腕時計とロボット型スタンドが一体になった、MB&F「HM12 ザ・ガーディアン」

FEATURE WatchTime
2026.10.21

2026年6月、MB&Fは腕時計とロボット型のスタンドがセットになった「HM12 ザ・ガーディアン」を発表した。これまで以上にアヴァンギャルドな本作は、ブランド史上最も複雑な「オロロジカル・マシン」である。

Text by Zen Love, originally published by WatchTime.com
[2026年10月21日公開記事]


約1500個ものパーツで構成されるMB&F「HM12 ザ・ガーディアン」

 先駆的な時計を生み出してきた20年の歴史の中で、MB&Fはブランドのシグネチャーである「オロロジカル・マシン」をわずか11作しか製作してこなかった。今回発表された「HM12 ザ・ガーディアン」はその12作目にあたり、まさに同ブランドの真骨頂とも言える作品となっている。言い換えれば、腕に装着する時計として実現可能もしくは常識的な範疇を完全に超えているのである。そして時刻のみを表示する時計でありながら、少なくともある意味において、これまでで最も複雑なオロロジカル・マシンである。

 この点は、前衛的な腕時計を生み出すことで有名なこのブランドを知っている人なら誰しもが注目するはずだ。MB&Fがこれまでに手掛けたモデルの中にも、精巧な作品は数多くあった。何をもって“複雑”とするかは難しいが、ひとつ数値化できる要素がある。パーツの数である。この観点から見ると、HM12はムーブメントだけで646個のパーツを使用しており、チタン製のケースは84個ものパーツで出来ている。時計全体のパーツ数は730個で、これにはロボット型の「コンパニオン(スタンド)」を構成する755個のパーツは含まれていない。

 しかし他のMB&Fの作品同様、本モデルは部品の集合体以上の意味を持っている。この新作は、コンセプトや技術的ディテール、そして小さなサプライズが詰まった抽象的なスペクタクルなのである。

ロボットの“顔”にもなる、遊び心にあふれたタイムピース

 HM12を時計として見ると、最初は「パレイドリア(受け取った視覚情報に本来そこに存在しないパターンを見いだしてしまう現象)」を起こして文字盤が顔のように見えると思うかもしれない。これはあなたの頭がおかしいわけではない。そもそもこれは普通の現象であり、この時計の場合、かなり意図的なものでもあるのだ。

 すでにこの記事の写真を見て、本作の基本的なコンセプトを理解した方もいるだろう。この時計は簡単にストラップから取り外すことができ、付属する大きなロボットの頭に装着できるのだ。だが、いじったり遊んだりできるのは、それだけではない。

シールドを格納した状態のHM12。

 この時計には、耳のようなふたつのリュウズがある。分表示ディスク側のリュウズは通常通り巻き上げと時刻調整を行うためのものだ。目のようにも見える文字盤上の2枚のディスクは、それぞれ時と分を表示する。一見すると従来の針を備えた文字盤のようであるが、この針は固定されておりディスクが回転することで時刻を表示する。時表示のディスクは1時間ごとにジャンプし、分表示のディスクは常に少しずつ回転する。これらが時刻表示機能のすべてであり、口にあたる位置にはマイクロローターが、そして額にあたる位置にはフライングトゥールビヨンが配されている。では、もうひとつのリュウズの機能は何だろうか?

 時表示ディスク側のリュウズは、「シールド」を展開・格納するためのものだ。シールドが格納されている時、時計全体はモノクロで、人の顔のような印象は薄い。シールドはブルーまたはグリーンで、「顔」の上下、そしてふたつのディスク上部をカバーするようにベゼル(と呼んでいいか分からないが)の下から現れる。シールドが展開されている時、顔は少し下を向き、しかめっ面をしているように見える。実用的な目的はあまりないが、ディスクの一部を隠すことで現在の時刻に着用者の注目を集めるという役割がある。

シールドを展開したHM12のグリーンモデルとブルーモデル。

 このシールド機構だけで200個以上のパーツが使われており、リュウズを回すと心地よいクリック感とともに段階的に展開されていく。必要に応じて途中まで展開することもでき、最大限展開した時にリュウズの噛み合わせが外れる仕組みだ。シールドの色は幅22cm、高さ38.2cm、重量約15kg(台座含む)のロボット型スタンドのハイライトカラーと同じだ。このロボットの胸の中央には、機械式温度計が配置されている。

 ロボットの腕は上げ下げすることができ、左腕にはSFの武器のようなものを携えている。これは着脱可能なUVライトで、蓄光機能を楽しむためのものだ。右腕にはバトルシールドを持っているように見えるが、これも実際はロボットや時計のディテールを鑑賞するためのルーペである。これらのアイテムをロボットに“装備”し、時計をロボットの顔部分に装着してテーブルクロックとして使用するなら、デスクに置くのが最適だ。時分表示のディスクは小さく、遠くに置くと少々視認が難しいだろう。

マキシミリアン・ブッサーとマキシミリアン・マーテンスのコラボレーションプロジェクト

 MB&Fのタイムピースにあまりなじみがないという読者は、おそらく頭がパンクしそうになっていると思う。だが何年も同社を追いかけてきたという人は、おなじみのコンセプトや特有のシグネチャーに気が付いているだろう。SFへのオマージュは同社にとって基盤となるものであり、ロボットのモチーフはトゥールビヨンや格納式の「シールド」というコンセプトと同様に繰り返し登場している。MB&Fはこれまでにもクロックメーカーのレペとコラボレーションしたロボット型の置き時計を製作しているが、腕時計と組み合わせたのは今回が初である。なお今回のロボットもレペが手掛けたものだ。

 モジュール形式というコンセプトは時計業界で時々浮上するものであるが、このHM12のロボットほど突き詰められたものはほとんどない。そしてこれは、バックからぶら下げるために作られたスウォッチの「ロイヤルポップ」のようなものではない。むしろ昔のジャガー・ルクルトやカルティエ、そして近年ではヴァシュロン・コンスタンタンがロールス・ロイスとの協業で手掛けたような、ダッシュボードに格納できるポケットウォッチやクロックを想起させる。もちろん本作はダッシュボードではなく、手元と温度計付きロボット型スタンドの間を行き来するのである。

 テーマとしては、どちらにしても筆者にとっては『トランスフォーマー』やSF定番の内部に人間が搭乗して操縦する巨大ロボットが思い浮かぶ。実際、本作に最も近い類似例はG-SHOCKとトランスフォーマーのコラボレーションだろう。このコラボレーションでは、G-SHOCKがストラップごと、変形するロボットに装着可能であった。もちろんこの比較は表面的なものであり、MB&Fの「HM12」はケース、ムーブメント、そしてロボット本体に至るまでハイエンドな仕上げが施され、精巧に設計された高級時計である。筆者個人の意見では、クリエイティブな視点において本作が最も優れているのは、解釈の余地を残していることであろう。

手首回り17cmでのリストショット。

 また、MB&Fの根幹を成すのは、腕時計というものの存在自体に挑戦するほどの前衛的なデザインであろう。ファンは自らの想像を超えた、考えもしなかったものを求めるが、HM12はその形状において、他のいくつかのモデルほど極端だというわけではない。驚きはむしろ、全体にわたるアイデアの組み合わせにある。だが、時計というより幅広い文脈において、本作は非常に型破りであり、身に着けるものとしては実に奇妙なものである。私のような17cmの手首サイズにとってラグからラグが49.3mmというサイズは大きいが、上部可動式のラグとチタン製ケースの軽さによって着用感が向上している。

 コンテンポラリーな外観と対照的に、この時計のケースバックからは伝統的な時計作りの要素を鑑賞することができる。グレイン仕上げの地板はポリッシュ仕上げやヘアライン仕上げが施された部品とコントラストを成し、ローターにはカリ・ヴティライネンのチームによるギヨシェ装飾が施されている。約84時間のパワーリザーブを備えるこのムーブメントは、HM12のプロジェクトのために4年以上の歳月をかけて特別に開発されたものだ。

 本作は、MB&Fの創立者であるマキシミリアン・ブッサーが、エリック・ジルーではなくマキシミリアン・マーテンスとコラボレーションした初のプロジェクトでもある。ジルーはブランド初期からの主要なデザインパートナーであり、他のMB&Fのプロジェクトにも携わっている。一方、マーテンスはMB&Fが過去に発売したクロックやオルゴールのプロジェクトに参加してきた。「HM12は単なる時計ではなく、完全な時計学的コンセプトである」と同社の資料にあり、ロボットについては「ただのスタンドではなく、相棒である」と述べている。

MB&F「HM12 ザ・ガーディアン」
自動巻き。86石。パワーリザーブ約84時間。Tiケース(縦49.3×横43.6mm、厚さ13.8mm)。世界限定12本。28万スイスフラン。

 当初は創業20周年記念モデルとして2025年に発表すべく企画されていたHM12だが、その複雑さから計画に遅れが出て、現在は次の10年の始まりとなるモデルとして定義されている。発表に先駆け、MB&Fはアメリカ・ニューヨークのマンハッタンに新しくオープンしたラウンジで本作をメディアに公開した。このラウンジは、ブランドのファンにとって訪れる価値のある場所だ。HM12の価格は28万スイスフランで、グリーン、ブルー、パープルの各色12本限定で販売される。今後、バリエーションの追加や限定エディションが発売される予定はないという。


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