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RICHARDMILLE TECH 2018 進化するケーブルサスペンション(1/1)

RICHARDMILLE TECH 2018
DNA of EXTREME TOURBILLON


進化するケーブルサスペンション

リシャール・ミルがファーストモデルのRM 001を床に放り投げた瞬間から、腕時計トゥールビヨンに対する価値観は大きな転換点を迎えた。トゥールビヨンとはケースに鎮座させておくものではなく、もっと積極的に使い込むもの……。それだけのタフさが、リシャール・ミルのトゥールビヨンにはあったのだ。この連載では同社の根幹を成すアイデンティティである“エクストリーム・トゥールビヨン”の神髄に迫ってゆく。

三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
鈴木裕之:取材・文 Text by Hiroyuki Suzuki
グレード5チタン製の地板を、輪列を支える中央部分と、ケースに固定するための外周部に分割した「RM 53-01」のムーブメント。外枠部分は、便宜的に“インナーベゼル”と呼ばれているが、実際にはムーブメント単体でフローティング構造が完結している。外枠を4分割としたのは、輪列受けの地板部分にテンションをかけながら、適正な位置に組み込むため。

RM 53-01 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ
ポロ競技中に生じるあらゆる衝撃に対応するエクストリーム・トゥールビヨン。ナダルモデルなどで試みられたケーブルサスペンションを発展させ、立体的な“吊り橋構造”としたことで、耐衝撃性と審美性を向上させている。手巻き(Cal.RM53-01)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。カーボンTPT®(縦49.94×横44.5mm。厚さ16.15mm)。50m防水。世界限定30本。予価1億230万円。

 歴代リシャール・ミル作品の中で、最も特異な外観を持っていたモデルが、2012年に発表された「RM 053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」だった。ポロ競技中に起こりうる、あらゆる衝撃に耐えることを目的に開発されたこの〝初代マクドナウモデル〞は、風防に相当する大部分を、チタンカーバイト製のプロテクトカバーで覆っていた。通常の風防に該当する部分は、わずかに傾けて配置されたふたつの小窓だけ。いわゆる〝リシャール・ミルの鉄仮面〞である。この特異なケースの中にムーブメント自体を傾けて搭載するため、通常のハーフサイズとなる専用輪列のトゥールビヨンが開発され、それが後に香箱とキャリッジをほぼ同軸に配置したコンパクトトゥールビヨンへと発展して、同社のクリエーションの幅を大きく広げていったという点に前号では触れた。いよいよ今回からは、RM053の直接的な後継機となる「RM53-01トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」について、2回に分けてレポートしてゆく。まずは〝ムーブメント編〞だ。

 RM53-01、つまり最新の〝2代目マクドナウモデル〞開発の主眼は、プロテクトカバーでムーブメントを覆うことなく、現在の標準的なリシャール・ミルのデザイン性に沿わせることにあったという。つまり、通常通りにムーブメントを見せることが、RM53-01の必須課題とされていた。実際には〝堅牢な鎧〞となるケース開発が先行してゆくのだが、ほぼ通常と変わらないサイズ感のトノーケースで〝初代マクドナウ〞と同等以上の耐衝撃性を発揮できる見込みが立つと同時に、ムーブメント開発も一気に加速してゆくことになる。基本的な構想は、ケーブルサスペンションシステムをさらに洗練させること。同社自社工房「オロメトリー」でムーブメント担当テクニカルディレクターを務めるサルヴァドール・アルボナ氏に、ミル氏本人がリクエストした言葉を引用するなら「BM27-01トゥールビヨン ラファエル・ナダルのシステムで、RM56-02トゥールビヨン サファイアの美しさを」となる。実際の設計を見ると、RM27-01やRM56-02が、平面方向のテンションのみでムーブメントをフローティングさせていたのに対し、RM53-01ではワイヤーの取り回しがより立体的に改められている。アルボナ氏によれば、吊り橋のイメージだ。「直径0.27ミリのケーブルをバランス良く配置することが最大の課題でした。支点をいくつにして、ケーブルの曲げ付けを工夫して〝流れ〞を組み立てること。それは衝撃に耐える美しさを構築することでした」。80ページの図はその概念を表したイメージだが、主塔を表す水色の線がケーブルを固定するインナーベゼル、赤線がケーブル(吊り橋の図ではケーブルとハンガー)、主桁を表す青線が実際にケーブルで支えられる地板と受けを模して描かれている。実際には、吊り橋ではなく斜張橋に近い構造なのだが、優雅なアーチを描く輪列受けまで構造材の一部と捉えれば、まさしく言葉通りの〝ブリッジ〞そのものと呼べるだろう。もっとも、RM27-01やRM56-02のインナーベゼルはあくまでケース側のパーツであり、ケーブルを介してムーブメントとケースを繋いでいたのだが、RM53-01ではインナーベゼルを独立させて、ムーブメントの外枠として使っている。つまりRM53-01は、ムーブメント単体でフローティングサスペンションを完結させているのだ。この点が、従来のケーブルサスペンションシステムとの大きな相違点だ。

アーチを描く受けを介して、立体的な交叉を見せるRM 53-01のケーブルサスペンション。ケーブル自体の細さは直径0.27mm。プーリー数にも大きな変化はないが、耐衝撃性能は格段に向上している。

バックケース側から見たRM 53-01。こちら側にケーブルの取り回しはないが、受け自体は大きなアーチを描いている。機能上は不必要なディテールだが、“見せるムーブメント”であることが分かる。

 実際の耐衝撃性は5000Gsであり、スペックだけを見れば1万Gsを超えるナダルモデルに対して見劣りするかもしれない。ただしここで注意しなければならないのは、両者の衝撃に対する考え方の違いである。ナダルモデルはラケットを通して伝わる間接的な衝撃に重点を置いているのに対し、マクドナウモデルが備えるべき衝撃とはもっと直接的なものだ。つまり落馬したり、馬に踏まれたり、マレットがヒットしたりといった、直接的な破損にも備えなければならないのである。オロメトリーで外装設計を担当するシャルル・ペラン氏の証言によれば「RM53-01の設計仕様書に重量規定はなかった」。またアルボナ氏も「ナダルモデルの1万Gsというスペックは、驚異的な軽さがあってこそ。今回のマクドナウモデルは、ナダルモデルの4倍近い重量(ナダルの約20gに対してマクドナウは約80g。一般的に言えばどちらも圧倒的に軽い)があっても5000Gsを達成している」と強調する。リシャール・ミルの作るエクストリーム・トゥールビヨンには、必ず明確な開発目的が存在する。RM53-01では、重量面は無視してでも、ポロ競技で実際に使えることを第一としたのである。

ムーブメント両側に設けられたアーチ状の受けによって、立体的な“吊り橋構造”を実現したRM 53-01のムーブメント。ケースサイズ自体は標準的なスケールに収まっているものの、断面図からも分かる通り、厚み方向にはかなりのボリュームがある。これが立体的なケーブルサスペンションを搭載可能とした。
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