【クワイエットな時計概論】クワイエットラグジュアリー、市場はどう見ているのか?

2026.04.06

2022年の半ば以降、大きく下落する2次市場。加えて今年頭からは新品の売れ行きも減速傾向にある。そんな中にあって、おそらく唯一存在感を示すのは、クラシックではなく、クワイエットな時計だ。関係者のコメントや、市場の動向からそれをひもときたい。

【クワイエットな時計概論】シーンで見る「クワイエットラグジュアリー」とは?

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【クワイエットな時計概論】「クワイエットラグジュアリー」な時計とは?

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広田雅将(本誌):文
鈴木裕之:編集
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]


2次流通市場に見る「クワイエットラグジュアリーへの注目」

 2015年以降、時計業界はラグジュアリースポーツウォッチというジャンルに注力した。裾野を広げるには有効だったが、ブームが過熱しすぎたことも否めない。もちろん今後も「ラグスポ」は、時計業界のメインストリームであり続けるだろう。しかし一部消費者の“ラグスポ疲れ”は、時計市場に新しい流れを生み出しつつある。それがドレスウォッチへの回帰と、クワイエットラグジュアリーへの注目だ。

 フィリップス・オークションの時計部門で、ジュネーブと中東の責任者を務めるアレクサンドル・ゴドビは語る。「スポーツやレジャー向けの時計や大きなサイズの時計の人気が落ちているのを感じる。私個人はまだクラシックなドレスウォッチに魅力を感じないが、一方でデザイン性の高い小さな時計には魅せられている」。

 ゴドビの言葉に従うなら潮の流れが変わったのは18カ月前。ショパール共同社長のカール-フリードリッヒ・ショイフレや、パルミジャーニ・フルリエCEOのグイド・テレーニが指摘する時期と重なっているのは興味深い。明敏な人たちは、少なくともラグスポブームが落ち着きつつあると感じているわけだ。

 Chrono24の「クロノパルス」を見れば、著名な13ブランドの主要コレクションの価格推移が知れる。このデータに従うなら、2次流通市場の価格は、2019年の1月1日から22年の3月下旬にかけて、約1.83倍に高騰した。しかし以降は価格を落とし、2024年の9月末では、約1.38倍まで下落している。とりわけパテック フィリップとオーデマ ピゲの落ち幅が大きく、前者は約3.15倍まで膨れ上がった価格が約1.85倍に、後者は約3.4倍が1.92倍まで落ちた。加えて、いわゆるラグスポの価格はさらに落ち幅が大きい。今なお実勢価格は高いものの、いわゆるラグスポブームが落ち着きつつあることはデータからも明らかだ。

Chrono24の「クロノパルス」

Chrono24の「クロノパルス」は、多くの関係者がチェックする、いわば時計業界の株式チャートだ。カバーするのは主要な13ブランド。2022年にピークを迎えた価格がその後低減するのは、各社に共通する。しかしカルティエとジャガー・ルクルトだけは、一貫して価格が上がり続けている。今、クワイエットは熱いのだ。

 面白いのは、カルティエとジャガー・ルクルトの動向である。クロノパルスの中では相対的にクワイエットなこの2ブランドは、一貫して2次流通の価格が上がり続けている。2019年1月1日と今を比べると、カルティエの価格は約1.45倍、ジャガー・ルクルトは約1.29倍になった。上昇率こそ他ブランドには及ばないが、落ち込みがなく、一貫して上昇している点が他社との大きな違いだ。「ラグスポブームに乗り遅れた」と言えなくもないが、2022年以降急落する市場の影響をほぼ受けていないのは、紛れもない事実だ。

 こうした傾向はよりニッチでクワイエットなモデルでいっそう顕著になる。2024年9月のフィリップスジュネーブオークションに出品された70モデルのうち、予想落札価格を超えたのは31モデルのみ。全体的に低調な中、パルミジャーニ・フルリエ「トリック クロノグラフ」は、予想をはるかに超える1万9050スイスフランで落札された。2002年に発売された「レベルソ40周年記念モデル」も、落札価格は予想の2.5倍以上。かつてこういう“クワイエット”な時計に値段が付かなかったことを思えば、隔世の感がある。

パルミジャーニ・フルリエ「トリック クロノグラフ」

フィリップスが今年9月に開催したジュネーブオークションで、意外な時計が高値を付けた。それが2002年製造のパルミジャーニ・フルリエ「トリック クロノグラフ」だ。落札価格は予想の1.5倍以上となる1万9050スイスフラン。市場の逆風を考えれば驚くべき高価格である。

 正直ドレスウォッチや、クワイエットラグジュアリーへの大きな注目が、どこまで続くかは分からない。しかし、少なくとも、クワイエットな時計は、2次流通市場でも値段が付くと評価されるようになったのである。


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