2025年に発表された新作モデルのうち、「気になる1本」「お勧めの1本」を、著名な時計ジャーナリストらが取り上げるという年末企画を、例年行っている。まったく著名ではないものの、言い出しっぺはやらなきゃあかんでしょということで、時計専門誌『クロノス日本版』およびwebChronos編集部の鶴岡智恵子が、今年気になる1本としてシチズン「エコ・ドライブ ワン」Ref.AQ5010-01Aを紹介する。

Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年12月28日公開記事]
文字盤の進化と深化の波は、ソーラーウォッチにも
時計業界にも“トレンド”があり、2025年は昨年に引き続き、ケースの小径化と文字盤表現の多彩さが目立った。本記事でテーマにしたいのが、この文字盤だ。かつてはそこまでバリエーションが多くなかったカラーには中間色やグラデーションが加わり、また、与えられる装飾も多岐に渡るようになった結果、今年の新作群は、各社の創意工夫にあふれた文字盤が百花繚乱であった。
この文字盤の進化は、ソーラーウォッチも例外ではない。ソーラーウォッチの多くは文字盤下にソーラーセルを置き、このソーラーセルが受光することで光エネルギーを電気エネルギーに換えて時計を駆動させている。一緒に搭載される二次電池はこの電気エネルギーを繰り返し充電・放電することができるため、ボタン電池などの一次電池で動いているクォーツウォッチと異なり、頻繁な電池交換が必要ない。一方で時計を動かすためのエネルギーを確保するため、ソーラーセルにはしっかりと光を当てて充電させなくてはならない。そのためソーラーウォッチの多くの文字盤には、ポリカーボネートなどといったプラスティックの透過素材が用いられてきた。ソーラーウォッチは便利な半面、この文字盤がどうしてもチープな印象となってしまうことがあり、高級感を与えることが難しいと言われるゆえんだ。
しかし近年、ソーラーウォッチを得意とする日本ブランドを中心に、アイデアと技術研鑽により、多彩な文字盤表現を実現したモデルが時計市場を賑わせている。中でも、個人的に頭ひとつ抜きん出ていると思っているのが、シチズンだ。そして今年も快作ぞろいであったのは、すでに発表されてモデルからご存じだろう。いずれも文字盤を含むクォリティやデザインは折り紙付き。選定に迷ったものの、最も驚かされた、「エコ・ドライブ ワン」Ref.AQ5010-01Aをピックアップした。

光発電エコ・ドライブ(Cal.8845)。フル充電時約7カ月駆動。SSケース(直径36.6mm、厚さ4.5mm)。日常生活用防水。特定店限定160本。36万3000円(税込み)。
新作発表会でハカセが「あっちにヤバイやつあるよ!」と……?
AQ5010-01Aを初めて見たのは、9月に行われたシチズンの秋冬新作発表会。クロノス編集部は一同で発表会に向かい、広い会場の中、めいめいが気になる新作モデルのブースでじっくり実機をタッチ&フィールしたり、撮影したりした。確か、筆者はザ・シチズンを見ていた時だったか(ザ・シチズンの新作も、もちろん良かった)。突然ハカセこと、編集長の広田雅将が、シチズンの某M女史とともに隣に来て、「あっちにヤバイやつあるよ!」と言ってくるので、時計オタクのこのふたりがヤバイというなら見に行かない理由はなく、早速向かうとそこで出合ったのが、AQ5010-01Aだった。

ひと目みて、私も思わず「え、やば! 白すぎません!?」と。文字盤がシルバーなどではなく、マットな白(オフホワイト)だったのだ。
前述の通り、ソーラーウォッチは文字盤を透けさせる必要がある。そのため高級感や独自性を出そうと塗装をしたり、透過性のない素材を使ったりすると、駆動に十分なエネルギーを得られない。しかしこのモデルは、まったく透けていることを感じさせず、白一色で染め上げられていたのだった。
もっとも、エコ・ドライブ ワンやアテッサを中心に、近年のシチズンのソーラーウォッチの文字盤は、透け感がまったくなく、真鍮製と見まごうようなものがほとんどだ。実際、今回取り上げる時計として、アテッサの「Platinum Shine Collection」または「DEAR Collection」と、大いに迷った。

光発電エコ・ドライブ(Cal.F950)。フル充電時約5年稼働(パワーセーブ時)。スーパーチタニウム™ケース(直径44.6mm、厚さ15.4mm)。10気圧防水。世界限定2200本。36万3000円(税込み)。

光発電エコ・ドライブ(Cal.H874)。フル充電時2.5年稼働(パワーセーブ作動時)。スーパーチタニウム™ケース(直径41.5mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。世界限定2200本。17万500円(税込み)。
しかし、ソーラーウォッチのシルバーや白文字盤は、光を分散させてしまったり、透け感が出やすかったりするため、黒や青に比べて高級感を与えにくいとうことを鑑みると、このエコ・ドライブ ワン AQ5010-01Aの非凡さが、より伝わるであろう。
なお、実際に文字盤は白に塗られているとのこと。スモールセコンドから採光しているのかと思いきや、文字盤外周の黒いリングの下にソーラーセルを配し、光を取り込んでいる。高効率な小型ソーラーセルを使って文字盤の表現の制約を克服するアプローチは他社も行っているが、本作のエコ・ドライブ ワンに搭載されているのは、わずか1mmほどのムーブメント。この、極めて制限された環境下で、フル充電時のパワーリザーブを約7カ月間確保しつつ、マットな白を表現した本作に触れ、「日本のソーラーウォッチの技術は、ここまで進化し、深化しているのか」と、舌を巻いた。

白×黒の配色に3針、そして直径36.6mm、厚さ4.5mmのケースと、クラシカルな要素にあふれているため、大人のための高級ドレスウォッチであることも高ポイント。
惜しむらくは特定店でのみ販売される限定モデルで、わずか160本しか生産されないということか。本作は12月に発売されたばかりなので、ぜひ売り切れてしまう前に、店頭で実機を見てみてほしい。きっと、シチズンのソーラーウォッチ技術の“今”に触れ、来年の展望も楽しみになるはずだ。



