「日本とフランスの架け橋になるような料理」。アンヌ=ソフィー・ピック氏による「ムッシュ ディオール 大阪」が心斎橋に誕生

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2026.06.26

2026年5月21日、大阪・心斎橋に誕生した壮観な「ハウス オブ ディオール心斎橋」。そこに女性シェフとして世界で最も多くミシュランの星を保持するアンヌ=ソフィー・ピック氏によるレストラン「ムッシュ ディオール 大阪」がオープンした。今回、フードジャーナリストであり『クロノス日本版』巻頭コラム「この世ならぬ美味のクリエイター」を連載する外川ゆいが訪問。詩情を感じる空間や料理の数々について、「楽しくおしゃべりしましょう」という優しさにあふれた言葉から始まったアンヌ=ソフィー・ピック氏のインタビューを織り交ぜながらご紹介する。

アンヌ=ソフィー・ピック

アンヌ=ソフィー・ピック
1969年、フランス南東部ヴァランス生まれ。1889年にアルデシュ県のサン=ペレーにて「オーベル ジュ・デュ・パン」を創業したソフィー・ピック氏を曽祖母に持つ。ビジネススクール卒業後、父親とともにヴァランスの厨房で働き、1997年、夫のデイビッド・シナピアン氏と店を引き継ぐ。2007年にミシュラン三つ星を獲得し、現在において「フランスで三つ星を獲得した唯⼀の⼥性シェフ」となった。2026年、東京・代官山に開業し、話題となった「ディオール バンブー パビリオン」内の「カフェ ディオール by アンヌ=ソフィー・ピック バンブー パビリオン」を監修。

「ディオール バンブー パビリオン」が開業。壮麗なカフェで代官山限定メニューに舌鼓

FEATURES

外川ゆい:写真・取材・文
Photographs & Text by Yui Togawa
[2026年6月26日公開記事]


ムッシュ ディオール 大阪が愛した南仏の別荘をイメージ

レストラン「ムッシュ ディオール」

メイン通りの脇にあるレストラン専用のエントランス。

 大阪の中心地、御堂筋と長堀通(ながほりどおり)が交わる交差点近くに「ハウス オブ ディオール心斎橋」は位置する。ラグジュアリーな有名ブランドが並ぶなかでも、波打つようなファサードがひと際エレガントな佇まいだ。メインエントランスに向かい、右手へと回り込むと、レストラン「ムッシュ ディオール 大阪」専用のエントランスが現れる。

 ちなみに「ムッシュ ディオール」という名を冠したレストランは現在パリとこちら大阪の2店舗。パリは、以前にフォーシーズンズホテル大阪の「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」にて紹介したヤニック・アレノ氏が監修している(参考:https://www.webchronos.net/features/126368/)。アンヌ=ソフィー・ピック氏は、ディオールのカフェを多く手掛けているが、レストランは北京に続き、今回日本で初めてオープンする運びに。「日本を初めて訪れた時から35年間温めてきた夢がかないました」とゲストとともに喜びを分かち合った。

レストラン「ムッシュ ディオール」

建築家ピーター・マリノ氏によるメインダイニング。

 一歩店内へと足を踏み入れると、その世界観に引き込まれる。壁一面に広がるラ コル ノワール城は、クリスチャン・ディオール氏が愛した南仏の別荘。こちらをイメージして造られた空間は、光と自然に包まれるような幻想的な空気となっている。真っ白なテーブルクロスの上には、ディオールのテーブルウェアが輝く。

 ラ コル ノワール城について、アンヌ=ソフィー・ピック氏はこう語る。「初めて訪れたのは、ディオールとのコラボレーションが始まった3年ほど前のこと。私の友人であり、ディオールの調香師でもあるフランシス・クルジャン氏と一緒に行きました。決して豪華絢爛ではなく、“アール ドゥ ヴィーヴル(暮らしの美学)”を大切にしている居心地のよい空間。キッチンがとても大きく、ディオール氏にとって料理をすること、そして料理でゲストをもてなすことはとても大事だったのでしょうね。本当に感動的な体験で、彼の愛した場所だということが伝わってきました。ピーター・マリノ氏が手掛けたこの『ムッシュ ディオール 大阪』の空間も細やかな素材ひとつひとつが美しく、別荘の庭園を思わせるグリーンをふんだんに使っている点がとても気に入っています」。

レストラン「ムッシュ ディオール」

プライベートなひと時を過ごすことができる個室も完備。

レストラン「ムッシュ ディオール」

銘酒に囲まれた圧巻のワインセラーには日本ワインも並ぶ。

 4階に位置するレストランは、46席あるメインダイニングとふたつの個室を完備。ひとつは8名まで利用できるプライベートダイニングルーム、もうひとつは厨房を望むシェフズテーブルで5名まで利用可能だ。さらに5席のバーカウンターもご用意。ワインセラーも素晴らしく、ワイン好きは長時間見入ってしまうセレクトだ。「随所に飾られたアート作品にも重きを置き、目を引く存在でありながら非常に調和がとれています」。店内は凛としながらも、優しい気持ちになれるような居心地のよい空気が流れている。


日仏それぞれの記憶が詩情あふれる一皿に

 日本で初めての自身のレストランをディオールと始めることができたことは大きな喜びであり、誇りであると語るアンヌ=ソフィー・ピック氏。「ディオールの名を冠したレストランで料理をするにあたり、最初にパリにあるディオールのアーカイブを訪れました。10年間オートクチュールを手掛け、成功を収めてきたムッシュ ディオールの作品たちは本当に素晴らしいものばかりです。それらとの繋がりを大切に考え、ビジュアルも大変重視しながら料理を創作しました」。その言葉の通り、運ばれてくる料理はいずれもまず美しさからして息を呑むものばかり。

レトワール ドゥ メール

「レトワール ドゥ メール」
ウニと蕎⻨茶のババロア、蜜柑とディルのコンディメント、キンレンカのクーリ。

 ディオールのラッキースターにもちなんだヒトデは、クリスチャン・ディオールが愛したノルマンディー地方に位置するグラン ヴィルのビーチを彷彿させる。刺繍と植物をモチーフに緻密に仕立てられた一皿は、まるで海の庭園のよう。蜜柑とディルが爽やかさを添える。「ウニは大好きな食材で、フランスでも好んで食されますが、やはり日本のウニは格別。蕎麦茶の香りは、初めて来日した時に出合った香りです」。供される料理には、日本とフランスの記憶からインスピレーションを受けた要素が共存しているのも興味深いところ。

 アンヌ=ソフィー・ピック氏の料理を語るうえで欠かせない要素がアロマだ。フランス南東部のヴァランスにあるレストラン「メゾン ピック」で提供されている料理はもちろんのこと、見事なガーデンからの四季折々豊かな香りが漂ってくる。好きな香りについて尋ねると「ひとつに絞ることは難しいのですが、あえて挙げるのならローズゼラニウムの香りです。バラの香りなのですが、青々しいグリーンのニュアンスがあります。日本ではなかなか見つからず、フレッシュなローズゼラニウムを使えるよう自分で植えました」。銀座や代官山に展開する「カフェ ディオール」にて提供されているケーキ「ラ ローズ ア ラ フランボワーズ」はローズゼラニウムの香りをまとっているので、ぜひご体験いただきたい。

レ ベルランゴ レオパード

「レ ベルランゴ レオパード」
コンテチーズフィリング、グリーンピース、ワサビとワイルドセロリソース。

 続いては、ヴァランスの「メゾン ピック」を代表するメニュー。ベルランゴというのはパスタなので、それをフランス料理に使うというのは実に大胆な試みだ。もっとも、ベルランゴはドローム地方の郷土料理であるラヴィオル・ド・ロマンへのオマージュでもあり、「ムッシュ ディオール 大阪」では、黄色いプレーンな生地、炭を使った黒い生地、カカオを使った赤い生地、それらを組み合わせてディオールを象徴する柄のひとつであるレオパードをデザインするという斬新なアレンジを加えている。まるでディオールのドレスをまとっているかのようなビジュアルは、クリスチャン・ディオールの永遠のミューズ、ミッツァ・ブリカール氏への美⾷的な観点からのオマージュ。パスタの心地よい歯ごたえを感じると、芳醇なチーズが溶け出し、ワサビとワイルドセロリを使った青々しい爽やかなソースとのコントラストも見事。

 インタビューの際、日本茶をもてなしてくれたアンヌ=ソフィー・ピック氏。日本を象徴するような心落ち着く香りだという。「青々しさに加えて、茶葉のもたらす苦みにも引かれます。今回のソースからも伝わったでしょうか。また、苦みは柑橘にも通じるものです。南仏にあるジャバラというレモンに似た柑橘が好きで自分でも育てているんですよ」。苦みと聞き、日本には山菜があると話題に出すと「実は今まさに、日本人シェフと厨房で模索しているところ。もうすぐ完成します」と教えてくれた。今後展開されていくメニューも楽しみでならない。

 日本ならではの食材が、違和感なくフランス料理に溶け込むような表現に驚かされる。アンヌ=ソフィー・ピック氏が初めて日本を訪れたのは21歳の時だという。「当時学生で、今日も一緒にいる夫と来ました。その頃の日本は欧州ではまだまだミステリアスな存在で、私にとってとても衝撃的であり、印象に深く残るものばかり。その日からずっと日本に恋をし続けています。学業を終えて、ヴァランスの父のレストランを継ぐことを決めましたが、日本の素材や文化の要素を取り入れたいと思いました。日本との出合いがあったからこそ、今の私、私の料理があります」。

ル カレ

「ル カレ」
炙り焼きサバ、オシェトラキャビア、とろけるポロネギとマスタード シード、抹茶とシェリービネガーのサバイヨン。

「日本とフランスの架け橋になるような料理を作り始めた第一歩と呼べる作品」と紹介してくれたのが、艶やかなキャビアにサバを合わせたメニュー。まるで卓越した職⼈の⼿仕事のように、キャビアの粒が丁寧にちりばめられている。中央には穂紫蘇とクルトンを並べ、服の縫い目のようなディテールをプラス。「フランス的でありながら、日本の食材を生かすようなソースが特徴です。和食ならではの出汁、そこに抹茶バター、シェリービネガー、レモンを加えています。初めて自分のレストランで出した時、偶然にも日本人のお客様がいらしていたので、その反応が本当に怖かったのですが、おいしいと言ってくださりました。今回、さらに濃厚なサバイヨンソースになっています。皆さまに気に入っていただけると嬉しいです」。

 今回いただいた3皿すべて、鮮やかなグリーンのソースが目の前で注がれたことも印象的だったため、ソースの存在について尋ねてみた。「ソースはフランス料理の根幹です。しかしながら、私が料理界に入った頃、フランス料理のソースは重過ぎると悪評が立って、ライトなものが求められ、フランス料理からソースが消えかかっていました。そこで、伝統的でありながらも軽やかなソースを作りたいと考えたのです」。


「オートクチュール」と「オートガストロノミー」

ル ミルフィーユ ブラン

「ル ミルフィーユ ブラン」
バニラクリームとジャスミン。

 デザートに運ばれてきたのは、アンヌ=ソフィー・ピック氏のシグネチャーであるミルフィーユ。「ムッシュ ディオール 大阪」の開業にあたり、表面にデザインした「千鳥格子」もまたディオールの象徴的なモチーフのひとつ。アイコニックな⾹⽔である「ミス ディオール」を飾るために、「千⿃格⼦」を採⽤したことに由来する。本当にミルフィーユ? と目を疑ってしまうが、スプーンで割ると確かにミルフィーユが姿を現す。と同時に、フレグランスのように、バニラとジャスミンが漂ってくる。ちなみに、コースのなかで供されるパンにもディオールの世界観がたっぷりと反映されているので、訪れた際のお楽しみに。

 もともとファッションデザイナーに憧れていたアンヌ=ソフィー・ピック氏。ディオールのレストランを監修することについて次のように語ってくれた。「『オートクチュール』と『オートガストロノミー』、その言葉からも分かる通り、共通する部分がとても多くあります。ディオールの仕事をするというのは、私にとって大きな喜びであり、誇りです。ディオールの世界をよりよく知ることができました。ディオールは女性の美しさを最大限に引き出すことができるクリエイターで、例えば、女性のウエストを美しく見せるバージャケットは、私にとってディオールの代名詞のような名品です。また、料理をしていないときにはフレグランスも愛用していますし、メイクアップアイテムもとても優れていて大好きです」。この日は真っ白なコックコート姿に、ディオールのネイビーのスニーカーを合わせていた。

 35年間夢見続けたというアンヌ=ソフィー・ピック氏の言葉の通り、日本での記憶や経験の積み重ねがあってこそ生まれた料理の数々は、こちらでしか出合えないものばかり。食事もインタビューで語られた言葉もまさに夢のようなひと時。料理の素晴らしさだけでなく、多くの人々がアンヌ=ソフィー・ピック氏の人柄を敬愛する理由が伝わってきた。レストランが人の心を豊かにしてくれる、そう再認識させてくれる一軒、ぜひ大切な方と訪れ、思い出深い時間を過ごしていただきたい。


店舗概要

ムッシュ ディオール 大阪
住所:大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-9-17ハウス オブ ディオール 心斎橋 4F
TEL:06-7632-1450
営業時間:11:30~15:00、18:00~22:30
定休日:月曜日、火曜日
価格:ランチ1万2000円~、ディナー3万円~(サービス料15%別)
URL:https://www.dior.com/fashion/stores/ja_jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC/osaka/1-9-17-shinsaibashisuji
予約:https://www.tablecheck.com/ja/monsieur-diorosaka/reserve/landing



Contact info: クリスチャン ディオール Tel.0120-02-1947



外川ゆい氏のプロフィール

外川ゆい

フードジャーナリスト。つくり手のストーリーや思いを伝えることを信条に、レストラン、ホテル、スイーツ、お酒など、食にまつわる記事を執筆する。『クロノス日本版』巻頭連載IN THE LIFEにて「この世ならぬ美味のクリエイター」を担当。


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