現代社会においてなぜ耐磁性が必要なのか?高耐磁時計も紹介

FEATURE本誌記事
2019.12.10

ROLEX(ロレックス)

高い耐磁性能が評価される現行ミルガウス。その名の通り、1000ガウス(=8万A/m)という超耐磁性に特徴がある。だが、この時計の美点は、性能もさることながら、時計としてのパッケージングにもある。インナーケースを持つ超耐磁時計は、普通の時計に比べて大きく、厚くなりがちだ。しかし、ロレックスは、ミルガウスという超耐磁時計を、常識的な厚さと重さに留めることに成功した。

MILGAUSS(ミルガウス)

オイスター パーペチュアル ミルガウス

ロレックス オイスター パーペチュアル ミルガウス
強磁性合金の磁気シールドとムーブメントの主要部品(パラクロム・ヘアスプリングなど)で1000ガウス(8万A/m)までの高耐磁性を実現。腕時計としてのパッケージングも秀逸である。自動巻き(Cal.3131)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径40mm)。100m防水。1000ガウスまでの耐磁性能を備える。

 1950年代半ば、各社はそろって超耐磁時計をリリースした。IWC「インヂュニア」、オメガ「レイルマスター」、そして、ロレックス「ミルガウス」。いずれもムーブメントを軟磁性体で覆い、超耐磁性を与えた時計である。しかし、IWCを例外として、各社は耐磁時計の生産をやめてしまった。理由はいくつかあるが、最も大きな原因は、インナーケースを持つために、時計が大きく、重くなる点にあった。磁気を避けるために大きく重い時計を持つ。磁気にさらされる環境で働いているならともかく、普通の消費者には耐えられないことだったに違いない。

 2007年に発表された新しい「ミルガウス」は、耐磁時計としては相対的に薄いケースと、優れた装着感を実現した時計である。編集部による実測値は厚さ13.4㎜、重さ156g。超耐磁時計にもかかわらず、サイズや重さは常識的な範囲に留まった。

 ただし、時計に超耐磁性を与える手法は、かつてのミルガウスに同じである。ムーブメントを覆う「強磁性合金」が何かは不明だが、1000ガウス(-8万A/m)を意味する「ミルガウス」という名称にもなった高耐磁性は、現行品では最も高いもののひとつだ。加えて、この時計は搭載するムーブメントにも耐磁性がある。ニオブとジルコニウムの特殊合金であるパラクロム・ヘアスプリングは、従来のインバー系ヘアスプリング(ニヴァロックス1)に比べて、より高い耐磁性を持つ。磁気シールドがあっても磁気がムーブメント内部に浸入していると考えれば、ムーブメント部品も耐磁性に優れているに越したことはないだろう。

 実用性と超耐磁性を両立した新型ミルガウス。「食わず嫌い」のユーザーは多いようだが、実用品として考えると、これはお勧めできるロレックスの最右翼である。


OMEGA(オメガ)

軟磁性体でムーブメントを覆うのではなく、ムーブメントに非磁性体を使うことで完全な耐磁を実現する。かつて、IWCが取り組んだ試みに、オメガも挑戦した。それが、今年4月にバーゼルワールドで正式に発表される超高耐磁時計である。価格や発売時期など詳細はまだ不明だが、1万5000ガウス=120万A/m!という耐磁性能は、群を抜いて高い。

SEAMASTER AQUA TERRA >15000 GAUSS
(シーマスター アクアテラ >15000ガウス)

シーマスター アクアテラ

オメガ シーマスター アクアテラ >15000ガウス
2013年1月17日にスイス・ジュネーブで記者発表された新作。詳細は不明だが、ムーブメント内部に鉄を使わないことで、1万5000ガウスという超高耐磁性を実現した。ただし、かつてのIWCが温度変化と摩耗に苦しんだことを考えると、オメガがどのような対応策をとったのかは興味深い。自動巻き(Cal.8508)。耐磁性120万A/m。スペック、価格など未定。

 かつて、計測値で最大370万A/mを実現したIWCのインヂュニア・オートマティック50万A/mは、軟磁性体でムーブメントを覆うのではなく、ムーブメントの部品に非磁性体を使った超高耐磁時計であった。温度変化に弱いため、また、部品が摩耗しやすかったため、わずか4年で生産中止になったが、理論上は最も優れたアプローチであったと言ってよい。

 この試みを再現したのがオメガである。届いたばかりのプレスリリースだけでは詳細は不明だが、この1万5000ガウス=120万A/mという超高耐磁性能を持つ時計がどのようなものか推測してみたい。

 既存の超耐磁時計に対して、ETAの研究開発部長であるティエリ・コーヌス氏は「(時計内部の保護ケースが)ムーブメントの眺めを遮ってしまうことが美的観点から好ましくない」と指摘した。つまり、新しい超高耐磁時計はムーブメントに非磁性体を使い、しかもトランスパレントバックなのだろう。記者会見の写真を見ると、確かにケースの内部にインナーケースは見当たらない。キャリバー名は8508。推測するに、8500系同様、ヒゲゼンマイを非磁性のシリコンに置き換え、脱進機も非帯磁の素材に替えたのだろう。詳細は不明だが、プレスリリースには「ムーブメントそれ自体に鉄を含まない素材を使用」とある。

 少なくともスウォッチは、2010年の時点で軟磁性体のAFK502(通称パーマロイC)を使った超耐磁機構を開発していた。しかし、より高い耐磁性を得るため、ムーブメントに非磁性体を使うという試みに挑んだのではないだろうか。

 1万5000ガウスという超高耐磁性能を持つ新型シーマスター アクアテラ > 15000ガウス。その詳細は、4月のバーゼルワールドで明らかになるはずである。

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