カシオの高級腕時計ブランド「オシアナス」から、フラッグシップライン「マンタ」の新作「OCW-SG1000MC-1AJR」が登場した。世界限定300本の本作は、海のうねりを表現したマーブルセラミックベゼルと、宇宙技術を応用した「ガリウムタフソーラー」を採用。独創的な外装表現と先進技術を融合させた意欲作だ。今回は実機を通して、その仕上がりや装着感、機能性を検証するとともに、高級腕時計として進化を続けるオシアナスの現在地を探っていく。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2026年10月20日公開記事]
オシアナスの新作フラッグシップモデルをインプレッション
カシオが展開する高級腕時計ブランド「オシアナス」。同ブランドは、「Elegance, Technology」をコンセプトに掲げ、上質な外装と、ソーラー充電や電波受信、スマートフォンリンクといった先進技術を融合させてきた。2004年の誕生以来、実用性と審美性を両立させたアナログウォッチとして、独自の地位を築いている。
そんなオシアナスの中でも、フラッグシップに位置付けられるのが「マンタ」だ。薄型で優美なフォルムや、チタンを主体とした精緻な外装を特徴とし、機能性だけにとどまらない高級感を追求してきた。近年では、伝統工芸や新素材を取り入れることで、時計としての表現の幅をさらに広げている。
今回取り上げる「OCW-SG1000MC-1AJR」も、そんなマンタの進化を象徴する1本だ。「Ocean Surge」をテーマに、力強い海のうねりをマーブルセラミックによって表現。ブラックを基調とした外装と立体的なダイアルを組み合わせることで、従来のオシアナスとは一味違った世界観を作り出している。
本作は「CASIO WATCH Partner Shop」で取り扱われる、世界限定300本の特別モデルだ。各個体にはシリアルナンバーが与えられ、数量限定ならではの特別感も備えている。
そして注目したいのが、その価格設定である。従来のオシアナスから考えると、かなり高額な部類に入る。もはや、少し高価なソーラー電波時計という枠には収まらない高級腕時計として、機械式時計を含む他ブランドの製品とも比較される存在になったと言ってよいだろう。

ガリウムタフソーラーを採用することで実現したデザインの自由度の高いダイアルや、力強い海のうねりを表現したマーブルセラミックベゼルなど、オシアナスのブランドコンセプトである「Elegance, Technology」を体現した数量限定モデル。ガリウムタフソーラー。フル充電時約18カ月(パワーセーブ時)。Ti+DLCケース(直径43mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。世界限定300本。74万8000円(税込み)。2026年11月発売予定。
マーブルセラミックスで表現した海の世界
本作最大の特徴は、何と言ってもそのベゼルだ。ホワイトとブラックが複雑に混ざり合う大理石のような素材が、「マーブルセラミックス」である。異なる2色のセラミックス素材を混合成形することで、複雑な模様を生み出したものだ。セラミックスは原料を成形し、高温で焼成することによって作られる。本作ではその製造工程を生かし、均一な色や模様を再現するのではなく、素材が混ざり合うことで生まれる偶然性を意匠へと取り込んでいる。
テーマとなったのは、力強い海のうねりだ。ブラックの中にホワイトが入り込み、ある箇所では大きく、また別の箇所では細く流れるような模様を描く。その境界にはわずかにグリーンを帯びたように見える部分もあり、光の当たり方によって濃淡や色味が変化する。セラミックス特有の艶やかな光沢も相まって、暗い海面に白波が立つような情景を想起させる。
さらに、ベゼルの外周は十二角形にカットされ、側面にもファセットが与えられている。単に模様の珍しさを楽しませるだけでなく、複雑な面構成によって光を受け止め、見る角度によって異なる表情を出しているのだ。

ここで注目したいのが、ベゼル全体をセラミックスで作り上げている点である。セラミックスは硬度が高く、傷に強い一方で、金属のような粘りを持たない。そのため、衝撃によって欠けたり割れたりする可能性があり、圧入などの力が加わる部品として扱うには難しさがある。腕時計では金属製ベゼルにセラミックインサートを組み込む構造が一般的だ。
しかし本作では、マーブルセラミックスそのものを立体的なベゼルとして成形している。これにより、正面だけでなく側面からも模様を楽しむことができる。ベゼルの形状と素材表現が一体となっているからこそ、これほどダイナミックな外観を実現できたのだろう。
ベゼルの個性に目を奪われがちだが、ダイアルの造形も見逃せない。ブラックを基調としたモノトーンのデザインでありながら、複数のパーツを重ねた立体的な構造によって、奥行き感のある表情を作り出している。
中央のメインダイアルには、艶やかなブラックセラミックスのプレートを採用。ベゼルと素材を共通化することで、外装全体に統一感を与えている。一方、インダイアルの周囲には立体的なリングを配し、黒一色でありながらも豊かな表情を生み出した。
特に目を引くのが、ダイアル外周の構造だ。浮遊しているかのようなインデックスの下には金属製のデイトディスクが露出している。ディスクにはグレーの蒸着処理が施され、さらに外周にはミニッツマーカーと都市コードを配したブラックIP仕上げのダイアルリングを組み合わせている。
このような構造を実現できた背景には、「ガリウムタフソーラー」の存在がある。一般的なソーラーウォッチでは、発電に必要な光を取り込むため、ダイアルの素材や構造に制約が生じる。しかし本作では、宇宙技術を応用した高効率なソーラーセルを採用することで、発電に必要な受光面積を大幅に縮小することに成功している。そのソーラーセルをスケルトン仕様のデイトディスクの下に配置することで、メインダイアルにセラミックスを用いることを可能としたのだ。
時分針にはヘアライン仕上げが施され、艶やかなダイアルとの質感の違いによって存在感を確保している。インデックスも明瞭で、時刻の判読性は良好だ。一方で、日付表示はダイアルの奥まった位置にあるため、やや読み取りにくい。立体的な構造を優先したことによる弱点と言えるだろう。ただし、時刻表示という腕時計本来の役割については、視認性、判読性ともに十分な実用性を備えていると言えるだろう。

DLCコーティングを施したチタン製の外装
ケースとブレスレットには、軽量かつ耐食性に優れたチタンを採用する。表面にはDLCコーティングを施すことで、精悍なブラックの色味と耐傷性を与えている。
ケースは直線を多用したシャープな造形だ。リュウズガードや、がっしりとしたラグなど、全体的にスポーティーな印象にまとめられている。ラグ上面やケースサイドなど、ヘアライン仕上げを主体としつつ、随所にポリッシュを組み合わせることで、立体的に仕上げている点も魅力だ。光の当たり方によって鏡面部分が輝き、ブラックのケースからシャープな輪郭が浮かび上がる様子を楽しむことができる。
プッシュボタンは、ケースからの突出を抑えた背の低いデザイン。袖口への引っ掛かりが少なく、日常的に使用するうえでも好ましい。多角形に仕上げられたリュウズには、オシアナスのブランドロゴが浮き彫りにされている。

ケースバックにも本作ならではの意匠が与えられている。海のうねりをモチーフとした渦巻き模様が刻まれ、表側のマーブルセラミックベゼルと呼応している。普段は目にする機会の少ない部分だが、オーナーだけに見える作り込みは、特別なモデルを所有する満足感にもつながる。

ブレスレットは、矢羽根をモチーフとしたコマで構成されたマンタらしいデザインだ。直線的なケースとのつながりも自然で、全体として統一感のある仕上がりになっている。バックルはプッシュボタンによって開閉する三つ折り式。表面にはブランドロゴが浮き彫りにされている。
ただし、この価格帯の時計として考えると、ブレスレットには改良の余地ありと感じる。デザインは既存のマンタと共通する部分が多く、調整方法もピンを打ち出すCリング式だ。コマの連結にしなやかさを与えやすい手法だが、価格を考えればより堅牢なネジ式を用いる方が一般的だ。
また、バックルにもう少し凝った微調整機構があれば、さらに使い勝手が高まったはずだ。ひとつひとつのコマが比較的大きいため、手首回りによっては最適な長さに調整しにくい可能性がある。一段階のみの調整機構はあるが、季節や手のむくみなどを考えれば、多段階の調整機構が欲しいところだ。


オシアナスらしい多機能性
独創的な外装が特徴の本作だが、オシアナスならではの電子技術を活用した多機能性も魅力のひとつ。まず便利なのがクロノグラフ機能である。8時位置のプッシュボタンはモードの切り替えに用いられ、押下することでクロノグラフモードへ移行できる。
3時位置のインダイアルは、時分同軸の積算計として機能する。計測した時間を、通常の時計と同じような感覚で読み取ることができるため、複数の積算計に目を移す必要がなく、計測時間を直感的に把握しやすい。
標準電波受信による時刻修正にも対応し、光による発電で動力を確保するため、日常的な使用で電池交換や時刻合わせの手間を意識する機会は少ない。手に取ったときにいつでもすぐに使えるのは頼もしい。
Bluetoothによるモバイルリンク機能も備えており、専用アプリ「CASIO WATCHES」を通じてワールドタイムの設定をはじめ、各種機能へアクセスできる。複雑な操作をスマートフォン側に任せられるため、多機能でありながら使いこなしやすい。
存在感と軽快さを両立
実際に手首に載せてみると、まず印象的だったのが、その独特な重量感だ。チタン製の腕時計というと、手に取った瞬間に拍子抜けするほど軽いモデルも少なくない。しかし本作は、軽快でありながらも、どこかしっかりとした感触が残る。ステンレススティール製の時計ほど重くはないものの、適度な重量感があるのだ。おそらく、立体的なセラミックベゼルが関係しているのだろう。
外装はヘアライン仕上げを主体としているため、過度に光を反射して主張することはない。一方、マーブルセラミックベゼルは個性的だ。光の当たり方や見る角度によって模様が浮かび上がり、腕時計として十分な存在感を放つ。とはいえ、色使いはホワイトとブラックを基調としたモノトーンである。鮮やかな色彩で目を引く時計とは異なり、派手さや華美な印象にはならない。
ビジネスシーンでも使いやすいのは、こうしたバランスによるところが大きいだろう。ブラックの外装は落ち着いており、ジャケットの袖口からのぞいた際にも悪目立ちすることはない。しかしながら近くで見れば、マーブルセラミックスの複雑な模様が目に入る。趣味性と汎用性の両立という点でも、本作は優等生である。
さらに、ベゼルの模様が1本ずつ異なることも魅力だ。その製法ゆえに、まったく同じ模様の個体は存在しない。自分だけの1本を所有しているという、密やかな特別感を味わうことができるのだ。
着用感も良好だ。軽量なチタン外装によって、長時間身に着けていても手首への負担は少ない。時刻の視認性と判読性も十分で、日常使いで気になる場面はほとんどなかった。
もし気になる点を挙げるなら、やはりやや奥まった日付表示と、多段階の微調整機構を持たないバックルだろう。とりわけ後者は、腕時計のフィット感を重視する人にとって、購入前に確認しておきたいポイントである。

高級腕時計ブランドとして進化を重ねるオシアナス
かつてのオシアナスには、少し上質なハイテクアナログウォッチというイメージが強かった。ソーラー充電や電波受信などの便利な機能を備え、チタン外装によって軽快に使えるという、実用時計としての完成度の高さこそ、ブランドの大きな魅力だったのではないだろうか。
しかし近年、その立ち位置は徐々に変化しつつある。江戸切子をはじめとする伝統工芸や、新しい素材、複雑な外装加工を積極的に取り入れることで、機能性だけにとどまらない、独自の審美性を追求するようになった。それに伴い価格帯も上昇し、高級腕時計ブランドとしての存在感を強めている。
今回のOCW-SG1000MC-1AJRも、その流れを受け継ぐモデルと言えるだろう。マーブルセラミックスによって海のうねりというテーマを表現し、ガリウムタフソーラーによってダイアルデザインに新たな自由度を与えた。
ベゼルの複雑な模様も、ダイアルの立体的な構造も、その背景には磨き上げられた技術がある。オシアナスの立ち位置は変わっていっても、「Elegance, Technology」というブランドコンセプトは微塵もブレていない。
正直に言えば、本作が発表されたとき、筆者はその価格に驚いた。実用時計の極致であるソーラー電波時計としては、かなり挑戦的な価格設定であったためだ。しかし、実機を手に取り使ってみれば、その驚きもすぐに過去のものとなった。紛れもない、“高額機”ではなく“高級機”なのである。
もちろん、ブレスレットやバックルなどの個々の要素を取り出せば、同価格帯の高級腕時計と比較して、改善の余地はあるだろう。しかし本作が放つ世界観は唯一無二だ。マーブルセラミックスによる有機的な表現やセラミックスの光沢を生かした立体的な構造のダイアル、そして機械式にはない先進技術。これらが一体となって生み出す魅力は、他の高級腕時計と比べても決して見劣りするものではない。
手の届きやすい価格帯のモデルを展開しながら、実験的な素材や技術を投入した高級モデルによって、新たな可能性を切り開いていくオシアナス。OCW-SG1000MC-1AJRは、その現在地を示す好例である。



