誇る素材だ。1時間ごとにカチリと心地よく噛み合うクリック感は、精密で、力強く、技術的な完成度の高さを感じさせる。今自分はジンを触っているとうれしくなる感覚だ。
技術と精神
文字盤の下でビートを刻むのは、Cal.SW 261-1。これは信頼性の高い自動巻きムーブメントであり、31石のルビー軸受を備え、秒針停止機能を搭載。2万8800振動/時で安定した駆動を行う。パワーリザーブは約38時間だ。
サファイアクリスタル製のシースルーバックを通してその姿を眺めることができるが、その装飾は控えめでありつつも適切な塩梅で、過剰な装飾で飾り立てることはない。腕時計はあくまでも道具であり、装飾品ではない。そう明確に主張している。それでもなお、驚くほどの美観を備えていることは否定できないだろう。

防水性能は20気圧に達し、負圧への耐性も備え、ケースはポリッシュ仕上げのステンレススティール製で、ねじ込み式を採用している。この104 Classic 12は、真の計器に求められるすべての要件を満たしているのだ。それでいて装着感は驚くほど軽快で、ストラップを除いた重量はわずか75g。直径41mmのケースは手首の上で望ましいバランスを保つ。
ツールと価値のはざまで
手首に載せた瞬間、104 Classic 12は驚くほど多面的な性格を見せる。スポーティーすぎることもなければ、フォーマルに寄り過ぎることもない。まさにこの絶妙なバランスこそが、その魅力の核心である。

ポリッシュ仕上げのケースは、光をエレガントに捉えるが、決して主張しすぎることはない。視認性の高い左右対称の文字盤レイアウトは、見る者の心を落ち着かせる。一方でセラミックベゼルは、ほんのひとさじのラグジュアリーな質感を、この腕時計全体に加えている。
要するにこの腕時計は、存在感を放ちながら、自己顕示欲を一切示さない。そこに漂うのは「静かな自信」そのものだ。
ケースのラグは柔らかく湾曲し、手首に自然に沿うように設計されている。ねじ込み式のリュウズは操作しやすく、バックルは確かな抵抗感とともに心地よく閉じることができ、ガタつきや違和感は一切ない。どこにも鋭利なエッジや不快な段差はなく、すべてが滑らかで精密に整えられている。
オフィスであれ、旅先であれ、週末の外出であれ、104 Classic 12は常に自然体で存在し、持ち主の手元になじむ。そしてふと文字盤を見つめた瞬間、その調和のとれたデザインに改めて魅了されるのだ。
手の届くドイツ時計製造の新たな基準

ジン 104 Classic 12とは、現代のアイコンが成熟しきった姿である。この腕時計は、機能を追求する腕時計が冷たく無機質である必要などないことを、揺るぎない説得力とともに示している。
ステンレススティール製のファインアジャスト付きブレスレット仕様が57万2000円(税込み)という価格は、高騰を続ける時計業界の中では驚くべき水準だ。精度、スタイル、高度な技術が注ぎ込まれた腕時計は、決して豊富な財力がなくとも手に入れられるのだ、という好例ではないだろうか?
この時計は、パイロットウォッチのボディに、ツールウォッチの精神を宿している。そして同時に、クラシカルなテイストでそれらをまとめ上げた。それらがすべて矛盾することなく、静かな自信とともに、だ。



