今やフライングトゥールビヨンの第一人者として知られるロジェ・デュブイ。そんな同社の創業者が初めて手掛けたコンプリケーションが、左右にレトログラードを置いたカレンダー機構である。今でこそ当たり前となった機構だが、審美性と実用性を両立させるのは、当時極めて難しかった。2025年、原点回帰を目指す同社はこの機構を組み込んだモデルをリリースした。

Photographs by Masahiro Okamua (CROSSOVER)
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年3月号掲載記事]
復活のアイコン
レトログラードに託した創業者の想い
今や、華やかなパブリックイメージを打ち出すロジェ・デュブイ。しかし、その物作りは一貫して古典に根ざしている。そんな同社の象徴が、レトログラード機構だろう。ジュネーブの老舗で複雑時計を製作していた彼は、後に小さな時計工房を起こし、時計の修理を行うようになった。デュブイはそこでアジェノーの創業者となる盟友ジャン-マルク・ヴィダレッシュと知り合い、あるジュエラーが企画していた永久カレンダーモジュールの設計と製作を行うようになった。完成したのが、後にロジェ・デュブイとヴィダレッシュのお家芸となるバイレトログラード機構だった。
針が最後まで進むと直ちに帰零するレトログラードは、懐中時計の時代でさえ、設計と製造が難しいものだった。ショックを受けやすい腕時計ならなおさらである。対してデュブイは審美性と実用性を高度に両立させたレトログラードを完成させ、後続に道を拓いた。
そんな創業者を頂く同社が、原点回帰を目指す中でバイレトログラードに着目したのは当然だろう。しかもロジェ・デュブイは単にこの機構を復活させただけでなく、文字盤の一部をくり抜くことで、シンメトリーな造形をいっそう強調したのである。加えてベースに選ばれたのは、現行の基幹キャリバーではなく、同社初の自社製自動巻きだったキャリバーRD14の改良版であるキャリバーRD840。劇的な性能を誇るわけではないが、ジュネーブ様式を濃厚に残したこの自動巻きは、ジュネーブの時計師が興したブランドにはふさわしい。

過去へのオマージュは、造形からも見て取れる。デザインに選ばれたのは今のアイコンであるエクスカリバー。しかし18KPGケースとMOPを初めて組み合わせた過去に敬意を表して、文字盤の外周にはMOPがあしらわれた。また、装着感も往年の同社製ドレスウォッチ並みに軽快だ。

過去の要素を巧みに昇華してみせた「エクスカリバー モノバランシエ バイレトログラード カレンダー」。ロジェ・デュブイのオーナーはもちろん、離れてしまった人にも、改めて本作を見てほしいと思う。書き手の筆者からすると、これこそがロジェ・デュブイなのである。

ロジェ・デュブイのお家芸とも言えるバイレトログラード機構のカレンダーを、薄いエクスカリバーのケースに合わせた新作。ディテールには過去作へのオマージュがふんだんに盛り込まれている。自動巻き(Cal.RD840)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径40mm、厚さ11.25mm)。10気圧防水。964万7000円(税込み)。



